第十話~事件はいつの間にか起きていた~

 納豆巻きを食べ終わる頃にはロディのお説教が終わっていた。

 ちょっと量が多かったので、お腹いっぱいだ。ちなみに、半蔵に分けてあげようと思ったんだけど、どうやら何かと戦っているようで、受け取ることが出来ないといわれた。糸電話で。懐かしいなと思いつつ、一体何と戦ってるんだろうと考えた。ネズミかな。


 そんなこんなで、気が付くとロディのお説教が終わっていたんだけど、私はいったいどうすればいいの。


「ああ、俺の納豆巻きがっ!」


「ごちそうさまでした」


「お粗末様でした……ってちっがーう。なんで俺の納豆巻きを勝手に食べてるんだよ」


「え、でも……」


 私はそっとロディに視線を向けた。ロディはいい笑顔を浮かべてきた。怒っているようには見えない。別に悪いことをしているわけじゃないから、怒られる理由もないんだけど。

 私がやったことを言えば、納豆巻きを食べたぐらいだし。


「お嬢ちゃん、うまかったか」


「うん、とってもおいしかったと思うけど……なんで?」


「あの納豆というやつは、ほとんどの奴の口に合わないからな。ここにいる料理人でも食えるのはこいつだけだ」


 ロディは不貞腐れた納豆巻き男を近くに引き寄せた。若干顔が赤くなっている納豆巻き男。どう見てもホモだと思う。あれか、実はツンデレというやつか。

 まあ、『恋愛は破滅の後で』の制作人には腐男子が多いって聞いたことあったな。

 よくよく思い出すと、街中のシーンで男同士のカップルが普通に歩いていた。それがイケメンで、このキャラクターが攻略対象だったらよかったのにと何度思ったことか。

 この納豆巻き男とロディの雰囲気が、あのホモカップルなモブキャラの雰囲気と同じだ。

 実はあれか、付き合っているけど納豆だけは認めたくなかったから怒ったとかそんな感じなのかな?

 前世にもいたなー。タバコがダメという理由で別れるカップル。


 そんなどうでもいいことを考えていると、納豆巻き男が「べ、別に納豆巻きを食べれる人が見つかってうれしいとかそんなんじゃないんだからね」とツンデレヒロインのようなことを言ってきた。

 その言葉は、せめてかわいいヒロインに言ってもらいたいと強く思う。

 というか、私に言われても困るんだけどなー。


「そう、でも本当においしかったわ。また食べにくるね。あ、そろそろ時間だわ」


 私はくるりと百八十度回転し、「じゃ」っと一言いって、調理室を後にした。

 ロディからなんか声をかけられたが気にしない。

 それに、今日ここに泊まるわけじゃないからな。お父様やお母様に心配かけるのも良くないと思う。というか、バッドエンドフラグが立ちそうな予感……。それって処刑だよねっ!

 まずった、急いで戻ろう。

 そう思って廊下を走ろうとしたら、ガシッと肩を掴まれた。誰だと振り返るとロディが怖い笑顔をしていた。

 驚きのあまり、私はビクッと肩を震わす。


「嬢ちゃん、調理場ってのはな、包丁とか危ないものがいろいろとあるんだよ。そこを急ぎ足で出ようなんて危ないと思わないか」


「はい……ごめんなさい」


「うん、素直でよろしい。ここでごめんなさいが言えなかったら処刑だったからな。うん、よかったよかった」


 こ、こえぇ。ごめんなさいを言わなかったら処刑って、どんなクソゲーだよ。

 まぁ私はいい子だから? ちゃんとごめんなさいを言って処刑回避できちゃうんだけどね。


 ロディに「ばいばい」と言って調理場を離れた私は、来た道を戻った。

 すると、おかしなことが起きていた。

 部屋の中には、不思議そうに首を傾げるオーク……じゃなくてベルトリオと、その母、皆殺しのセルシリア様がいらっしゃった。

 セルシリア様こえー。だけど、なんか不思議そうな顔をしているんだけど、なんで?


「あら、なんであなたがここにいるのかしら」


「うむ、母上の言う通りだ。汝、なぜここにいる」


「え、ん? なんでって言われましても……調理場に遊びに行って戻ってきただけなんですけど……」


 そう返答すると、セルシリア様が「あらら~」とお母様に似た、のほほんとする声を出して困ったような顔をした。

 そして衝撃的な真実が明かされる。


「リーダー……じゃなくてシルフィー様とガルドス様はもう帰られたので、てっきりヘンリーちゃんも帰ったものかと。置いてかれちゃったみたいね」


「え?」


「どうする、うちに泊まる?」


「え、あ、はい……」


 こうして、突然王城にお泊りすることになった私。これから一体どうなるんだろう。

 ま、まさか……破滅イベントがまた襲ってくるっ! なんかそんな予感がする。だって、だってだよ。普通子供忘れて親が帰るなんてありえないよねっ! そうだよねっ!


 その後私は、セルシリア様たちと楽しく食事をして、セルシリア様と一緒にお風呂に入って、なんかすごい部屋に案内された。

 もうちょっとわかりやすく表現できないのと言われてしまいそうだが、もうすごいとしか私には説明できない。

 そのぐらいすごい部屋なのだ。


 ちなみに、ベルトリオと一緒にお風呂なんてなかった。正直ほっとしている。

 6歳児といえば、まだママとお風呂に入っている年頃。まれに女子風呂で子供見かけたなー。


 だから、一緒に入るのが恥ずかしいとか思うことはない。ベルトリオもしょせんは子供。

 私から言わせれば、6歳児の男の子に裸見られて慌てふためくほうが頭おかしい。

 そんな考えを持つ私でも、ベルトリオと一緒にお風呂に入りたくはなかった。というか、入ってこようとしたところを拒否したのだ。


 理由は簡単。あいつが入ったらお湯が汚れるのとゆで豚が出来上がりそう。

 あと言い出しが取れて、最終的にはお風呂が豚骨スープになるんじゃないかな。

 そう考えると拒否したくなる。相手は王族だけど別にいいよねっ!

 ちなみに、家族以外の異性と風呂に入ると、私が処刑されるそうだ。女性がじゃないよ、私が処刑されるのだ。

 ちょっと待て、なんで私。意味不明だ。


 そんな処刑ぎりぎりのイベントが発生したりもしたが、私の華麗な判断力でうまいこと回避し、現在はすごい部屋で一人ボッチ。

 もう死亡フラグが立つことはないだろう。

 さーて、今日はさっさと寝て、明日帰ろう。

 そう、いきなり処刑イベントが発生する前に……。




   ◇◆◇◆◇◆◇◆




 昨日まで私は朝チュンというものが空想の産物だと思っていた。

 だから、目を覚ました時に鳥のちゅんちゅんという鳴き声を聞いた時は驚いた。

 そして、声の方に視線を向けて、さらに驚いた。


「ちゅんちゅん」


「…………半蔵、何鳥の鳴き声を寝言で言っているのよ」


 そう、私は裏切られた。朝チュンと思っていた鳥の鳴き声がまさか半蔵の寝言だったなんて……。

 ちょっと感動した私の気持ち返してよ。

 そう愚痴を言ってやりたいところだが、気持ちよさそうに寝ている半蔵を起こす気に離れない。だって可哀そうだもの。

 だから私は、そっとベットを抜け出した。なぜかぱっちり目が覚めちゃったから二度寝の気分にはなれないし、それよりも喉が乾いたような、乾いていないような……。

 何かないかと私は部屋に唯一置いてあるテーブルの近づくと、とってもおいしそうなケーキと入れたてのお茶があった。


「なぜここにお茶とケーキが? 誰かが不法侵入して入れたのかな? にしても半蔵……あんたが何も気が付かないなんて」


 ぶっちゃけ、半蔵は護衛として失格だと思う。だって、こんなにすやすや寝ているんだもの。

 すごく無防備な顔。なんかムカつく。だけど憎めないその寝顔がなー。

 まあいいや。半蔵が何も反応しなかったってことは大丈夫なんだろう。

 というか、不審者が王城にやってくるなんてことになったら、警備がやべーって思っちゃうよ。

 だってそうでしょう。ホワイトハウスに暗殺者が侵入するとかそんなレベルの出来事でしょ。ありえないありえない。ありえちゃったらいろいろとまずいしねー。


 何も気にしないようにして、私はテーブルに置かれているケーキに手を付けた。

 テーブルに置かれていたケーキは、季節のフルーツをふんだんに使ったとってもおいしそうな奴で、こう、季節限定で販売されていそうな感じがした。

 でもここは王城。こういったケーキを作ることのできるスペシャリストたちがわんさかいるのだ。

 このケーキを食べたぐらいで変なことは起きないでしょう。


 なぜか近くに会ったフォークでケーキを一口サイズに切り分けて、口に運んだ。


「ふわぁ、これ……おいしい」


 口いっぱいに広がるクリームの甘さ。それと調和するかのようにあとからやってくるフルーツの酸味。甘さと酸味が口の中で混ざり合い、程よいおいしさを感じさせてくれる。

 まるでクリームとフルーツがデュエットしているみたい。

 でもこれ……。


「おいしいけど朝に食べるものじゃない……。寝起きの子供が食べると胃に来るものが…………」


 ちょっとばかし気持ち悪くなり始めた。

 まだ一口しか食べておらず、残りはまだ八割ほど残っている。これを食べないのはもったいない。

 頑張って残さず食べようと意気込んで、私は再びケーキを口に入れた。

 ケーキを食べている途中で、いきなり地面が揺れた。

 しかもかなり揺れている。本来ならビビるところだが、地震大国である日本の知識が備わっている私には大したように見えなかった。

 だから何も気にすることもなくケーキを食べ続けたわけなのだが……。

 なぜか揺れと共に大きな音が近づいてきた。

 そして、乙女の部屋が唐突に開かれる。


「あ、ああぁあぁああああああああああああああああああああああああああ」


 開いた扉の先には、私を指さす豚のベルトリオが発狂していた。

 やべ、なんかフラグが立ったかもしれない。

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