第11話 万年筆を買いました、2日連続で



 万年筆の続きの話です。


 最初に買った1000円の万年筆が、パイロットの「カクノ」。安いながらも、使い勝手がいいんです。


 で、つぎに買ったのが、同じパイロットの「プレラ」。これは人気の商品みたいです。

 クリアボディーで、カートリッジ式ですが、コンバータが付属してます。


 カートリッジ式というのは、インクの補給の方式のひとつで、万年筆の胴体をくるくる回して中身を開けると、中にインクのつまったカートリッジ、つまり小型の使い捨てタンクが入ってるタイプです。これは安い万年筆に多いです。

 扱いやすいんですが、インクがすぐなくなるという欠点があります。



 逆に高級万年筆は、吸入式といって、内部につまみがあり、これを回すことによって内部のピストンが上昇し、ペン先からインクを吸い上げます。これは、インクが切れる心配が少ないです。継ぎ足しで吸入できますから。

 半面、壊れやすいという欠点があります。ただし、普通に使っていて壊れることは稀です。壊れるときは大抵、インクを吸入したまま放置してしまった場合です。


 万年筆は不思議な道具で、使い続けていれば十年だろうが二十年だろうが持つらしいです。が、しまっておくとすぐに壊れる。


 で、コンバーター式というのは、正確にはそういうタイプは存在しないんですが、カートリッジと同じ形の吸入式ポンプのことをコンバーターといい、購入するとそのコンバーターがついている。つまりカートリッジで使用できますし、コンバーターを使って吸入式と同じ使い方もできます。


 このコンバーターのいいところは、壊れたらコンバーターだけ買いかえればよく、外してカートリッジ使用にしてもいいというととろでしょう。



 3500円で買ったプレラは、本当にいい万年筆でした。コンバーター式というのは、ぼくとしては理想的です。インクが無くなりにくく、壊れてもコンバーターだけ買いかえればいい。デザインも書き味も素晴らしい。

 ぼくはこの万年筆で、現在執筆中の長編のプロットの後半を書きまくりました。


 ……が。書きまくるうちに、違和感を感じ始めました。


 短いんです。全体的に短い。そして、指でグリップした位置と、ペン先の位置も合っていない。どうにもこれがストレスにつながり、結局もう駄目だという結論に達しました。


 万年筆は難しいです。ボールペンやシャープペンで、こんなに違和感を感じることはまずありません。


 結局別のを買うことに気持ちが固まりました。


 最初に目を付けたのが、プレラの上位機種的位置づけの「ヘリテージ」。スケルトンボディーのやつ。

 これもきっといい万年筆でしょう。でも、ひとつ、すっごく気に入らないところがありました。キャップがスクリュー式なんです。あの、開けるたびにクルクル回すやつ。

 めんどくさいんです。しかも、ぼくは万年筆のキャップをパチンと外して、閉めるときもパチンとやりたいんです。あの感触が好きなんです。


 却下しました。


 そして、大きな文具屋さんで、サンプルとして置いてある万年筆を片っ端からいじりまりくりました。


 書き味、重量、バランス、キャップのパチン感。


 そして、「おおっ」と思う一本を見つけます。


 それはウォーターマンのエキスパート。

 これは、もう「うーん」と唸りました。バランスといい重量感といい、パチン感といい、ぼくの手にベストマッチでした。もう戦車とウサギくらい「ベストマッチ!」です。

 しかも、キャップは外すときもつけるときもパチンときます。それどころか、外してペンのお尻に嵌める時もパチンと来るのです。

 素晴らしい万年筆でした。


 ちなみに同じウォーターマンのメトロポリタンは駄目でした。


 で、このエキスパートのスチールボディーの奴を買おうと決めたのです。

 なんかデザインが格好良くて、ウォーターマンというメーカー名なのにフランス製で、そのせいか外観もおしゃれなんです。20,000円しちゃうんですが、もうデザインがイタリアのスポーツカーみたいで格好いい。しかもフェラーリではなくランボルギーニっぽい。


 考えて、お店のお姉さんに、「これください」といいました。


 在庫を確認していざ会計という段になって、


「25,000円です」

「え、20,000円って書いてありますけど」


 値札の付け間違えでした。


 が、

「これって、なにが5,000円分ちがうんですか?」

「ボディーの材質ですね?」

「というと、中身は変わらない……?」

「はい、基本的には16,000円のペンなです」


 え? そんなに安いの? それ、パイロットの「ヘリテージ」とおんなじ値段だなぁ。


「基本的に、これとおんなじですね」


 と見せてもらった16,000円のエキスパート。


「え? これ? これも格好いいですね」


 シルバーとマットブラックがあるんですが、シンプルでこれもいい。ちょっと安いけど、安い分には構わないかと、シルバーを買いました。ペン先は細字のFで。

 ちなみに、エキスパートはコンバーター式。素晴らしい。インクは今までつかっていたパイロットの「紺碧」を使用する予定でした。


 でも、油断はしてませんでした。なぜなら、万年筆は、使ってみるまでわからないからです。


 家に帰って、インクを入れて、書いてみて、「えっ」と思いました。


 ……字が太いんです。Fなのに。


 迂闊でした。そうなんです。字の太さは、統一規格はでないです。国産万年筆のFと外国産万年筆のFでは太さが違うんです。


 そりゃそーです。だって、英語だと「DEVIL」ですが、日本語だと「悪魔」です。そりゃ字の太さはちがうでしょう。


 返品、あるいは交換、できないよなぁ。でも、この太さも、いいんです。ハガキなんか書くにはいい太さです。が、ウォーターマンにはもっと細いEFがあるのも事実。

 気になる。どんな細さなんでしょう?



 翌日、ウォーターマンのEFの細さを試し書きさせてもらいに、お店にいきました。一本買った翌日、またいくのはちょっと変に思われるんで、別のお店にいきました。

 二軒行きましたが、どちらもEFは置いてないといわれました。また、EFがあるのは、ブラックだけだとも教えてもらいました。つまり、あの美しいマットブラックや昨日ぼくが買ったシルバーでは、どちらにしろEFはなかったのです。


 仕方なく、昨日万年筆を買ったお店にもう一度いきました。昨日のお姉さんはいなかったので、別の人にEFを見せてもらいました。そのお店には、EFの在庫があったのです。


 いつも使っているノートに書かせてもらって、いつものぺンと比べました。やはりちょっと太いです。でも、許容範囲かな?


 すこし考えさせてくださいと告げて、エスカレーターでワンフロア降り、ノートの字をじっと見つめました。そして、そのまま反対側の上りのエスカレーターに乗り、お店に戻ってさっきの店員さんにいいました。


「やはり買います」


 字はたしかに少し太いです。でも、あの質感とかバランスとか、もう最高のペンなんです。Fも必要だし、やはりEFも欲しいんです。

 ぼくは結果、二日連続でウォーターマンのエキスパートを買いました。

 いま家には二本のエキスパートがあります。


 そして、EFのペンをくるくる回して、ペン先部分を外し、シルバーのFとボディーを入れ替えました。ほくがいま、普段持ち歩いているエキスパートはシルバーのボディーにEFのペン先がついた特殊なものです。



 それで、やっと気づきました。

 万年筆には、それぞれ個性があります。自分の理想の形を探すのもいいですが、ペンの個性を理解してそれと付き合うことも重要です。


 いま現在考えていることは、1,000円のカクノにコンバーターを入れて、インクの色を合わせることです。カクノはカートリッジ式なので、色が選べないんです。


 シルバーのペンは持ちあるくから、いつも鞄に入っています。家でプロット書くときにイチイチ出してくるのが面倒なので、そこはカクノかプレラでもいいかな?などと考えつつ、さいきんは万年筆にすっかり嵌っていたぼくでした。


 ちなみに、EFのウォーターマン・エキスパートですが、筆圧を抜くと国産万年筆くらいの細字も書けまることに気づきました。なんにしろこの、お気に入りのペン。16,000円だけど、32,000円しました。

 が、とてもいい買い物でした。

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