第61話 日本の自然災害 その2

 ナータに指摘された、長年トラタ共和国を集団でうろつくスピリチュアル系の日本人たち。


 彼らは、あちらこちらの聖者を物色するだけでなく、母国でもスピリチュアル系の「自称なんとか」たちのもとを渡り歩く。詐欺師や病んでいる妄想家が編み出した、あらゆるいい加減な行法に手を出し続け、大金を費やす。「スピリチュアル系ADHD(集中欠陥・多動性障害)」と名づけたい落ち着きのなさだ。大人のみに見られる近代精神病の一種といえると渚沙は考えている。そうした行為から、本格的に狂っていく人たちがけっこういる。そんな風にして狂ってしまった人がまた、リーダーや「自称なんとか」になり悪循環を繰り返しているのが現状のようだ。


 ナータが飛鳥井八洲夫あすかいやすおをはじめとする日本人グループリーダーたちの名前を挙げた後、渚沙は長年の辟易へきえきとしてきた思いを吐き出すように口にした。

「本当に、日本人はすぐにグルになりたがるんですから」


 すると、ナータは渚沙に同意して、こう返してきた。

「そうだ。彼らは人を支配したがり、彼らについていくほうも支配されることを望んでいる」


 これは初めて聞いた。渚沙にはとうてい理解できない「洗脳される側」の心理なのだろう。後に、知人の医者宅にあった医学書で、この時ナータのいっていたことは、「依存」「共依存」の人間関係にあり、けっこう一般的な精神問題であることを知る。

  

 突然、ナータは話題を変えた。 

「ところで、最近、日本では地震や洪水がよく起こっているようだが」

「ああ、そうみたいですね」渚沙はふと思い出した。


 一応そう返事はしたが、実は数日前にネットで見出しを見ただけだった。ネットは、常にメールとホームページのためだけに利用していた。その当時、渚沙は、仕事に追われて睡眠時間が少なかったのと、興味もなくてニュースというものにまったく触れていなかった。稀に、トラタ共和国で災害やらテロが起こったりするが、家族や友人、知人が心配して連絡してくるが、渚沙のほうは「何それ、知らなかった」という能天気ぶりである。最近では「渚沙はナータのところにいるから守られているんだね」といって、誰も心配しなくなった。


 日本はもともと自然災害の多い国だ。この時も珍しいニュースではないと思ったし、深刻さは感じられなかった。長年日本を離れていると、あまり実感が沸かない。一般的に、他国でなんらかの災害が起こったら、あの国でそういうことがあったのかと少し怖いと思ったり同情したりするかもしれないが、ほとんど他人事のように反応するだろう。申し訳ないことだが、渚沙もそれと同じ感覚になっていた。


 後にこの時ナータが言っていたのは、二〇〇四年十月に起こった新潟県中越地震と、その前後に日本各地で立て続けに起こった多数の洪水のことだと知る。予想外に自然災害で甚大な被害が出た年だったのだ。

   国土交通省のサイトの水害レポートには、「平成十六年は、観測史上最多の十個の台風が上陸! 各地で集中豪雨も頻発。また、阪神淡路大震災以来の震度七を観測した新潟県中越地震が発生」と記されている。


 続けて、ナータは変わらぬ調子で淡々と驚くべき真実を明かした。

「日本でそういった自然災害がよく起こるのは、先程のようなグルになりたがる人々の罪によるものだ」

 なんと――今までに聞いたことがない新種のメッセージである。


 神の名を語る偽者たち、自分の欲のために狡猾に神や聖者を利用しようとする者たち、神や聖人の振りをする人間のエゴ、すなわち、偽者、スピリチュアル系たちのそのような行為が罪になるのではないか。単純に考えてもそれは嘘を吐くことであり、ビジネスをしていれば詐欺だ。組織として窃盗、殺人まで犯す者がいる。一般犯罪と異なり、スピリチュアルや宗教という名のもとに、「神」をだしにしている点でかなりまずいのではないか。自然災害なら、無関係な同国の人たちを巻き添えにするほどの大罪だということだろう。


 我が国は、凶悪な事件を起こしておきながら、カルトが大きな顔をしてのさばり存続できるカルト大国である。

 二〇〇三年に白装束のカルトが出現した時、テロを起こしたかの日本のカルト組織の初期の頃によく似ていると危険視され、ニューヨークタイムズを含む、欧米の幾つかの著名なニュースサイトでもとりあげられていた。その時、あるサイトでは、なんと日本には約二十万のカルト組織が存在すると報道されていた。その情報は警視庁の公式サイトからのもので、単に国から認可されている宗教団体の数が、そのように誤って解釈されたらしい。だが、あながち誤報とは言えないと渚沙は思っている。カルトにしか見えない組織、胡散臭いビジネス系が実に多い。


 西洋諸国ではキリスト教社会によって厳しく支配、管理されているために、容易に宗教団体を設立することが出来ないという話は、西洋人たちから再再聞く。先例に挙げたように、テロリストの偽聖者シンニョの影響もあり、伝統宗教以外はすべてカルト視されるので堂々と活動することは非常に難しいそうだ。多くの人々はそういう圧力や支配を不満に思い、教会を離れていったという。しかし、そのお陰で、狂った思想を持つ妄想スピリチュアル系の重病人たちがいるにはいるが、彼らが力をつけてカルト組織が育つことからは阻止され、国や社会が守られてきたようだ。

  

 さて、日本の白装束の事件が取り上げられていた、先の英語のニュースサイトの記事の最後に、次のように書かれていた。

「スピリチュアルが世界中で流行し、多くの西洋諸国がその波にのった。日本も例外ではなかった。しかし、日本は大きく道を踏み外したようだ」と。別のサイトでは、日本のカルト問題の背景に、高度成長期で経済が発展している過程であったことも 理由に挙げられていた。つまり、景気が良くなり庶民の財布がルーズに開かれ、宗教やスピリチュアルがビジネスの道具にされた。道徳的、神聖であるべきものが、金と性に翻弄される貪欲な人々に悪用されてしまったのだ。

   今まで渚沙がトラタ共和国で見聞きしてきた、異常行為で目立つスピリチュアル系は何故かすべて日本人だったことも合わせ、これらすべての情報やデータをまとめると、矛盾するところはなくナータの言葉にも納得できた。


 ナータが日本の自然災害の理由を明かした後、渚沙は冷静だったが何もいわなかった。ナータはそこで渚沙との会話をやめ、集まってきた他の人々に声を掛けていた。そして、「日本人は何故、グループでやって来るのか」という、それまでに幾度となく繰り返された質問は、二〇〇四年のこの日を境に二度と出て来なかった。

   数日後、渚沙は迷った挙句、ナータのこの強烈なメッセージをネットで公表し年明けには機関誌にも掲載した。


 二〇〇五年の春、フミのグループが寺院にやって来た。

 秘書の小室比呂子こむろひろこが開口一番に「ナータは、日本の自然災害はグルになりたがる人たちのせいで起こると言ったそうですね」と、不安げな表情で渚沙に確認してきた。ネットと機関紙のメッセージを見たのだろう。自分たちのことで心当たりがあるといわんばかりの、わかりやすい態度だ。しかし、それで行いを改めるような連中ではないことを、渚沙は百も承知していた。


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