「さて、次はどうするか？攻撃の能力ってのが分かったから、いっそ、東富士に乗り込むって方法もあるが」

「ご主人さま、いくら攻撃の能力があっても、毒ガスを使われたら対応のしようがありません」

「えっ、そうなの？防御の能力で、どうにかならないの？」

「防御の能力はあくまで物理的な攻撃に対して有効なのです。毒ガスや放射線なんか使われたら防御できません」

「そうか、何でも過信はだめだな」

「ご主人さま、なんでも細心の用心で、相手は強大なのです」

「ああ、分かった。今のは、カナレか？」

「いえ、私です」

　女神さまだった。一つの身体の中に二人居るので、最近どっちと話しているか、分からなくなる。

　そう言えば、女神さまって何て言う名前だったかな。

「女神さまですか？ところで、女神さまって名前があるのですか？」

「えっー、私にだって名前ぐらいあります。って、今まで、ご主人さまは私の名前も知らなかったのですか？」

「あっ、いや、ごめんなさい」

「私の名前は、『天照大神』といいます。大事な事なのでもう一度言います。『天照大神』です」

「えっー、『天照大神』と言えば、神の中の神じゃないですか。そんな神様がこんな所に居ていいんですか？」

「うーん、まあいいんじゃないかしら」

　この人、本当に天照大神か？かなりいい加減じゃないか。

「えっと、そのまま『天照大神』さまって呼ぶのはちょっと大変なんですけど、他の呼び方ってないですか？」

「そうねえ、『テラちゃん』で、どうかしら？」

「は、はあ、まあいいです」

「あっ、ひどーい。ご主人さま、今、適当に答えたでしょう」

「えっ、いや、そんな事ないです。テラちゃん」

「うふふ、ご主人さまだから許してあげます」

「ちょっと、何がテラちゃんですか、いい加減にして下さい」

「あら、いいじゃない。もう私のご主人さまなんだし」

「違います。私のご主人さまです」

「猫はお黙りなさい」

「そっちだって、『天照大神』って嘘でしょう」

「私は、正真正銘の『天照大神』よ」

「そんな、いい加減な天照大神が居るもんですか、ふん」

「ふん」

「まあまあ、今は狐の事を先に考えるべきでしょう。そうじゃなきゃ、俺とカナレの未来はありませんよ」

「ご主人さまの言う通りだわ。カナレはちゃんと、ご主人さまの言う事を聞きなさい」

「私はちゃんと、ご主人さまの言う事は聞きます」

「それでだな、今後どうするかという事だ」

　身体は一つなのに、二人分話すので、相手にしていると疲れる。

「その近衛隊の方を先に潰した方が、いいかもしれませんね」

「だとすると、やっぱり東富士演習場か？」

「いえ、都内の方が良いでしょう。また、何かテロ行為を行う可能性がありますから」

　今、話しているのは、女神さまの方か？いちいち確認するのも何だし、まあ、このままにしておくか。

「だとしたら、高橋からアジトの場所を聞いておけば良かったな」

「アジトを探るのは、それほど、難しくはないと思うわ」

「テラちゃんか、どういう事だ？」

「恐らく、防衛省か大臣の事務所なんかの関係先を探れば、簡単に見つかるんじゃないかしら」

「なるほど。では、そこはカナレに頼むしかないな。だが、カナレが帰ってくるまで情報が入らないのも痛いな」

「なら、念話の能力を使うというのは？」

　今度は、女神さんらしい。

「念話の能力？」

「ええ、これは離れた場所に居てもお互いの見た事を相互に見れたり、話が出来る能力です。一種のテレパシーですね」

「それを使うにはどうすればいいんですか？カナレとキスをすればいいのですか？」

「カナレは、その能力が無理ね。私とキスをすればいいわ」

　同一の身体だからどっちでも同じじゃないのか？

「俺から見れば同じ身体なんだけど…」

「「でも、心は二つです」」

　いや、それは頭で理解しても、視覚では理解できない。

「えっと、ではどうすれば…」

　カナレがそっと目を閉じた。

　俺はカナレに近づくと、カナレの肩を抱いた。

　すると、いきなりカナレは目を開ける。

　俺が戸惑っていると、

「女神さま、やっぱりダメです」

「何を言ってるの、今はそんな時じゃないでしょう」

「身体は一つなので、私がキスをします」

「いえ、ここは心の問題です。私がします」

「ここは、ご主人さまに選んで貰いましょう」

「いいわ、ご主人さま、どっちとキスをするべきか選んで下さい」

　そんな事を言われても、一つの身体なんだから、俺から見れば同じだ。

　だが、ここで選ぶと、後々しこりが残る。

「えっと、では、二人ともキスをする」

「…」

「…」

「まあ、それでいいわ」

「私も、それでいいです」

　結局俺は、同じ身体の女性に2度キスをすることになった。

　キスが終わると、目の視覚情報とは別に頭の中に、女神さまが見ている景色が浮かぶ。