第63話 いかさま出版社 その2
フミが連れて来たスピリチュアル・カウンセラーが所属するフェイス社だが、そこから出ている本は読めたものではない。
渚沙は秘書を辞めた後、バイト仲間の美野里から勧められてフェイス社の書籍を二、三冊読んだことがある。例の、なにやらの意識と交信しているという有名な海外発のシリーズ本だ。心に響くものはなかった。トラタ共和国に行ってからは、まったく信用できない内容だと確信した。本格的な精神疾患の病人か、西洋経由の妄想を鵜呑みにした人間が書いているとしか思えないくらいぶっ飛んでる書籍がほとんどだ。
ところで、あの井上潤次郎もフェイス社から本を出している。以前、井上の出版社探しに渚沙が付き合った時に持って回った原稿は、結局どこにも受け入れらなかったので、とうとうフェイス社から出したのだ。当時、渚沙は、フェイス社はやめたほうがいいと井上に話していた。他のフェイス社の本と同類に見られるから、と。
その時、渚沙は、井上の原稿の内容は読んでおらず、生き神シャンタムとナータについて書かれていると聞いていただけだが、実際には、その二人の他に、偽聖者カリルや他の聖者数人の様々な奇跡について紹介されていた。
渚沙は井上が寺院に置いていったその本を読んだ。余計な情報は多いが、井上には妄想癖がない分、他のフェイス社の本よりまともなようだ。井上の観察と正直な感想が綴られており、取材記事のようだった。
井上は早々にフェイス社とトラブルを起こしていた。同書が出版されて間もなく、井上は寺院にやって来て、渚沙の顔を見るなりえらく憤って「フェイス社が本の内容を勝手に書き換えたんだよ」と訴えた。
後に渚沙も出版を経験するし、出版業界にいる知人も何人かいるので少しは知っているつもりだが、原稿は出版社の編集者が校正する。しかし、著者本人に相談もせずに、勝手に内容を変えて印刷、販売してしまうことは普通しない。賞に応募した新人の作品ならあるみたいだが。井上の作品の場合、彼の取材と体験談なのだから作り話ではなく真実であるべきだ。内容がまずいなら著者に相談するだろうけれど、フェイス社は、妄想としか思えないような本や正気の人間が書いているのだろうかと疑うようなスピリチュアル本を平気で出すので、よほどのことがない限り内容を変更する必要はないはずだ。井上から詳細は訊かなかったが、人々の興味を引くために、嘘を加筆されるとか、怪しい内容に書き換えられたのかもしれない。
怒った井上は、別のまともな出版社からオリジナルの内容で再度出版することにした。通常だと出版権に響いてくる。しかし、井上はフェイス社が悪いんだからと強気だった。そのまま特に問題なく他者から出版出来たらしい。コピーライトの問題が未だに浮上しないのは、明らかにフェイス社に非があったからだろう。
この井上の経験と、フェイス社に所属する例の乳癌のカウンセラーのことも合わせて、世に出ている「スピリチュアル」というものはやっぱり信用できないと思った。単なるビジネスであり、洗脳であり、想像や嘘、妄想ではないか。渚沙のドイツの友人で、精神科医ルカの話では、スピリチュアル系の書籍を読むだけでも狂ってしまった患者がいたというので、お遊び程度で終わらせないと怖い……。
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