第21話 情緒不安定
「おら死にさらせぇぇぇぇこのくそぼけえぇぇぇ!!」
粗ぶった御霊が森の中にこだまする。腕が一心不乱に買ってきた金属バットを振り続ける。
畜生が、ド畜生がぁ!
装着したヘッドライトが照らし出すのは、巨大な木の幹にぶつかり潰れる『モモンガもどき』の姿。
【パワースラッシュ】は使っていない、唯の万振りスイングなのだが。
「イケメンがなんだぁぁぁ、嫁なんかいらねぇぇぇえぇ、おじさんてよぶなぁぁぁ!!!!・・・・・・・・でも恋人欲しぃ、畜生ぉぉぉぉぉ」
恨み辛みのストレス発散は最強のバフになるらしい。
因みにレベルが1上がった。
このタイミングに今迄上がることの無かった【運】が1上がったのは嫌味だろうか?
兎にも角にも異世界に降り立ち数時間。燃える怨念の炎を燃焼させ続けた金属バットは、既に原型をとどめないほどのボコボコだ。そして今の一振りでとうとう完全に折れてしまった。
現代の金属バットが頑丈だと知った一幕でもある。
ようやく荒ぶる御霊が息をつき、静かになった森で空を見上げる。
あぁ、俺が抱える闇は・・・・随分と深かったのだな。
丁度上ってきた朝日が妙に眩しく感じた。
徐々に色付き始める景色を見ていると無性の虚しさが湧いてくる。
ぐぅぅぅ。
タイミングを計っていたかのように腹から情けない音が鳴った。
気分が落ち着き代わりに空腹が思いだしたかのようにやって来た。
「そう言えば向こうで朝食べてから何も口にしていなかったな。色々とあって忘れていたわ」
これも気分転換かとごはんにすることにした。
付近に敵がいない事を【マップ】で確認し、『モモンガもどき』に強襲され難い木々に囲まれた場所まで移動すると、買ったばかりのキャンプ道具を便利になった【アイテムボックス】から取り出した。
真新しい箱から中身を抜き出し、空のダンボール等は再びアイテムボックスに戻す。ゴミは帰ったら種類ごとにまとめて捨てる。異世界に不法投棄、ダメ、絶対!
少し手間取ったがテーブルやカセットガス式の2バーナーコンロを組み立て、最後に有名どころのお高いゆったりチェアをセットする。
準備は整った。
さて、調理を開始しようじゃないか。
作るメニューはもう決まっている。
カップ麺だ。
あれだけ意気込んで準備したのにそれかと思う人もいるだろう。調味料をいっぱい買ったじゃないかとツッコミたくなるのももっともだ。
だがそれらを使うのはまた今度だ。
流石に行き成り屋外調理は敷居が高いし、何よりも・・・・・夜通し戦って疲れた。料理を頑張る気力はもう無いんだよ。
因みにあの『モモンガもどき』からドロップアイテムとして肉が何個か入手しているが、今のところ食べる気はない。あの気持ち悪い見た目の生き物を抵抗なく口にできる程俺はワイルドに育っていない。
「器具の使い方の練習もあるし」
などと言い訳がましい事を声にしながら真新しいポットをコンロにセットする。コンロに無事火をつけると熱に当てられポットの下部分の色が変わる。
お湯が沸くまでの間にカップ麺を準備。それだけでは寂しいので付け合わせとして出来合いのサラダも添える。
数分でお湯が沸いた。
蓋を開けてスタンバっていたカップ麺にそのお湯を注いでいく。
因みに俺はきっちりと水位と時間は確りと揃える派だ。
蓋の隙間から漂う香りに再び俺の腹が鳴く。
【剣術】スキルで包丁の使い方も上手くなるのだろうか、などとぼんやりと考えていると、3分にセットしたスマホのタイマーが森にふさわしくない電子音を鳴らした。
「いただきます」
割り箸を手に挟み挨拶をした俺は勢いよく麺をすする。
何故だろう、部屋や職場で食べるのより何倍も美味く感じる。
選んだのは国民的人気の細長カップのもの。味はシーフード味。森なのにシーフードと思いもしたが、カップ麺の時点でどうでも良い事だった。
因みに俺の一番好きな味でもある。
合間にサラダをついていたのにあっという間に食事が終わってしまった。
怒りって相当腹をすかせるようだ。
ポットに残っていたお湯を再度沸かし、食後のドリップ式コーヒーを淹れる。
漂う香りが何とも言えない優雅な気分にさせてくれる。
一口啜る。
食後の微睡に熱いコーヒーが体に沁みる。
朝のひんやりとした澄んだ空気の中でのコーヒーもまた格別。
ほっと一息いれるとチェアの背もたれに体重を預けた。
ゆったりとした時間が流れる。
さっき迄の荒れていた自分は何だったのかと言うくらいリラックスしている。
モンスターが出るかもしれないところ何に我ながらなかなかにして図太いものだ。
そんなゆるゆると巨木の森で深緑に抱かれていた俺はふと思う。
あれ? 俺は一体異世界に何を求めているのだろうか、と。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。