お父さん、気が利くやろ!?

 それからふたりは作業を再開し、部屋中の物を全て整理、梱包した。

 最後に、床を改めて念入りに掃除し、パイプベッドをバラして紐で括った。布団は床に、ぢかに敷いた。


 布団からはほんのかすかに、雄治の匂いがただよった。あたしはクラクラと目が回るような興奮を覚える。勿論必死で雄治にバレないよう振舞う。今日はホント、いろいろと大変だよ。ナイショだけど、ムラムラしっ放し。――


 一時間ちょっとガッツリ頑張ったお陰で、布団と手荷物を残し、全ての梱包を済ませた。雄治は今晩この布団を使用した後、明日朝布団圧縮袋に詰めて、車で運搬すればいい。本日の作業は全て終了、である。

 ……と思ったが、あたしは気付いちゃった。


「アパートにはロフトがあったよね。寝床はロフトでしょ!?」

「おう」

「それならベッドは要らないっちゃない?」

「あっ!!」

 あはははは。アタマ使ってる割りには、意外と抜けてんじゃん。――


 ともあれ、そういうちょっとしたハプニングもありつつ、搬出側作業は無事片付いた。

「ありがとう。一人で作業したら、この何倍も時間がかかっとよ。マジで助かったわ。紗耶香様々々じゃ」

 と、雄治にお礼を言われた。あたしはちょっとテレた。


 ふと気がつくと、ほぼ完全に陽が落ちていた。雨足は随分と弱まっているようである。

 雄治のご両親から階下に呼ばれ、夕食を御馳走になった。

「オレも今日は手伝ってやるつもりだったけどね。まさかこんな美人の彼女がいて、抜かりなく助っ人要請してたとは……」

 と、お父さんがニヤリと笑いながら、言う。雄治は顔を赤くしつつ、いや彼女じゃねえよ、と否定する。


「折角なんで、邪魔しないようふたりっきりにしてあげた。お父さん、気が利くやろ!?」

「アホ……」

 雄治は真っ赤になり照れながら、膨れっ面。

 お母さんの、動物性タンパクちょい多めの手料理に舌鼓を打ちつつ、ふたりして散々からかわれた。ったくもう、親ってのはみんな、こんな感じなのか。うちの両親も多分、同じノリだと思うよ。――


 随分と遅くなり、そろそろおいとましようと雄治に声をかけた。するとお母さんが、

「帰りの電車は暗くて怖いよ。せめて特急で帰りなさい」

 と、特急料金込みの電車賃を持たせてくれた。あたしは雄治のご両親にお礼を言い、JR都城駅に向かうべく雄治の運転する車に乗った。


 スマートフォンで電車の時刻表を確認し、お父さんに駅までの迎えを要請する。それからちょっと思案して、智ちゃんに明日の買い出しの応援を要請した。

 で、電話を切ってふうっと溜息をつき、ふと気付いた。あたし今、すっごくオンナ臭いじゃん(滝汗)


 引越作業で少々汗をかいたせいか。それとも、つまりその……何度もムラムラしたせいか。

 いやんっ。ヤバい、どうしよう。雄治にも気付かれてるかも(赤面)

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