第40話 やり過ぎた

『結城くわぁ~ん聞いてるけぇ? つ~ま~りぃ、農業のぉ、すあらし~ところはぁ・・・・・・・・地道などぉりょくぅとぉ、あと・・・・・あれよ、愛憎・・・・・・・ぬははははちがったぁ、愛じょうっぷ』


 お酒大好き40代に突入間近の某女上司様が、とある飲み会の3件目あたりで熱心に語った内容を思い出す。


 手間と時間と労力それに愛情を掛けた分だけ喜びと実りが返ってくる、それが農業の楽しさなのだと・・・・・多分そう言っていたと翻訳した。


 確かに一生懸命育てたものにはその想いは一入の事だろう。

 自然と言う抗えないものを相手にしながら手間暇をかけていくのだ、その達成感はやったものでしか味わえないものだ。


 だからこそ思うんだ。

 この目の前に広がっている農地を見て。



 これは何か違うな、と。



 確かに妙な達成感だけはある。けどこの達成感はきっと農業で味わうそれとは違う、と思う。

 体は動かしてはいたよ、ポチポチと画面を押す感覚だけど鍬は振っていた。それにこれだけ広い荒野が綺麗になったことには物凄い達成感はあるんだ。


 けど充実感というか感動みたいなものが無いんだよな。

 何て言うんだろう・・・・やっぱ近い感覚はシミュレーションゲームかな。


 そこには過程など一切存在しない。そうすると決めたら結果が現れるだけという仕組みでしかない。

 ミッションをやり遂げたって達成感は有っても、大変な作業をやり切ったぞぉって感動は一切出てこない。


 そりゃそうだ。だってこの作業に手間と時間と労力、それに愛情が一切掛かっていないのだから。


 だから上司の言う遣り甲斐は得られなかった。

 でもその反面新たに作った【ドルイド】の能力には満足している。

 得られた満足があるとすればそこだろうか。


 だがそれでも流石に5000平米は無理だった・・・・といかMPが全然足らない。

 【地形掌握】スキルは一回のポチっとすれば9平米の範囲が効果対象となる。本来はレベル1なので1m×1mで1平米、いや深さも1mだから1立米になるんだが、それが【森羅万象】というCP10の高コストスキルと合わさることで能力が3倍になった。


 しかも3倍される部分がまた破格。


 なんと体積が3倍ではなく各範囲、つまり縦と横と高さがそれぞれ3倍になっている。それは1m×1m×1mの1立米が3m×3m×3mの9立米と実質9倍に増幅している。


 これはうれしい誤算だった。

 しかも更に使用するMP効率も3倍、つまりMPの使用量が3分の1になるド級のおまけ付き。それはもう27倍の効果ということ。


 CP10でも全然安い買い物だと思った。

 で結果的に消費MPが何と1回の使用で1未満というローコストスキルとなった訳だが、いやぁそれでもここは広すぎて全然やりきれなかった。精々10分の1出来たかどうかだ。

 MPがつきかけたとき気持ち悪くなってやめた。これ以上無理だと。


 で、その時になってやっと自分がやったことを振り返ったのだが。



「・・・・・・これは流石にやり過ぎた」



 荒れ地との差が激しい。

 綺麗に耕した場所と荒れ地がくっきりと分かれている。

 あとやっぱ石と木はどこ行った?


 こうして改めて見ると10分の1の広さであっても異常でしかない。とても見せられるものじゃないぞ、これ。

 見られなければOKなんて軽い気持ちでやっちまったが、出来上がった跡がもっとヤバい。


 うん、だめだわ。どう考えてもアウト。


 この広さを普通に開墾しようと思ったらきっと数か月、いや下手したら年単位かかるんだろうな。


 俺なんて2時間も掛かってないぞ。しかも色々と実験しながらやっていたからこんなにかかったけど、スキル手に入れてからは30分も経ってない。


 ないわぁ、これないわぁ。


 戻そうにももうMPは無いし、何よりMP切れで気持ち悪くてこれ以上何もしたくない。


 などと悩んでいたらどうやらもう時間的にリミットが来たようだ。

 ティルルさんがこっちにやってくる。


「ご苦労様ですハルさん。今日はもうおしまいにして帰りましょうか」

「ティルルさん、お、お疲れ様です。そそそうですね、終わりにしましょうか」


 労いの言葉を素朴だけど癒される笑顔でかけてくるティルルさん。しかも汗ばんでいる所為か妙に色っぽくも感じる。女性特有の甘酸っぱい香りも相まって俺の色々を刺激してくる。


 それだけに惜しい。


 ティルルさんに認めて欲しくて頑張ったつもりだったが、結果ティルルさんに見せられない状態になるなど。


 ティルルさんの相手をしながら俺は冷や汗がタラタラだ。

 何とか見られない様に身体で耕した部分を遮る。


 明日にでもMPが戻ったら戻しておかねばと内心で硬く誓う。


「ふふ、どうでした? 大変でしたでしょ。新たに畑を作るのはとても大変なんですよ、なんてすみません、ついハルさんが簡単そうにいうものですから意地悪をしてしまいました。それと男手が無かったので厚意に甘えた部分もあるんですけど、ハルさんにはこんな事を押し付けて申し訳ない事をしてしまいました」


 そう言って最後は真剣な顔をして頭を下げるティルルさん。

 どうやら俺のあの時の調子に乗った発言に思う所があったようだ。


 俺としてそれをどうこう言うつもりは無かったのだが、改めてこんな恐縮されてしまうと返って居心地が悪い。

 何しろあの発言は邪な考えがふんだんに練り込まれていたのだから。



「あ、いえいえ気にしないでください。私も久しぶりに無心で作業出来て楽しかったです」


 その結果やらかしたけどな。でも楽しかったのは本当だ。


 さてそれよりもこの状況を見られる前にここを立ち去らねば。


「そう言ってもらえると助かります。ところでどのくらい」

「あぁぁぁぁ、それは、あれです、あの、えっと」

「クスクス・・・・そんなに慌てなくても気にしませんよ。でもそうですね、意地悪の件もありますし男の方の自尊心を立てないといけませんね。はい、ここはどこまでできたかは見ないでおきます」


 俺も慌てぶりにどうやらティルルさんは何も出来ていないと勘違いをしたようだ。


 それもそうだろう。今ティルルさんの目に映る部分は本当に何もしていない場所だけなのだから。


 俺も流石に何も考えずにスキルを試したわけじゃない(結果やり過ぎたが)。実験も兼ねていたしスキルを使うからと一応ティルルさんからは見え難いところで使っていたんだよ。

 目の保養が出来なくなるのは悲しかったが、こればっかりは仕方がないとの苦渋の選択だった。


 今となってはナイスな判断だったと言わざるを得ない。

 だから幸いと言うべきか目立つ道沿いはまだ荒れ地のまま。


「さ、戻りましょう」

「は、はい」


 頼りない男と思われるのは悔しいがここはやり過ごすのが最善。

 昨日同様にティルルさんの荷物をさっと担ぎ足早に歩き出す。

 そんな俺をおかしそうにティルルさんが笑う。


 調子に乗ると碌な事が無いと痛感した一日だった。

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