第30話 クラークの怒り

「てめーら………ラークに手を出してタダで済むと思うなよ」


俺の後ろには土の中から出てきたクラークが、剣を構えて立っていた。



実はクラークにはマリガの雷撃から守るために、すでに防御の魔法耐雷魔法をかけていたのだが、思いのほかのマリガの魔法の威力が強力で、クラークが気を失ってしまった。

魔法と精霊の動きで、状態がわかっていたから、クラークが死んでいたり怪我をしていないのは分かっていた。だが、気を失ったクラークがマリガ達に人質に取られたり魔物に襲われる困るので、自分に注意を引きつけつつ、クラークの身体をさりげなく遠距離から土魔法で土の中に隠しながらと同時に魔物を倒したわけだ。


だが、魔法の使えなくて追い込まれた俺は、クラークを起こして助けを求めるしかないと思って近寄って叫んだわけだ。


「お前ら3回は殺す!」


いやいや、一回殺せば十分です。

俺の上に乗っている頭を失ったネイルの死体をどける。

………あれそういえば、死体のわりに軽い?


「ひぇー、一撃で一体・・失ったぜ。魔法が使えないのに化け物かあいつは?転生者か?」


あれ!?少し離れた所にネイルがいる!

よく見ると俺の上に乗っていたのは、木でできた人形だ。


「なんだこれは?」


俺はつぶやく。


「へへへっ忍法、変わり身の術!驚いたか!」


ネイルが鼻を指でこする。

まさかネイルが忍者能力があると言っていたが、こんな術まで使えるとは……。


「クラークさんは、あれで転生者ではないらしいからすごいでしょう。だから私は気に入ったのですよ」


マリガがそう言う。


クラークは手裏剣が刺さった俺の足を見る。


「…………ラーク、動けるか」


「いいや……あいつらの仕掛けた呪紋のせいで脚の治療が出来ないから……クッ……お父さん、やっぱり痛くて動けないや、無理だよ」


俺のふくらはぎには手裏剣クナイが刺っていた。抜くとドクドクと血が流れる。

    

「絶対に許さん!」


クラークが土の中から完全に出ると、気を失ったために身体強化は切れいてるはずなのに、驚きの速度でネイルに近寄る。


「なっ」


ネイルが焦ってその場から下がる。

だが……クラークの方が圧倒的に早い。


「うわっ」  


ボン


ネイルの身体を剣が貫くと姿が人形に変わる。

そして5メートルほど離れた距離で煙が上がりネイルが現れる。


「まずいですよ、ゴルド」


「ああ!吼えろ龍我砲りゅうがほう


ドゴゴゴーォォォン


クラークのいた場所に打ち込まれる


……だが、


「あめーよ」


瞬時によけたクラークが、ネイルの首を切り飛ばす。


ボン


ネイルがまた離れた場所に現れる。


「ちっまだか」


クラークがつぶやく。


「ゴルド!」


マリガが叫ぶ!


「わかっている俺たちが相手だ」


ゴルドがクラークに槍を突っ込むが、クラークが剣で流すように槍をはじく。そのままクラークが切り込むとマリガが後ろからクラークを斬りつける。


だがしかし、それを紙一重でよけていく。


「おぉぉぉ」


「くらえっ」


二人の攻撃をかわしつつ二人を少しずつ斬る!

ネイルが離れたところから、ネイルが手裏剣クナイを投げる。


「主の名を持って敵を斬れ我がしもべ舞え、シューティングスター」


多数の手裏剣クナイが一斉にクラークを襲う。


キン、キン、カン、キン、カン


クラークが無駄な動くもなく、剣を弧を描く様に一振りすると、手裏剣クナイを全て叩き落す。


「くそっ利かないのか!主の姿を映して空蝉の虚像をかもしだせ、セパレイトボティ」


ネイルの身体から5体に分かれてクラークを同時に襲う。


クラークが一瞬身体を地面に沈めたと思ったら、高くジャンプしてネイルの分身の後ろに立ち、それを斬ってく。


ボンッ、ボボンッ


斬るとネイルが煙に変わり、姿を消す。


すごい!

クラークは強いと思っていてたけど身体強化無しでもこれほど強いと思ってなかった。

転生者3人がかりでも全然引けを取らない。


ボンッ


ネイルの最後の分身を斬る


「くっ主の名を持って豪炎を………」


クラークはネイルが呪文を唱え終える前に、本体に近寄り剣を横に一閃させるとネイルの首をはねる。


ボンッ


「ここか」


地面を蹴り瞬時に移動したクラークが、何もない空間を斬る。


バシューー


その場から血があふれるように噴き出す。


「ぁああふああぁぁいゃゃやぁあ」


ネイルが絶叫と共に血しぶきをあげながら倒れる。


「まずは一人!」


ネイルを殺した。

クラークはさっきのネイルの会話で気づいたみたいだった。

変わり身の術には回数制限があることだ!つまり連続して殺せばいつか殺せるってことを。

クラークって戦闘時には頭が良くなるのね……。


それと同時に俺に魔力のコントロールが蘇る。

いけるぞ

計算済みの水魔法治癒魔法を直ぐに発動させる。俺は魔法技術向上で、もう近くに精霊の媒体である水が無くても、治癒魔法を使えるようになっていた。

みるみるうちに怪我が治っていく。


「お父さん、魔法が使えるよ!怪我を治したから大丈夫!!」


俺はクラークに伝える。


「よかった!………あとはお父ちゃんに任せて下がっていろ!」


クラークはマリガ達と少し距離を取り、俺に近づけさせないようにしている。

マリガ達は……。


「おいっネイルが死んだぞ」


ゴルドが焦ったように言う!


「くそっクラークのレベルは87だったはず!」


マリガはクラークにさん付けをもう止めていた。


「確かにレベルは87だ…………だが特殊能力スキルがある……『狂戦士』愛する者が傷ついたら全てのステータスが一時的に2倍になる」


なに?クラークってそんな能力あんの??


「なんだってさっきはお前そんなことを言ってなかったぞ」


マリガが怒鳴る!


「仕方がない、今現れたばかりの能力表示だ」


特殊能力スキルって増えるのか!


「そんなことは……どうでもいい……マリガ……前に言ったよな、家族を傷つけたら許さないって……俺にやっとできた守るべきものを手を出した……許さん」


クラークがゆらりと、姿が消えるように身体を前に動かす。


「地獄の爆炎よ我に集まり相手を焼き尽くせ、爆龍炎ばくりゅうえん


ゴルドの手に光が集まる。

だが!


「遅い!」


クラークは瞬時に移動していてゴルドの胴を斬る。

上下二つに分かれたゴルドは地面に倒れる。


パァーーーン


同時に空中にいろいろと物がばらまかれる。

さっき言っていたアイテムボックスってやつが、死んで中身が出たのか?


「さてどうする?マリガ……魔法を唱えたいなら好きにしろ」


クラークが剣をマリガに向ける。

マリガが呪文を唱える。


「……火の精霊よ、我を敵対する愚かな者たちを懲らしめるために、我が意思を使い、我に敵対する全てを焼き尽く……」


近くの倒れた賊の持っていた、ランタンから大きな炎が上がる。

あれは火魔法で炎を生み出す魔法だ!このあたりを火の海にするつもりか!


グシュッ


「あっががぁ」


クラークが魔法が完成する前にマリガの胸を剣で貫く。


「でも発動をするまで待ってやるとは言っていない」


剣をマリガから抜くと時代劇みたいに一振りして血を飛ばしてから鞘に戻す。


すげーかっこええー!

クラークが侍や剣士見える。あの普段の生活でシールにすり寄って媚びている同じ人物とは思えない。

もしかしたら別人だろうか?


「ラークーーー大丈夫か?痛かったか?ごめんよ」


クラークが泣きそうな顔をして近づき、俺を抱きしめる。


「……お父さん大丈夫だよ」


俺はふと思う……もし、もしも、俺の防御魔法を超え、クラークが雷撃魔法で死んでいたら、もしあそこでクラークが起きなかったら……と考えると恐怖と助かった安心感で震えがやってくる。


「守れなくてお父ちゃんが悪かったな、お詫びにお父ちゃんのキスを……」


バチン


その勢いでクラークが俺にキスしそうになったので、頬っぺたを叩いて落ち着かせる。


「ひどいっ」


頬を抑え泣いているクラーク、でもおかげで震えが止まった。

前言撤回、やっぱりクラークはいつものクラークだ。

















「あれっゴルドの死体がない!」


周りを見てもゴルドの持っていた持ち物が散らばっているだけで、真っ二つになったはずのゴルドの死体がない。


「ラーク!マリガのもないぞ!」


倒したはずの二人の死体がない。あるのはネイルだけ。


マリガとゴルドはネイルと同じように死なない能力を持っていたのか!

だからお互いに殺し合っても、平気だったのだ。

そこには持ち主の残していった、持ち物アイテムしか残っていなかった。

彼らは転生者なかなか死なないと思った。


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