第24話 ファーストキス

 非常に長く続いた戦いだったが、ふと二匹が離れた。

 二匹とも息が苦しそうだ。

「ハアハア」

「ハアハア」

 二匹が再び組み合おうとした時、歪んでいた空間が元に戻りだした。

「ちっ、これまでか。化け猫め、命拾いをしたな」

 そう言うと狐は人間の姿に戻り、俺とカナレの前から見えなくなった。

 カナレも人間の姿になったが、それと同時に空間が元の状態に戻った。


「カナレ、大丈夫か?アパートに帰れるか?」

「ハアハア、大丈夫です。あの狐、手強いです」

 俺はカナレを抱き上げたが、その足元は振らついている。

「カナレ、俺がおんぶしてやる。ホレ」

「ご主人さまにそんな事をされるのは、申し訳ないです」

「いや、いつもカナレに乗せて貰っているから、たまには俺がおぶるぐらいなんともないさ」

 俺はカナレをおんぶし、アパートに向かって歩き出した。


「ご主人さまの背中は大きくて暖かいです」

 カナレは俺の背中に顔を寄せている。

 カナレは人間の姿になっても小さい方だ。身長は恐らく150cmそこそこだろう。

 体重だって、おぶさった感触では40kgあるかどうかだと思う。

 こんな小さな体で、あの狐と互角の戦いをするのだから、元々の戦闘能力が高いのかもしれない。


 アパートに着いて、カナレを降ろすと、全身血まみれだった姿が元に戻っている。

「カナレ、さっき大怪我をしていたんじゃないか?」

「これは、この前ご主人さまから頂いた防御の能力の効果です。

 あの能力のおかげで、これだけの傷で済みましたし、怪我をした場合の回復も早いのです」

「では。その能力が無かったら…」

「恐らく、二人はここに居なかったでしょう」

 それを聞いて、俺は戦慄した。


「カナレ、俺の血をもっと吸ってくれ。そうすれば、カナレの能力が上がる」

「それでは、ご主人さまが傷つくことになります」

「いや、構わない。今日のような事があるとカナレの方が大事だ。それにカナレが負けると俺だって殺されるから、カナレに負けて貰う訳にはいかない」

「でも、血じゃなくても大丈夫です」

「血以外でもいいのか?それは何だ?」

「えっと…」

「カナレ、言ってくれ。他に俺が与える事が出来る物があれば、お前に与えよう」

「えっとですね、キスとかでも大丈夫です」

「へっ、キス?」

「きゃ…」

 カナレは顔を覆って、俯いた。

 俺がカナレを見ると真っ赤にしている。


「キスか…」

「あ、あの、気にしないで下さい。例えばの話ですから」

 俺はカナレの正面に来ると、カナレと向き合った。

 カナレはまだ顔を覆っている。

 俺はそのカナレの両手を掴んで顔を見ると、つぶらな瞳が目に入った。

 俺はそのまま、カナレにキスをした。

 そのキスは俺のファーストキスだ。もちろんカナレにとってもそうなのだろう。

 キスをしている間、なんだか夢の中に居るような、フワフワとした気持ちになった。

 カナレの唇から離れると、カナレは目を閉じていた。

 俺もカナレも黙ったままだ。


「カナレ…」

「ご主人さま…」

「どうだ?」

「はい、これで能力が増えました」

「何の能力が増えたんだ?」

「鉄爪の能力です。攻撃力が上がりました」

 鉄爪か、それで攻撃されると俺も嫌だな。

 だが、カナレとのファーストキスは俺にとっても心地良いものだった。

「カナレ、もう一回するとさらに能力が上がるのか?」

「いえ、7日に1回ぐらいしか上がりません」

「そうなんだ。でも俺は、もう一度カナレとキスがしたい」

「ご主人さま…」

 カナレは再び目を閉じた。


 2週間ほど過ぎるとカナレは2つの能力を身につけた。

 一つは俊敏の能力で、動きを速くする事が出来る。

 もう一つは、跳躍力だ。今までも屋根を軽々飛び越える能力があったが、今回身につけた能力を使うと10階建てのビルも飛び込える事が出来た。

 そして、この能力と鉄爪の能力を併用して使うと、垂直な壁を登る事が出来、高いビルも駆け上がれる。

 そして、カナレが最初に着ていた服は、カナレの能力を引き出してくれる。


 カナレの能力をさらに上げるため、カナレにいつものようにキスをしようとした時だ。

「ご主人さま、ちょっとお待ち下さい」

「えっ、何だ?」

 するとカナレが猫耳と尻尾を出して、畳にペタンと座る女の子座りの格好をした。

 おおっ、これはまさにアニメの世界。萌えるー。

 俺はカナレを抱き締めた。

「ああ、ご主人さま、お止めになってぇー」

「おい、どこでそれを覚えた」

「お店に来るおばさまたちから」

「まったく、お前の店に来るおばさんは碌な者が居ないな」

「お客さまの悪口を言ってはだめです」

「そうだな。ごめんな」

「いいんです。ご主人さまの事は全て許します」

「カナレ、ありがとう。俺は優しいカナレが大好きだ」

「ご主人さま…、私も大好きです」

 俺はカナレにキスをした。

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