16:ゲーム馬鹿ここに極まれり
午後六時、私たちは宿泊施設の外にある屋根付きのバーべキューハウスのような場所で
メニューは定番のカレーだ。
同じ班になったクラスメイトたちと談笑しながら野菜の皮を剥いたり、ニンジンやジャガイモを切ったりする作業は楽しい。
芹那も一班の子たちとそれなりに仲良くやっているようだ。
もう彼女のことは心配しなくて良いだろう。
「あ、赤石くん戻って来たよ、山科さん」
「えっ」
隣で玉ねぎを切っていた女子から言われ、私は料理の手を止めた。
恵が通路を突っ切って歩いている。
遠くてちゃんとは見えないけれど、足取りはしっかりしている。
顔色も悪くなさそうで、ほっとした。
視線に気づいたらしく、恵がこちらを見た。
バスの中でのことを思い出したのか、気まずそうにいったん目を伏せ、それからすぐに笑顔で片手を上げてくる。
開き直ったらしい。
だったら私も応えよう。何もなかったような顔で。
ここで変に恥ずかしがったら、クラスメイトたちから何があったのか追及されるのは必至!
心の片隅でいまでもグルグル回る「恥ずかしい」という思いを封印し、微笑んで小さく手を振り返す。
その後しばらくは同じ班の子たちに冷やかされて困った。
オリエンテーション一日目の全日程を終え、消灯時刻となった。
消灯時刻は23時。
普段に比べれば早めだ。
でも、明日の集合時刻が朝7時、起床時刻が6時なので妥当な消灯時刻といえる。
女子が集まれば必然、恋愛話に花が咲くものだけれど、さすがに二時間も経てば暗い部屋のあちこちから寝息が聞こえ始めた。
音を立てないようにそっと起き上がり、部屋の中を見回してみる。
隣の布団で芹那も目を閉じているし、起きているのは私だけのようだ。
そうだ、忘れないうちに『ブレリン』の10連ガチャ回しておこう。
私はスマホの光が漏れないように布団を被り、ゲームを起動して10連ガチャを回した。
魔法陣が赤く輝いた。
虹色に光らない時点で最高レアである星7キャラの可能性はないので、がっかりした。
結果は星5が9体、星6が一体。
外れだ。このキャラは使えない。上位互換のキャラを私はもう持っている。
やっぱりそう簡単に強いキャラは出ないよねえ……。
胸中でため息をついて、画面を消す。
恵は10連ガチャを諦めただろうか。
宿泊施設にWi-Fiが通ってなかったから、諦めるしかないよね。
どうしようもないんだし……いや待てよ、自らの睡眠時間を削ってでもゲームで遊ぼうとする、あの恵が、おとなしく諦めるだろうか?
ぽこりと胸中に疑惑の泡が浮かぶ。
Wi-Fiが通っていて、利用しやすい場所といえば、筆頭として挙げられるのがコンビニだ。
そういえば、国道沿いにぽつんと一軒建ってたコンビニを行きのバスの中で見つけた。
ここから徒歩で二十分はかかりそうだけど、恵なら行こうとするんじゃないだろうか。
まさか。いや、でも。
私は布団の中で悶々と考えた末、恵にメッセージを送った。
『起きてる?』
寝てるならマナーモードにしてるよね。
お願いだからそうであって。
私の着信音で起こすことがありませんように。
既読なんてつきませんように。
祈りながら待つ。
五分待って既読がつかなければ寝ていると判断して私も寝ようと思ったけれど、一分と経たずに既読の文字がついた。
『どうかした?』
返って来たのは短い一文。
やっぱり起きてたんだ!
『もしかしたら10連ガチャするためにコンビニにでも行くんじゃないかと思って』
私は高速で文字を打ち込んだ。
『なんでわかったの。ちょうどいま外に出たとこ』
はい!?
慌てて視線を上に動かせば、スマホに表示された時刻は一時半過ぎ。
きっと先生たちが眠るまで待ってたんだ……。
あまりの執念に、私は震えた。
『もう夜遅いし、寝たほうがいいよ』
おやすみ、というスタンプが送られてきた。
『それはこっちの台詞! 睡眠不足で死にかけたくせに何してるの、戻っておいで!』
『10連したら帰ります』
笑顔のスタンプが送られてきた。
ゲーム馬鹿ここに極まれり――アホだ。この人ほんとアホだ、全然懲りてない! 助けて青葉くん!
『ちょっと待って、出発ストップ! 私も行く!』
文字を打ち込む作業すらじれったい。
いますぐ電話して「馬鹿!」って怒ってやりたい。
『なんで?』
『心配だからに決まってるでしょ!』
『大丈夫、祐基もいるし』
どうやら青葉くんはいないようだ。
青葉くんなら全力で止めてくれただろうに、怒られると思って内緒にしたんだな。
風間くんなら止めるどころかノリノリで付き合いそうだもんね。
実際そうみたいだし。
『とにかく私も行くから、待ってて!』
私は畳んでいたパーカーを引っ掴んで立ち上がった。
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