地平線まで




車で走っていた

道は一直線だった

曲がり角は何処にも見当たらなかった

ただ吸い込まれるよう地平線までずっと続いていた

「おれは正しいのかな……」

そのようなことを呟いていた

どうもそれが自分の声には聞こえなかったのだが

「おれは本当におれなのか……?」

答えは無い

助手席に誰か乗っていた

そいつは見覚えのない奴だった

当たり前のようにそこに座っていた

口を開いた

単調な

何もかもに飽き飽きしたような口調だった

「『おれ』なんて言葉を使って自分を表現する奴にかつてろくな奴はいなかったね」

更に続けた

「だから『おれ』は『おれ』のことを『おれ』以外の名称で呼ぶことにしている」

そうなのか

おれは思った

もはやこの世界に断言、出来ることなど何一つ残されてはいない気がした

気付けば赤信号を一瞬で通り過ぎていた

赤信号がどういう意味なのか思い出そうとしたらもう通り過ぎていたのだ

「良い傾向だ」

そいつは言った

おれはそいつの方へ顔を向けた

上から下まで眺めた

腕が十七本、生えていた

「……」

空は晴天だった

もう何も成分が残されていないようなそんな青空だった

車のワイパーが絶えず作動しキュッキュッと何かを拭き続けていた



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る