第34話 1ゴルは100円?

「いらっしゃいませ」


 村を歩いて直ぐにそれは見つかった。


 所謂露店、いや移動販売車か。


 馬車の荷台の様な木製の車輪付き台車の上に鍋や器といった生活用品や斧などの鍛冶品が所狭しと陳列されている。


 ぶらついていた俺に声を掛けてきたのは、そんな移動販売車の奥に座った多分中年のおっさんだ。

 多分と付けたのはちょっとぱっと見で判断が難しかったから。


 少し小太りな体形をしているその店主は少年の様なつぶらな瞳をしていて顔の造形も若く感じる。

 それだけであれば太った若い店主なのだろうが、如何せんこの店主額部分が随分と輝かしい、所謂ハゲだ。

 それとよく見ると年季を感じさせる皺が広いおでこに刻まれてもいる。


 年齢不詳だ。


 俺を見て一瞬ギョッとしたがその後すぐににこやかに笑みを浮かべるあたり商売人って感じがする。


「あぁ、えっと男物の服が欲しいのですが、あります?」

「はいございます」


 そう訊くと店主は納得したように頷き、荷台の奥からごそごそといくつかの服を取り出してくれた。

 狭い荷台だが中々品ぞろえが豊富なようで助かった。


「この辺りは如何でしょう。中古品ではありますが品は確りとしております」


 あと、声渋いな!


 年齢不詳の商人さんはバリトーンボイスを奏で、麻っぽい素材の服を広げて見せてくれた。

 地味な色合いの服は如何にも村人Aって感じだ。


「生憎と急な出立だったために種類はここにあるのしか無いのですが」


 申し訳なさそうに店主が言うが、俺としてはザ異世界って感じで凄く良い。


「えっとじゃぁこれを。いくらですかね?」

「はい、こちらは上下セットで50ゴルとなります」


 これは必需品なので迷う必要は無い。

 早速買おうと金額を訊いたら、なんと50ゴル・・・・安!? いや、安いのか?

 そう言えば金の相場が全く分からんかった。


 モンスターを斃して勝手に入ってくるお金。そう言えばこれはこれで不思議な現象だが今はそれは置いておいて、現在俺が所持している金額は約30,000ゴル。特に疑問も何も抱いていなかったがゴルが通貨で間違い無かった。


 上下の服が50ゴルとなると1ゴル=1円って訳ではないのだろう。

 良く異世界物で服は高いってのが常識だ。実際昔だと大量生産が出来なかったから布は貴重で高級品だったらしいし。


 何か指標となるものがあれば判断も出来るのだが。


 そう考えながら商品を見ていると馴染みのあるものを見つけた。


「その赤い実は?」

「こちらは北方名物のリンゴです」


 そうそれは東北の北の方で良くとれる果実と瓜二つだった。だが品種は全く違うものであるのは確実だ。何せ日本のリンゴは品種改良して作られているので、ここにも同じものがあるはずがない。

 名前が同じなのはほうれん草同様、俺の脳内で自動変換された結果なのだろう。多分だが俺の知識に当てはめているんだと思う。


 それはともあれだ。

 これの値段を確認すればある程度の相場は掴める。


「リンゴはここでは珍しいのですか?」


 値段を知る為には希少性は確認しておかなければならない。それと生産地。見た感じではこれは馬車だと思う。それであれば遠方から持ってきたものは必然的に輸送コスト分高くなる。日本みたいに大量輸送はできなさそうだし。


「この辺りではよくとれる部類ですね。えっと失礼ながらこちらの出身ではなくて?」

「はい、私は旅をしています」

「そうですか、それでは知らないかもしれませんね。ここの前に立ち寄ったところで収穫したものです。今は時期的にも良くとれますね」

「なるほど」


 どうやらそれなりにあるものみたいだ。

 ならば希少性も輸送コストもそれなりだろう。


「それはおいくらで?」

「こちらは1つ5ゴルになります」


 ふむ、5ゴルか。微妙な数字が出てきてしまった。

 日本での感覚だとリンゴが一つで100円くらいだが、その考えでいくと1ゴルが20円程になる。だがここは見た感じでは然程文明が進んではいなさそうだから、それだともう少し単価は高いんじゃないだろうか?

 だとすると一個500円くらいすると考えた方が良いのかも。

 なら1ゴルは100円・・・・・・・うん切もいいしその位が妥当かもしれない。


 そうなるとこの中古服が5000円か、まぁ安い気もするがこれくらいなのかもしれない。


 待てよ、1ゴルが100円相当だとすると今の俺の所持金が30000ゴルだから・・・・・・・・・・ふぁ、300万円!?


 マジか!3日間モンスターを倒して得たお金が300万!

 となるとゴブリンを1体倒すと40ゴル落とすから、4000円・・・・・・・・・・・・は高いのだろうか、安いのだろうか?


「お客様、如何でしょうか?」


 などと下世話な部分に思考を割かれ、意外に小金持ちになっていたことにほくそ笑んでいると、店主から声が掛けられハッと我に返る。


 いかんいかん、異世界のあまりの日当の高さに呆けてしまった。


「えっとこの服をいただけますか。それと出来れば同じような服をもう何着かあれば欲しいのですが」

「もう一揃えございます。ですが申し訳ございませんがそちらは少しお高くなりますので、併せて120ゴルになりますが、よろしいでしょうか?」

「ええ、それで構いません」


 何せ300万円分あるからな。


 【システムメニュー】からお金を取り出す。イメージとしては【アイテムボックス】と同じだった。

 右手の中にコインがジャララと出てくる感じは少し気持ち悪い。


 何気に初めて見るこの世界の通貨ゴル。お約束通りのテンプレコインだった。


 銀色の硬貨が1枚と赤銅色の硬貨が2枚。そうなると100ゴルで銀貨、10ゴルで銅貨か。

 なら1000ゴルは金貨で1ゴルは鉄とかか?


 試しに1001ゴル出してみる。案の定金貨が1枚と・・・・・・これは不思議な硬貨だな、多分鉄だと思うのだけど、丸じゃなくて四角い硬貨だ。

 金貨の大きさは500円玉くらいある。


 俺は金貨を見つめる。


 ・・・・・・これ、日本で換金したらもっと高いんじゃないだろうか?


 今の金相場だと1gあたり4800円くらいだったと思う。そうすると、これ1枚で1オンスくらいあると仮定すれば・・・・・・・134400円。てことは30000ゴルを換金すると・・・・・・・・役400万!?


 いや、それほど変わらないか300万が400万だしな・・・・・・・・・・でもこれを日本で売れば。


 は、無いな。


 そもそもあれは金の純度が高い純金での話だし、これ多分純金ではないだろう。

 それに出所不明の金を売るのは色々と危険そうだ。


 金貨と鉄貨は戻し、銀貨と銅貨を店主に手渡し服を受け取った。

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