第53話『The Father』

妹が憎たらしいのは訳がある・53

『Father』      




 ユースケは国防軍の戦闘指揮車に変態して、わたしを送ってくれた。


「先ほど連絡した国防軍の者です。お嬢さんをお連れしました」

 インタホン越しにロボット兵が言った。ついさっき、ねねが破壊した拓磨の義体からでっちあげたリモコンの兵士だ。むろん操作をしているのはユースケである。

「世話になった、そこからは娘一人で来させてくれ」

「は!」


「一応スキャニングする」

「はい」

 里中副長は、スキャニングのボタンを押した。マンションの部屋の入り口そのものが、スキャナーになっていた。

「オールグリーン。本物のねねだな」

「今日は疑われっぱなし」

「だいぶビビットなコミュニケーションだったようだな」

「おかげで……」

 ねねは、首筋のコネクターと、父のブレスレットアナライザーとをケーブルで結んだ。

「……国防省の中枢に100人ほどか。AGRとは別の動きだな」

「こっちのグノーシスでヘゲモニーを握りたいみたい。最終的にはサッチャンが完全に起動する前に破壊して、向こうの世界との連結を切断、何十年か独自の発展を図るつもりみたい。なんせ、向こうは極東戦争を相当こじらせているみたいだから、向こうのグノーシスにも、かなりシンパがいるみたい」

「厄介だな。とりあえずは、そいつらを潰さなきゃならんか……辛いなねねは、しばらくそいつらの味方のフリをしなくちゃいけないんだな」

「鳩尾にコネクターがあるとは思わなかった。幸いディフェンサーが、ここにあるから、出力を押さえてコネクターの代用にしたけど。その間、わたしは完全に無防備。トンカチの一発でおだぶつ」

「じゃ、急いで、コネクターを付けよう」

「えー、また体を切り刻むの。わたし一応女の子なんだけど」

「なあに、ほんの5ミリほど切るだけだよ。ねねの体なら三日で快復する。さあ、胸を見せて……」

「ついでにさ、胸のサイズDカップにしてくれないかなあ。Cでもいいわよ。体育の着替えのときなんか肩身がが狭くってさ」

「う~ん。ねねの体格とDNAなら、このサイズだ」

「でもさあ!」

「どうも、太一の心をインストールしてから、ねね変だぞ」

「あ、それって太一のこと変態って言ってるようなもんだよ。今のわたしの心の半分は太一なんだからね」

「悪い意味じゃない。オレも、こういうねねは嫌いじゃないからな」

「もう、ごまかして!」

「ハハハ、若いころのママそっくりだ」

「懐かしむのはいいけど、胸揉むの止めた方がいいよ。なんだか変態オヤジみたい……」


 バカみたいな会話だったけど、あとの戦闘で振り返ると、とても懐かしい思いでになった。サッチャンだって、こういう機能……いいえ、心を持っているんだから解放すればいいんだろうけど、あの子の回復には、二つのパラレルワールドの運命がかかっている。今のサッチャンの頭には優奈って子の脳細胞が入っている。それで、サッチャン自身が心を解放しなくても、人間らしい感情を表現できる。でも、その表現は優奈の心なんだよね。優奈も太一のことが……いけない、わたしの心の半分は太一だ。考えただけでドキドキする。


 それにユースケもかわいそう。



 だって、優奈が太一のこと好きだって分かってたから、自分の気持ちは殺したまま目の前で優奈が酷い殺されかたして、その悲しさと、恨みごとイゾーってロボットにとりこまれて。だから、せめて、あのロボットのことはユースケって呼ぼう。そして、みんなが救われるような道を必ずさぐるんだ。


「ねね、なに泣いてるんだ?」


 気がつくと、パパは、鳩尾のコネクターの取り付けも傷の縫合も……メンテナンスまでやってくれていた。パパにしてもらったのは久しぶり。頬が赤くなる。パパはきまり悪そうにドレーンを巻きながら部屋を出て行った。手にした使用済みの洗浄液は真っ黒だった。ここまで痛めつけていたことを、自分でも知らなかった。

「おやすみ、パパ」

「あ、ああ」


 人間になりたい。そんな気持ちが湧き上がってきて、頭から布団を被った……。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る