第15回 元魔王、町の勇者を拉致する。
「ユーキがいてくれて、本当に助かった。俺たちだけじゃ、どうしようもなかったからな」
「ほんとにそうですよ。どうするつもりだったんですか」
「だから、ユーキを仲間にしたのではないか」
「なら、先に教えてくださいよ。まさか、あのよくわからない黄色いくてまあるいのが、元魔王様だったなんて……」
「なかなか、おもしろい余興だったぞ」
「ボクは全然おもしろくなかったです!」
ユーキは、コソコの町に組織を残したまま、私たちの旅に加わることとなった。
というよりも、私たちがそうさせたのだった。
言ってしまえば、イトと同じように、拉致したようなものだった。
私の推測のとおり、あの町には、裏組織なるものが存在していた。
ただ、彼らがやっていたことといえば、厄介者の排除や、私たちのような怪しいもの――私は今でも「怪しくない」と言っているのだが――の事前調査などで、あの町の必要悪とでも呼ぶべき存在だったのだそうだ。
実際に、排除方法の検討や、調査後のフォローなどは、町をあげて行っているとのことで、つまるところ、彼らは、町の平和を守っている勇敢なる者たちだった、ということになる。
私たちは、そんな組織をまとめていた勇者とも呼べるものを、こうして連れてきてしまったのだった。
まあ、当の本人曰く、「ボク以外にも優秀なのがそろっていますし、ボクがいなくてもよろしくやってくれますので」とのことで、問題はなさそうだった。
「そういえば、なんで俺が荷物持ってんの?」
「他に持つものがいないからだ。よかったなイト。イトにも役割ができたぞ」
「うれしくねぇよ」
私たちの旅支度は、ユーキが全部やってくれていた。
食料やテントなど、旅にかかせないものが、すべてそろっていた。
ちなみにお金も、ユーキが出した。
それはそうだろう?
なぜならユーキは、もう旅の仲間なのだから。
「でも、なんでユーキを仲間にしようとしたんだ? お金を稼ぐにしても、もっと他にやり方もあっただろうに」
「そうだねぇ、それは、ユーキが魔物になつかれていたから、かもしれないねぇ」
それにユーキは、命ごいのときでさえ、魔物のことを口に出さなかった。
それはつまり、お金や工作といったものとは同列にできないなにかが、魔物との間にはある、ということにほかならなかった。
「訓練をするのにも、信頼関係は必要だからねぇ」
「確かに、ユーキの相棒は、今も幸せそうにしてるもんな」
ユーキの相棒――名はムジーというそうだが、ムジーも、ユーキとともに、私たちの旅に同行することになっていた。
今もムジーは、うれしそうに、ユーキとじゃれあっている。
「ところでさ、俺たちはこれからどこへ行くんだ?」
「そうだなぁ、とりあえず、魔王城にでも来るかい?」
「えぇ……いきたくねぇなぁ」
「でも、他に行くあてもないんだろう? 行ってから次を考える、ってことでどうだい?」
「ちなみに、ここからそこまで、どのくらいかかるの?」
「そうだねぇ、どれだけ早く走っても、ざっと一週間くらいはかかるねぇ」
「めちゃくちゃ遠いじゃねぇかよ、やだよ、そんなとこ行くの」
よく歩いてきたな、とイトは言う。
魔王の力をなめてもらっては困る。
元であろうとな。
「じゃあ、ここでやめるかい? ここで解散して、私みたいに、どこぞで、ひとりで、のたれ死んでみるかい?」
「それも……やだけどさ」
「なら、行くしかないんじゃないかい?」
イトは、んーんー、と首をひねっていたが、納得したのかあきらめたのか、違う疑問をぶつけてきた。
「じゃあさ、俺たちはこれから、そんな遠いところまで旅をするんだろ?」
「そうだよ」
「なら、魔法でひとっ飛びとか、乗り物に乗るとかさ、そういうのはないの?」
「ないねぇ」
ユーキに言わせると「これからのことを考えると、節約できるところはしていかなければならない」とのことだった。
「助っ人は? あの屈強な男たちを、また呼べばいいんじゃないの?」
「あれとの契約は、もう終わっちゃったからねぇ」
「契約? それは、人間の仕事的な意味で? それとも、魔物の使役的な意味で?」
「どっちにしたって、使えないものは使えないよ」
「じゃあ、どうすんのさ……」
「サビレ村の勇者、イトよ。私たちには、こんなにも立派な二本の足があるではないか」
「え……? もしかして……歩くの!?」
「ふふふ、そうだよぉ、歩くよぉ」
「バカなんじゃないの!?」
「バカとはなんだい、魔王に向かって」
「元、だろ? あーもー」
「いいから、ほら、気合い入れて歩くんだよ」
「へいへい」
こうして私たちは、新しい仲間ユーキとその相棒ムジーを加えて、魔王城へと続く、長い長い徒歩の旅をはじめたのだった。
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