第12話 猫じゃらし

「そう言えばカナレ、鈴木とその弟分を『猫だまし』に掛けた時にお前の姿が消えたけど、それはお前の能力なのか?」

「それもありますし、この服の能力もあります。

 私がこの服を着ると、能力を最大にできると言いましたが、その能力の一つが消える事なんです。

 でも身体が無くなるって訳じゃなく、目で見えなくなるというものなんですが」

「それは凄い。俺もその服を着ると、見えなくなるのか?」

「人間が来ても、消える事はありません。それはただの変態になってしまいます」

 変態になるのは、ちょっと勘弁して貰いたい。カナレにしか出せない能力という事だろう。


 俺はバイトの帰りに百均に寄って、猫じゃらしを買った。

「ただいま」

「ご主人さま、お帰りなさいませ」

 やっぱり、メイド喫茶の気分だ。

 キツチンの方から、いい匂いがしてくるのは、カナレが夕食を作っていたからだろう。

 二人向かい合って、夕食にする。夕食が終わると風呂になるが、カナレは片付けをしてくれるので、風呂は俺から入る。

 最近は、カナレも風呂を嫌がらなくなったのはいいが、段々と風呂の時間が長くなって来ている感じがする。

 風呂から出たカナレは、ドライヤーで身体を乾かすと、俺の所に来た。


「カナレ、これ何だ?」

 俺は、百均で買って来た猫じゃらしを出した。

「えっ?えっ」

 俺は猫じゃらしを振った。

 カナレはその猫じゃらしを追いかけ出した。

 するとカナレは人の姿から猫の姿になって、追いかけ出す。

 こうやって見ると、ほんとにただの猫だ。


 だが、カナレは飽きる事もなく、猫じゃらしを追いかけている。

 そうやって1時間が過ぎても、まだ止めようとしない。

「カナレ、そろそろ寝よう」

 カナレは再び人の姿になった。

「ええ、もう終わりですか?もっと遊んで下さい」

「いや、明日もあるから」

「明日は土曜日で休みじゃないですか」

「大学は休みだが、バイトがあるだろう。カナレだってバイトじゃないか」

 カナレは不服そうだったが、布団を敷くと黙って眠った。


 翌朝は遅く目が覚めた。

 俺はレストランのバイト、カナレはケーキ屋のバイトなので、朝は遅い。

 なので、土曜日と日曜日の朝はいつもゆったりだ。

 俺は朝食が済んだら、また猫じゃらしを取り出した。

 それを見たカナレの目は、既に獲物を狙う獣の目になっている。

 俺が猫じゃらしを振ると、カナレは猫の姿になってそれを追う。

 こうやって猫じゃらしを追っている姿は、なかなか面白いし、可愛い。


 そんな事をやっていたが、バイトの時間になった。

「カナレ、そろそろバイトに行かないと」

 カナレは人の姿に戻って、

「はい、帰ってきたらまた遊んで下さい」

 二人、着替えて、一緒に部屋を出た。

 俺のバイト先の前に来た時にカナレが言って来た。

「帰りも一緒に帰って下さい」

「だけど、バイトが終わるのはカナレの方が早いだろう」

「えっと、こっちに来て待っています」

「そうか、なら一緒に帰ろうか」


 9時半になると、店の扉を開けてカナレが入ってきた。

 俺は丁度、接客していたので、店長がカナレを迎えてくれた。

「カナレちゃん、店の奥で待っていればいいから」

「マスター、私も手伝いましょうか?」

「いや、カナレちゃんはバイトじゃないから」

「いいですよ。兄さんの手伝いだと思えばいいですから」

「それじゃ、奥で着替えて手伝って貰おうかな」

 カナレは奥に消えたが、着替えて出てきた。

 カナレと二人でホールを担当するが、カナレは美人で笑うと可愛いので男性客はカナレの姿を目で追っている。

 俺の努めているレストランは灯りも間接照明なので、女性は明るいお日さまの下より綺麗に見える。


「ありがとうございました」

 カナレが笑顔でお客さまを見送ると、お客もお酒が入ってるからか、笑顔で帰って行く。

 最後の客が帰ると、店を片付けて、俺とカナレも普段着に着替えた。

「カナレちゃん、ありがとう。何だか、カナレちゃんが来るとお客さまが追加で頼んでくれて、売り上げがアップしたような気がするな」

「ほんとですか?ありがとうございます」

 やっぱりカナレって招き猫なんだろうか。幸運と金運が来てくれるなら嬉しいが。


 俺はカナレと一緒にバイト先を出て、アパートに向かう。

 土曜日だったので、最後の客が店を出たのはかなり遅かったから、帰りは11時を過ぎていた。

 俺とカナレは、近道になるいつもの公園を通って行く。

「おい、ちょっと待て」

 声の方を振り返ると、3人の若い男が立っている。

 だが、いかにも悪そうで、髪は染めているし耳にはピアスとかしている。

 俺が黙っていると、

「なかなか、お熱いじゃないか。俺たちにもその幸運を分けてくれないか」

「お断りします」

 俺でなく、カナレが言った。

「なんだと、気の強い彼女だな。そう言ってられるのも今のうちだけだ」

 男たちはナイフを取り出すと、こちらを威嚇してきた。

 カナレは俺の前に立ち塞がった。

「こいつ、女に守られて恥ずかしくないのか」

 リーダーのような男が、カナレの腕を掴むように手を出したが、カナレはその手を掴むと、腕を捩じ上げた。

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