第8話

「実湖、遅いな、また追っ手が来てるとかじゃないよな?」

その頃氷夜は時間の巻き戻しも終わり、実湖の帰りを待っていた。

ふと、近くの茂みがガサガサと音を立てた。

咄嗟に身構えると、実湖が茂みをかき分けて戻って来たところだった。

「戻ったよ。遅くなってすまない。」

「いや、大丈夫。随分遠くまで行ってたんだな。」

「そうだね、森の入り口あたりまで行っていたから遅くなってしまった。」

実湖は氷夜から目を逸らしながら言った。

「そっか。それで、これからどうする?」

「…氷夜はどうしたい?」

「俺は、親父を殺したあの家を潰したい。」

「復讐、ってこと?」

「そうなるのかな?親父はいつも俺のことを庇ってくれてはいたけど、俺と言葉を交わすことはなかった。親父も俺の事なんかどうでもよかったのかも知れない。」

「そんなことない!」

思わず大きな声が出てしまったようで、氷夜が驚く。

少しボリューム落として取り繕うように言い直す。

「そんなことないと思うよ、どうでも良いんだったら庇ってくれたりもしないでしょ?」

氷夜は静かに頷いた。

「私は氷夜に協力するよ。でも1つ聞きたいことがある。」

「なに?」

実湖は少しの間虚空を見つめたあと、口を開いた。

「氷夜の家を潰して、復讐が終わったら、そのあとはどうするつもり?」

「その後のことが決まらないうちは復讐なんてしないほうがいい。」

「そうしないと、復讐が終わった後には何も残らない、ただの復讐に取り憑かれたモノになってしまう。」

「氷夜はあの家に復讐して、その後どうするの?」

実湖の重い問いかけに、氷夜は俯いた状態のままどう答えるべきか、悩んだ末にこう答えた。

「この世界から能力を無くす。」

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