第43話 違和感の正体

 食事後クァバルさんと別れた。同じ場所に寝泊まりしているが少し村長婦人に用事があるのだとか。

 一人食堂から出る。


 胃袋をおちつかせるために散歩でもするかと、すっかり夜になった空を見上げながら歩く。夜空には東京ではまずお目に掛れない星がこれでもかと散りばめられていた。


「きっと俺が知っている星座はここには無いんだろな」


 月も無い。この世界が地球とは別なのだと嫌でも分かる。

 そもそもここって同じ宇宙なのだろうか? もしかしてパラレルワールドみたいに別次元の世界なのかもしれない。


「ん? あれは・・・・ティルルさん」


 などとつらつらと無意義な憶測を漠然と考えながら静かな村内を散歩していると、ゆらゆらと動く火の玉が一つ浮かんでいた。

 一見すればホラー現象だが、強化された俺の視力はそれが何であるかをハッキリと捉える。


 火の玉は松明の灯りだった。

 そしてその松明を持っていたのは諸々の悩みの種となっているティルルさん。


 これは・・・・天啓なのかもしれない。


 このタイミングで会うとそう思えてならない。先ほどクァバルさんから一緒にタルバンへと行かないかと誘われたばかり。


「ティ、ティルルさん」

「ひゃっ!?」


 俺が声を掛けると、ティルルさんは大きく肩を跳ねさせ可愛らしい悲鳴を上げた。


 や、やっちまったぁ!?

 そりゃそうだ、真っ暗な夜道で突然背後から声を掛けられたら誰でもそうなる。



 恐る恐る振り返ったティルルさん。俺の顔を見て再びビクリと跳ねると少し間を空けて大きく息を吐き出した。


「は、ハルさんですか? もう、びっくりしました。驚かさないでください!」

「すみません」


 怒られてしまった。


「えっとティルルさんは何をしていらっしゃるんですか? こんな夜に」

「今は見回り中です。こうして夜の間は順番で見回りをすることになっているんです」

「ティルルさんが、ですか? あの、普通こういった事は男がするものでは?」


 女性蔑視などと言われそうだが実際危ないのは確かだ。平和な日本だって女性一人の夜道は危険なのだから、こんなバケモンがいる異世界だとその危険度は爆上がりだと思うんだが。


「それは仕方がありません。から」

「え!?」


 そう返したティルルさんの発言に俺は思わず変な声を上げてしまった。


 男性がいない?


「・・・・・そう言えば」


 思い出してみると確かにこの村で男性はあまり見かけていない。

 出会った男と言えばポックリンさんと遊んでいた子供たち、あとは旅の商人のクァバルさんくらいだ。



 ・・・・・・あ!?



 そこで俺は気付いた。


 俺がずっとこの村で感じていた違和感がこれなんだと。


 そう、この村は圧倒的に男性が少ない!


 畑仕事の時も、夕暮れ時村に来た時も、そして村長宅での食堂でも成人男性の姿は無かった。

 それ自体不思議な事ではあるのだが、ことこの村に関して言えば更に不自然とも言える。


 ここはだ。一番必要となるのは男手のはず。なのにここには男がいないのは不自然すぎる。


「あの、どこか泊りがけで仕事に出ているとかですか?」


 可能性としては遠方への出稼ぎ。

 この村の様子からすれば狩りなんかで留守にしているのはありそうだ。

 そう思って問いかけたのだが、どうやら俺が考えているよりもずっと事は深刻なようだった。その事をティルルさんの悲しそうな目を見て何となく察した。


「違うよ・・・・・・・皆連れていかれちまったんだよ」

「ひっ!」


 そしてそれを確たるものにしたのはティルルさんとは別な人物だった。

 突然割り込んだ第三者の声、しかも暗闇の背後から聞こえたことで俺は情けない声を漏らしてしまった。


 振り返るとそこにいたのは松明に照らされた村長夫人。

 俺は更に叫び声をあげそうになるのを必死に耐える。


 な、なるほど。ティルルさんが怒るのも当然だった。


 先ほどの自分の行いを深く反省をしつつ心を落ち着かせる。


 村長夫人の隣にはクァバルさんもいた。別れ際にクァバルさんが村長夫人に用事があると言っていたのを思い出す。


 いやそれよりもだ。


「・・・・・・連れていかれた? 男性が、ですか?」


 俺は耳にした言葉が信じがたく聞き返す。


「ああ、そうだよ」


 それに村長婦人は躊躇うことなく肯定した。

 どうやら聞き間違いではないらしい。あまりに不穏な表現に目を細め眉をしかめる・・・・・・・・が、それと同時に「すわ、イベント突入か!?」と少し高揚している自分がいた。だがそれを顔に出すのはあまりにも不謹慎だ。まぁこう考えている時点で不謹慎なのだが。


 それはともあれ「連れていかれた」とはどういうことだろうか?

 そもそもここは開拓村なのだから連れてくる事はあってもつれていかれるってのは考え難いんだよな。しかもただでさえ男手が必要何に。

 可能性としては盗賊の類だろうが、どうにも村の雰囲気からして違う気がする。盗賊とかだったらもっと悲観に暮れていてもいいだろうし、こう言っちゃなんだが攫うなら女性の様な気がする。


 あとこの話をしながら村長婦人は頻りにクァバルさんを気にしている。


「ハルさんは他国の方で旅をされているのですよね。それでしたら知らなくても当然ですか」


 気まずくなる空気の中クァバルさんが眉をハの字にそう切り出す。


「今、この国と隣の私の国は・・・・戦争をしているんです」

「!?」


 そして続けた話は平和な日本で暮らす俺には衝撃的な内容だった。


 ・・・・戦争。


 地球でも絶えず何処かの国同士が戦争をしているのは知っている。けどそれらはテレビを通してみるだけで、どこか映画の様な感覚で実感が持てない。

 今こうして耳にしても正直ピンと来ていない自分がいる。きっとそれは俺だからではなく日本人なら少なからずそうなるのではと思う。

 戦争と言う言葉はそれくらい縁遠い。


「事の発端は半年程前の事だよ」


 などと言う俺の心情は無視して話が進む。

 追随して語りだしたのは村長婦人。


「この国の第二王子がお隣の公国へ【雪煌せっこうの白姫】を娶りたいと言った事が原因さ」

「雪煌の白姫!?」


 何やら厨二心をくすぐるワードが出てきた。

 聞きたくないなぁと思っていた俺は一転耳をそばだてる。

 どうやら語り手はクァバルさんと村長夫人で順番に巡るらしく今度はクァバルさんが口を開く。


「【ノーティリカ公国の至宝】とまで称される公女様です。その呼び名は公女様の輝くばかりの銀の御髪と雪の様に白い肌から呼ばれるようになったそうなのですが、そのあまりの美貌は神すらも欲しがると【神の花嫁】なんて呼ばれたりもします。私は間近でお目にかかったことは無いのですが、世界のあらゆる国で有名です」

「ほぉ、それはまた」


 す、すげぇな! 二つ名をトリプルで持つ、だと!?


 その姫さんってもしかしなくてもこの世界の最重要キャラだったりする?


 次々飛び出すとんでも設定に俺はどんどん引き込まれる。もはや最後まで話を聞かずに立ち去ることは出来ない。なにより美人なお姫様の話だ、それだけでも聞きたくなるってものだろう。


「去年のことさね。王城で行われた式典にノーティリカ大公様と一緒にその公女様が招待されて訪れたらしいんだけどね、どうやらその時第二王子が一目ぼれしてしまったらしく、その時は何もしなかったんだけどね。大公様方が帰られてすぐに婚姻の申し込みをノーティリカ公国に打診したらしいんだよ」


 王子様やら公女様やらが出てくると改めて異世界感が増すなぁ。


 しかし村長婦人、他国の姫は様付けなのに自国王子はつけなくていいの?


「でもそれはめでたい事なのでは? どうしてまた戦争に?」


 話の途中だが思った事を指摘した。

 普通に考えて国家間の婚姻の話しとなればありそうな話だ。しかも政略結婚ではなくて恋愛(片思いだが)なら恋物語的で良いように思えるんだが。


「いえ、そうでもありません。なぜなら公女様の他国の王族との婚姻は公国として認める訳にはいかないものだからです」


 だがクァバルさんは首を振りそれを否定する。

 俺が首をかしげるとその答えを直ぐに答えてくれた。


「なぜならば、その婚姻はがお認めにならないからです」

「ほぉ・・・・・・精霊!」


 はいまたきましたわ!!


 厨二病を昂らせるワード上位に食い込む『精霊』。


 姫様の設定が半端ないくらい増し増しですな。もっと詳しい説明ヨロ。


「斯くして戦争は始まりました」


 え!? おいおい、大事な所の説明がまだですよぉ? その精霊なんちゃらとか、その辺りって結構重要なのではありませんかね?


「第二王子が力ずくで公女様を手に入れようとしたのさ。本当に愚かな戦争だよ」

「いけませんよ、奥方。昨日も言いましたがいつどこでだれが聞いているかもしれないのです。不用意に国への、王族への批判は不敬罪として扱われてしまいます」

「はん、それこそ昨日言った通りこんなど田舎の辺境地に誰が来るって言うんだい。国境間近であっても兵士すら寄り付かないよ」


 どうやら戦争を吹っかけられた公国出身のクァバルさんだけでは無く、仕掛けた方の国の人間も怒っているようだ。


 しかし戦争が起きて男達が連れていかれたってことは・・・・・・


「村の人は徴兵されたってことですか?」

「ああ、その通りさね。くだらない戦争の為に男衆は無駄に命を掛けさせられているって訳だよ。これに腹を立てないでなんてするんだい」


 成程、だから男がいないのか。


「第二王子もだっていうじゃないか。その歳で一目ぼれだとか、フラれた腹いせに国を攻めるとか、もう少し思慮深いことは出来ないもんかね」


 王子というから10代の若者を想像していたが結構なおっさんかよ・・・・・・・ぅぐ!?  何故だか少し胸が痛む!


「嘆かわしい限りさね」


 そう言って深い溜息を吐く村長婦人。


「そうですね。私たちからしたら愚かしいことに思えますね」

「本当だよ。まだの公女様相手に何をやってんだか」




「・・・・・・・・・・・・は?」




 ちょ、ちょい待て。


 え、14歳?


 あれ、王子は確か35歳って言ったよね。


 一目ぼれで婚姻を申し込んだって?






 おいおい、この国の王子はロリコンか!!

 そりゃ様付したくなくなるわ!!


 てか、この話属性盛り過ぎだろ!!

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