第30話 身だしなみ

 怯えをみせつつも心配気に声を掛けてくれた異世界人女性はとても優しい人みたいだ。

 更に俺が何でもないと知り安心したのか、胸元で手を組んでほっとした胸を撫でおろした際、ポヨンと二つの女性の象徴が柔らかそうにたわんだその瞬間を、俺は見逃さない。

 

 このお方・・・・・・小柄なわりにをお持ちだ。


 年の頃はだいたい20歳くらいに見えるが、外人(外人括りでいいのかは不明)だから正直判別しにくい。


 流石異世界とでも言えばいいのか、髪の毛が群青色とは・・・・大阪のおばちゃんでさえ躊躇う鮮やかな色彩!?

 だが腰まである長い髪を、背中で無造作に束ねているのはポイント高い。

 多分化粧はしていないんじゃないだろうか?

 すっぴんの肌は健康そうな小麦色で、チャームポイントになりそうなそばかすがある。

 落ち着いた顔立ち。

 総評としては田舎の美人って感じ。


 俺としてはもう少し大人の色気がある方がタイプなのだが・・・・ふむ、これはこれで良きかな。どことは言わないが一部は大変色気があるし!


 それにしても言葉が通じるのは助かる! これも神さんから貰った加護の一部なのだろうが、意思疎通出来ないのはきついからな。


 と、そんな物思いに耽っていた俺を女性がじっと見ている。

 もしかして不躾な視線(主に胸元)に気づかれたとか!?


「大丈夫であればよかったのです」


 後ろめたさに視線を逸らす俺に女性の優しい言葉がかけられる。

 ただでさえ下賎な考えを抱いていた俺は、思わず変な声が出そうになってしまった。


「あの、ことろで・・・・あなたは?」


 そこに来てこの質問。

 引き攣った顔を見られないように逸らしつつ、これ以上の失態を重ねまいと思考を必死に巡らせる。



「私は・・・・・た、です」



 大した答えが出なかった・・・・・・。


 旅人ですって・・・・いや嘘も言ってないし無難でいいかもしれないけど、怪しいと言う点が何も解消できてない!

 でもこれ言い訳では無いんだけど、どんな国があってどんな文化があるか分からないからこれ以上の設定が思いつかなかった。

 正直に『異世界からきました』なんて言えるわけもないし、下手なバックグラウンドを作っちゃうとボロが出そうで、それで出たのがこの無難な旅人。


 

「旅人・・・・旅人さんですか?」 


 あぁ、いまいち納得してない顔だ。眉間が険しくなってるよ。


 だよねぇ、そうなるよね。


 でも色々と誤魔化すにはこれぐらいしか思い付かなかったんだよ。ここに来た目的とかさ、何をしているのかとかさ。


 でも一番聞かれると嫌なのが『出身地どこ』問題だ。


 一番矛盾が出安く答え難い。もし俺が答えるなば必殺の『消防署のから来ました』論法しかない! 明確な地名は出さず方向だけで示す。俺の場合なら最初の森の位置がいいだろうか。そっちから来たよみたいな感じで伝えればギリギリ嘘にならないから顔に出にくい。

 そう言った諸々も含めると意外と旅人は良い解答なのかも?


 さてどうなるかと身構えていると、女性は難しそうに顔を顰めるだけで特に質問は来なかった。

 ただ猜疑心はあるようで探るような視線が俺のを行き来する。


 その女性の反応にどうしていいか分からずタジタジとする俺。


 だがこの後急展開が。


 突然女性が俺の手をガッと掴んだ。


 驚きに体が硬直する。


 女性の瞳が真っ直ぐに俺の目を捕える。


 そして労しげに眼を細め女性がこう口にした。



なんて・・・・さぞかし大変な旅だったのですね」





 ・・・・・・はて?





 おいたわしやと言わんばかりの口ぶりに俺は何の事やらと首を捻る。


「大分お疲れでしょう。それでしたらうちの村でお休みになられますか?」

「え、良いんですか!?」

「はい、よろしければ是非」


 女性の豹変ぶり若干引き気味の俺だったが、女性からの申し出は渡りに船だったので直ぐに食いついた。

 どう話を持って行こうかと悩んでいたのが、まさか向こうからお誘いが来るとは。


 よく分からないことが多いが、こ、これはやはり・・・・なのでは!?


 俺はまさかの展開に喜色で頬を綻ばせる。

 これはもしかしなくとも絶好の機会。

 俺は縁を結ぶべく切り口となる言葉を選ぶ。


「あ、あの、ここで何を育てているのですか?」


 目に入ったには青々とした畑。

 どうやら彼女はこれを収穫していたらしいので、会話の切り口には丁度いい、だろう。


 だが帰ってきたのは俺の予想外の行動だった。


 まるで憧れの先輩にバレンタインチョコでも渡すかのように女性が両手で野菜を差し出してきた。


「これしかありませんが、宜しければどうぞ」


 鼻先に突きつけられた葉っぱの青臭さに眉を顰めた俺には困惑しかない。

 だが粛々と差し出された野菜らしきものを、俺の手は条件反射で受け取る。


「・・・・・・ありがとう、ございます?」


 取り敢えずよく分からないがお礼を口にした。


 もしかして野菜をこうやって渡すことがこの辺りでの文化なのかもしれない。郷に入れば郷にしたがえだ。


 渡された野菜はやはりほうれん草に似ている。

 とれたての野菜には土が付いていて、手が汚れてしまった。


 ただ俺が野菜を受け取ったことで女性はほっとした表情を綻ばせてくれた。

 どうやら受け取って正解だったようだ。


「採れたてですからはおいしいんですよ」


 だが引き続き俺の困難は続いている。

 挨拶の儀はまだ終わっていなかった。


「えぇ、美味しそうですね」

「はい・・・・・・・食べないんですか?」

「え、生で?」

「美味しいですよ」

「・・・・・・・・」


 めっちゃニコニコしてる。うん天然さんだな。

 てか抜きたてのほうれん草食べろとかなんなん?


 え、これそういうもん?


「えっと流石に生は」

「そうです?・・・・・まぁそうですね。私も生では食べませんし」


 おい!


「でもお腹がすいてるんですよね?」



 ・・・・・・・・・・・・・。


 はて?



 女性の言わんとしている事が今一要領を得ないぞ。

 天然さんってのは解ったが、これはそれだけじゃ無い気がする。


 ちょっと考えよう。


 ふむ、これあれか・・・・・・俺が腹を空かせて畑の野菜を狙ってきたとか、もしかして盗賊みたいなものだと思われてる?



「いやいやいやいやいや、要らないですよ」


 両手を振って慌てて否定する。

 もしそんなものだと思われていたらとんでもない。


 違うから。畑狙ってきた訳じゃ無いから。

 そもそも生の葉っぱ食べないから。


「そうなんです?」

「そうなんです!」


 まったく勘弁してくれ。異世界に来て野菜泥棒と勘違いされるなんて冗談じゃないぞ。


 女性はまだ腑に落ちないのか難しい顔をして首を捻っている。


「別に腹を空かせている訳でも無いですし、食事に困っている訳でもありませんから」

「そうなんですね。私はてっきりその・・・・・・・そのようなになるほど困窮していたのかと」


 ん?


 ボロボロ?


 困窮?




 ハッ!!



 自分の体を見た。



 おぅ・・・・・・超ワイルド!!



 袖が引きちぎられて無くなった上着。ズボンは最早ぼろ布。狼どもの返り血で黒ずんだ元ジャージの成れの果ては正に満身創痍。どこの世紀末モヒカンだって格好。


 あぁぁぁぁ、そうだったぁぁぁぁ。


 あの時、狼の群れに襲われた時に服をズタボロにされたんだったぁ。


 しかもまた服を駄目にしたら嫌だからと着替えなかったのを忘れてたぁ。


 うほぉぉ、超ハズイ。


 た、確かにこんな格好していたら野菜泥棒と思われても仕方ない。


「うぇ! だ、大丈夫ですか!?」


 俺はあまりの恥ずかしい失態に膝から崩れ落ちるのだった。

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