第37話 USBメモリー

「ところで、あの石田兄妹って何者なんだ?あの兄貴の方は既に人間じゃないぞ。それに妹の方だって、調べたところ実家にはそれらしい娘は居ないんだろう」

「大臣が言うには、妹は化け猫らしい。兄はその化け猫から力を貰っているという事だ」

「そんなの信じられるか。見ているとあの二人は、社会の片隅で慎ましやかに生きている健気な兄妹にしか見えないぞ」

「こんな、宇宙に人が行く時代に、化け猫の話自体、信じられないがな」

 カナレの事は大臣の近衛隊という連中には知れ渡っているみたいだ。


「それで、ウィルスの方は完成したのか?」

「ああ、このUSBメモリーに入っている。証拠を残さないために、今はコピーを取っていない。

 後はどこから、拡散させるかという事だ。ここからだと直ぐに足がつくからな。

 どこかのネットカフェという手もあるが、一応身分証明とか取られると、直ぐに分かってしまう。

 一番良いのは、海外に行って広める方法だろうな」

「そうだな、東南アジアのエージェントに話をつけよう。

 その時は、東南アジアに観光客として飛んでくれ」


「カナレ、男たちの部屋からウィルスの入ったUSBメモリーを奪えないか?」

「様子を見て部屋に入り、USBメモリーを奪います」

 だが、いつまで経っても男たちは部屋を離れようとしない。

「カナレ、そのマンションはここから行ける距離にある。

 俺が今からそっちに行って、男たちを誘い出すから、その隙にUSBメモリーを奪い取ってくれ」

 俺は自転車に乗ると、男たちのマンション向かって漕ぎ出した。

 マンションの前に来ると、中に入りエレベータで10階に向かう。

「カナレ、今からやつらの部屋に向かう。姿を消したままで、俺の所に来てくれ。

 玄関の扉が開いたら、直ぐに部屋に入ってUSBメモリーを盗み出してくれ」

「ご主人さま、もう足元に居ます」

 カナレは姿を消しているので、目には見えないが、俺の足元に居るみたいだ。

 俺が、男たちの部屋の前に来ると、扉の上にカメラが設置してある。

 目には見えないが、カナレは既に俺の足元に居て、扉が開いたら直ぐにでも部屋の中に入るだろう。

 俺はカメラに映るように扉の前に来ると、呼び鈴を押した。

「ピンポーン」

「…」

 返事がない。

 もう一度、押す。

「ピンポーン」

「ガチャ」

 扉が開いた。俺は開いた扉を力いっぱい引くと、扉が勢い良く開いた。


「お前は、俺たちの仲間を殺した石田だな」

 扉と一緒に男が引かれ廊下に出て、俺に向かって言う。

 その男の後ろには、もう一人男が居る。どちらが「斎藤」かは分からない。

「斎藤さん、東南アジアに行くんだって?」

 二人の男はギョとした顔をしたが、後ろに居た男が口を開いた。

「いや、そんな予定はない」

「そうか、あんたが『斎藤』さんだったのか。どっちが斎藤さんか分からなかったので、引っ掛けてみたけど、これほど上手く答えてくれるとは思ってもみなかった」

 男たちは「しまった」と言う顔をしたが、時既に遅しだ。

 その時、カナレから念話があった。

「ご主人さま、USBメモリーを見つけました。今から外に出ます」

「了解だ。あとちょっと時間を稼ぐ」

 俺も念話でカナレに伝える。

「あんたたちも今のままだと、あの高橋さんと同じ運命を辿るのは分かっているのだろう。それなのに、何故、大臣の近衛隊なんてのに居る。

 さっさと逃げ出せばいいじゃないか?」

「そんな、簡単に出来ると思っているのか。解放されるのは、死ぬ時だ」

「いやいや、そんなアニメやTVの中のような事、信じられないって」

「信じられないかもしれないが本当だ」


「それで、どうする?俺を殺さないのか?」

「今のお前と勝負したって勝てないのは分かっている。それにお前の処置命令も出ていない。命令がないのに手を出して反対に殺られたら目も当てられない」

「なるほど、一理ある。それでは聞きたいんだが、どうしてこの街にアジトを持った?

 例の工場跡地と関係しているのか?」

「そんな事はお前に言う必要はない」

 そこまで応対しているとカナレから念話があった。

「ご主人さま、USBメモリーを持ち出しました」

「分かった、俺もここを離れる」

 カナレは既に部屋の外に出たのだろう。

「なるほど、とりあえず今日は、ここまでにしよう」

 俺はさっさと部屋を後にすると、エレベータは使わずに階段を一気に下って行き、玄関先に止めた自転車に飛び乗った。

 そこからは全速力で、自転車を漕ぐ。攻撃の能力が備わっているので、自転車といえども物凄いスピードで進んで行く。

「カナレ、今どこに居る?」

「えっと、自転車の前カゴに…」

 自転車を漕ぎながら、前カゴの中を触ると、確かに猫と思わしき動物と体温が感じられる。

「カナレ、USBメモリーはどうした?」

「はい、ここにあります」

 カナレは口に咥えていたUSBメモリーを出した。

「ご主人さま、このUSBメモリーをどうしますか?」

「取り敢えず持って帰って、部屋の机の引き出しにでも保管するかな。あの部屋は空間の狭間にあるから、簡単には入ってこれないから。それからどうするかを考えよう」

 俺とカナレはそのまま自転車でアパートに帰った。


「あの男たちは今頃、青い顔をしているだろうな」

「ですが、あの男たちはこれからどうなるのでしょうか?」

「そのまま報告すると、殺されると言うのは分かっているから、東南アジアに行って、行方を眩ますんじゃないかな」

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