第三十三話 入学試験

入試の日がやって来た。

3日間しか受験勉強の期間が無かったけど、レティにフィアとラナも加わって家でみっちり教えてもらった。

フィアからは共通語を、ラナからは意外にも計算のコツみたいなものを教えてもらった。

誰しも得意分野はあるものだ。


再び学園の中等部棟に来たら、まずは受付に受験票を取りに行く。


「あ、いらっしゃいませ、この前の、えっと受験票よね。はい、これ、受験票とお守り。試験頑張ってね」

「あ、ありがとうございます。頑張ります!」


お守りはフォルク大銅貨に四つ葉のマークが描かれた物だった。

幸運を呼び寄せるらしいけど、この人が描いてくれたのかな?こんなことしてくれるなんて嬉しいね。

コインは胸ポケットに入れて、いざ!試験会場へ!


き、緊張してきた。

前半の試験は筆記だ。

受験番号ごとにいくつかの部屋に分かれているみたいだ。

僕の受験番号はと。


王立学園中等部 受験票

受験学科 魔法学科 剣術学科

試験会場 王都本校

受験番号 M00124

氏  名 リーンハルト・フォルトナー


Mの124番か。

どこの部屋だろう。

あ、ここだ。


試験会場D 受験番号M00095〜M00123+M00124


……後から僕の番号が書き足してあるな。

3日前だもんな、急な変更をさせちゃってすみません。


部屋の中に入ると僕は結構早くきたはずなのに、既に何人かの受験生がいて、殆どの人が赤い表紙の本を広げて見ていた。

何だろうあの本。

側を通る時にこっそり見てみると、今まで出た試験問題が載っている本のようだった。

去年出たマナの基礎知識問題がチラッと見えた。

なるほど、僕はレティが居たから教えてもらえたけど、普通はああいう本で勉強するのか。


机に受験番号が書いてあるので同じ番号の所に座る。

周りを見ると受験票は机の左上に置くみたいだから、真似をして置く。

ペンは落とした時を考えて何本かあるといいというレティの助言に従って3本持ってきていた。

インクだって2瓶ある。


と思ったら他の人はペンもインクも5〜6個持ってきていた。

どんだけ落とす予定なんだよ。


試験時間が近づくと受験生も殆ど集まってきて自分の席に着き、みんなして赤い本を開き始める。

あれ?あの本買っておいた方が良かったのか。

まあ、今更か。


隣の席はまだ空席のままだ。

欠席か、と思ったら試験開始ギリギリに女の子が入ってきて、大慌てで座っていた。


「ま、間に合ったあ。はあはあ」


おお、良かったね。もう試験始まりそうだったよ。

女の子も周りを見て受験票を机に出した後、ごそごそとずっと何かしている。

ジロジロ見る訳にはいかないから、チラッと目の端に見るとカバンの中を何か探しているようだ。


「ぐわああ、無いぃ。なんでぇ、昨日入れたはずなのに〜」

「はい、試験時間になりますので、机の上は受験票とペンとインクだけにしてください」

「ど、どうしよう、ペンもインクも無いー。そうだ!血で書けばいける?ゆ、指を噛めば血が、うがあ、痛いの怖い」


ペンとインクを忘れたのか。

何しにきたんだよ。

隣の席が血まみれになるのは見たくないぞ。

これって僕が貸さないといけないのかぁ。


「はい。これ貸してあげるよ」

「え?え?あ、ありがとごじゃいまふ!こ、このご恩はい、一生わすれましぇん」

「落ち着いて。もう試験だから深呼吸してほらスーハー」

「はひ。すうううう………。くはっ!くるじい」


大丈夫だろうか。

効果があるか分からないけどやってみるか。


(レーベンの泉)


こっそり生命力回復をしてみた。

乗り物酔いにも効いたんだから、緊張とかにも多少は効能が無いかな。


「あ、ちょっと落ち着いてきたかも。深呼吸スゴイ………。もうちょっとしてみよ。すうううう、はああああ。ああ、いい感じ」


効いた効いた。

さっきの慌てぶりのまま隣でワタワタされても困るしね。


試験用紙が裏向きに配られ、誰もが羊皮紙に穴が開くかというくらいに裏を見つめると、部屋の中は静寂に包まれる。


「よし、始め!」


みんな一斉に2枚の羊皮紙をめくる。

左に問題用紙、右に答案用紙だ。

ペンにインクを付けたら、最初に受験番号と名前を書く。

これを忘れたら大変だ。


まずは、フォルクヴァルツ語と共通語だな。

思っていたより簡単そうだ。

村長さんの家で色々な国の本を読ませてもらっていたから、この2つの言葉だけじゃなくて、ライヒェンベルガー公国語とかマルブランシュ語も読み書きできるし。


全て書き終わって、見直しもしたし、名前の確認もしたけど、少し時間が余ってしまった。

さっきの隣の子をチラッと見るとブツブツ言いながらガリガリ凄い勢いで解答を書いていた。

これなら大丈夫そうだ。


「はい!やめっ!ペンを置いて!答案用紙は裏にして!そこ!もう書かない!」


まずは一つ。

みんな集中していたみたいで、一気に空気が緩和する。

隣の子も「はあああああ」と大きなため息をついていた。


その後も計算や王国の歴史、周辺諸国との関係などの試験も特に問題なく進んでいく。


そして、レティから散々聞かされていたマナや魔法、スキルの筆記試験だ。


『パーティの仲間が瀕死になったので、ポーションや回復魔法で回復させた』


これはどう考えてもマルだよな。

バツになる事ってあるの?

仲間が危ないんだし、回復するのは当たり前だよ。

うん、よし、マルっと。


『パーティ内の魔法使いのマナが無くなったので、戦闘から離脱させて、後方で休ませた』


これはわかるぞ。バツだ!

杖やナイフで戦えるから離脱させない!とかだよ、きっと。

僕自身は実戦なら休ませた方がいいと思うけど、これは多分引っ掛け問題なんだよ。


さっきまでの基礎科目とは違って、マナや魔法関係の科目はやっぱり一筋縄ではいかないな!

でも引っ掛け問題の見分け方もバッチリだし、これならいけそうだ!


そうして、悩みながらも、マナの基礎知識や魔法とスキルの利用ルールの筆記試験が終わった。


「はあああ。終わったぁ。あわわ、ペンとインク、ありがとうございました!とっっっても助かりましたぁ」

「うん。お疲れ様。試験はどうだった?集中は出来ていたみたいだけど」

「はい!何故か今日はすっっごい頭が冴えて冴えて!さっきの引っ掛け問題もいつもは引っかかるのに、今日はズバリ分かっちゃいました!」


回復魔法の効果なんだろうか。

それなら僕自身にも掛けておけば良かったのかな。


「なんて言っても仲間が瀕死になったから回復させた、なんて、そんなのバツに決まってますよね!あ、でも、普段は私こういうのに引っかかるんですけどね」

「ちょ!ちょっと待って!それ……バツなの?」

「へ?バツ、ですよね?」


周りも今の話を聴いていたらしく、ザワザワとしだす。


「あれ、マルよね」

「違うよ、バツだって」


半々くらいで意見が割れている。


「だって、自分も瀕死だったら自分をまず回復しないといけないからバツですよ?」

「そんなバカな!?だって問題にそんな事書いて……そうか、これがこの試験の引っ掛け方だった。分かっていたのに」


周りのマル派も一斉にガックリと肩を落とす。


「あと、その後の魔法使いのマナが無くなったから戦線離脱させたって言うのも引っ掛けでしたね!」

「ああ、それは分かったよ。バツだね」

「ふえっ?マル……ですよ?」


辺りは一層ざわつき出す。


「いやいやいや。だって、まだ武器で戦えるじゃないか」

「少し休めばマナは回復しますから、何もさせないのが正解ですよ?魔法使いがナイフで戦ってもなんの戦力にならないですし、少し休んでも魔法が使えた方が断然有利になりますよ?剣士志望の人向けの引っ掛けですね」


なんてこった……。

僕は魔法も剣術も使えるからマナが切れたら剣で戦えばいい、と思ってしまったけど、普通の魔法使いはそうは行かないもんな。

既に二問も間違いが確定してしまった。

これはダメかもしれない。




お昼を挟んで午後は実技だ。

魔法と剣技のどちらも受けるつもりだけど、始めに魔法学科の方を受ける事にした。


筆記試験とは違い、今度の会場はかなり広い部屋だった。

天井も3階分くらいの高さがあった。


そこに5〜60人程の受験生がいくつかの行列を作っていた。

始めにマナの量を測定するらしい。

僕もその内の一つに並ぶ。


別の列の少し前にさっきの隣の子が居るのを見つけた。

あ、こっちに気付いてニコッと笑って会釈をされた。

僕はこんな時どうしたらいいのか分からないから、首だけでくいっと挨拶をしてしまう。

ダメだ。これじゃあ、カッコつけてるだけじゃないか。

うわ、なんかクスッと笑われてしまった!

もう一度やり直しをしたい……。


転げ回って、うがああっとやりたいのを我慢していたら僕の番がやってきた。


「はい、じゃあこれを持ってね。まっすぐ立って、手もまっすぐ下に向けて、体の横でグッと力一杯握ること」


時計のような文字盤と針が付いた器具を渡される。

持ち手は握れるようになっていて、そこにマナを測る装置が付いているようだ。

力を込める意味はよく分からないけど、思いっきり握ると僕のレベルが高いせいで壊れそうだったから、軽く握ってみる。

文字盤を見ると左端の0の所にあった針が右端の赤いゾーンを指していて、グニャッと曲がっていた。

どうなってるんだ、これ?


「は?これはなんだ?君、何をしたんだね」


教員らしい試験官に訊かれるけど、僕が分かるわけないでしょう?


「壊れたのか?まあ、いい。替わりにこれでもう一度測りなさい」

「は、はい」


もしかして、この器具のマナ量が計測できる限界を超えてしまったとか?

さっきは軽く握ってこうならもっとそうっと握らないとダメかも。


ちゃんと握っているように見せかけて、計測部分は小指の先だけで触るようにしてみる。

これでどうだ!


文字盤を見ると120辺りを指していた。

これは多いのか少ないのか?

こんなの測った事がないから判断できない。

というよりこれってマナじゃなくて握る力を測ってるとかじゃないのか?


「ほう、中々のマナ量じゃないか!ふむ、そうか君は飛び級の子か。流石といった所だな」


まだこれでも多過ぎたのか。

加減が難しい。

というより握り方で数値が変わるって、この器具の精度は信用できるの?


この試験官の発言のせいで、周りからジロジロ見られるようになってしまった。

個人情報をあまりポロポロと簡単に漏らさないで欲しいです!

ああ!さっきの隣の女の子からも奇異な目で見られているじゃないか!

さっきまで親切でステキな人ってイメージだったはずなのに!


次はマナの簡単な操作だって。

テーブルに機械が置いてあってそこからチューブが伸びている。

チューブの先には吹き込み口があって、そこにふうっと息を吹きかけるとマナを口から出せるらしい。

本当に?

マナがチューブを通って機械に入ると、中の板がそのマナの量に合わせてせり上がってくる。

板には目盛りが振ってあるので、チューブに流し込んだマナの量が多ければ大きく板がせり出して、その数値を見れば計測できる、という仕組みのようだ。


みんな必死で息を吹き込んでいる。

これマナじゃなくて、吐き出せる息の量を測ってるって事はないよね。


僕の番がやってきたけど、絶対さっきみたいにこの機械を壊しそうだから、今度は最初から思いっきり手を抜く事にする。

最初にふっと軽く吹いたらあとは、息を吹き込んでいる振りだけで口を閉じておく。

こ、これでどうだ!


「700って……。4歳児並みじゃない。今の本気で吹いたの?」

「ああ!すみません!ちょっとやり方が分からなくて途中で止めちゃいました!」

「もう。もう一度だけよ?はい、今度はちゃんと吹くこと!」

「は、はい」


これもどれくらいか加減が難しすぎる!

今度はふっふっふっと三回吹いてみる。

これならさっきの三倍で2100位ならないか?


「何よ!今度は4100って大人並みじゃないの!こんなにマナを動かせるなら最初からちゃんとしなさいね」

「す、すみません、でした」


何か理不尽な試験な気がする。

いっそのこと思いっきりやってしまおうっかなあ。

ダメか。確実に機械壊しちゃうし。

大丈夫!結果的にはどっちも大人並みの数値らしいし、試験結果としては上々だよ。


よし!後は魔法とかスキルを使えばいいだけだ!

それなら他の人と同じ魔法は持ってるし、問題ないな!


「はい。じゃあ、スキルの基本中の基本、ステータスウィンドウを使った試験を行います」


あ、これダメなヤツじゃん。

試験どころか、窓無しがバレるヤツじゃん!!


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