第二十五話 敵兵
居た!
この名前、完全にノルド人だ!
でもどう見てもこの部屋に人が居るようには見えない。
隠れる場所も無さそうだ。
これはどうなってるんだ、部隊編成に名前が出ているんだから、確かにこの近くにこのアフシャロモフって言う人が居る筈だ。
解析で片っ端から調べてみる事にする。
[解析結果] 1件
隠し扉 真偽判定88.2%
隣の隠し部屋へ続く扉
本棚にある赤い本を押し込む事で開閉できる
おお!隠し部屋か!
開け方も分かるし便利だな、解析スキル。
解析結果にある通りに赤い本を押し込むと、ガチャンガチャンと音がして本棚が横に動き出し、隣の隠し部屋への通路となった。
おおお!これはワクワクする!
男ならこういうギミックには一度は憧れる筈だ!
楽しくなって来て勢いよく隠し部屋に飛び込んでしまった。
そこには当然ながらアフシャロなんとかさんがいた。
あああ、しまったー!
誰か味方を呼んでから開ければ良かった!
でも、飛び込んしまったからには仕方がない。
ここで僕がこの人を倒す、のは無理だから、何とかして捕虜とかにできないかな。
「むう。流石にこの場所も一兵卒にも知らされていたか。しかし、まだ子供ではないか!フォルクヴァルツは子供に戦争をさせているのか」
こちらにも分かるように共通語で話しかけて来た。
意外と親切な敵だ。
「こ、こんにちは。もうこの砦は陥落しますから、大人しく捕虜になってくれませんか?」
こちらも共通語で話しかけてみた。
「クロモリウサギの毛より弱いフォルクヴァルツが我ら栄光のノルドに降伏を説くか!ナメるなよ!俺一人になってでも抗ってみせるわ!」
アフ、、、何とかさんはすらっとロングソードを抜き放つ。
いや、よく見るとロングソードとは違って、刀身は湾曲していて幅も広い。
ノルドではよく使われているシャシュカと呼ばれるサーベルだと思う。
アフさんはそのシャシュカをくるんくるんと回しながらこちらに近づいてくる。
仕方がない、こちらもギベオンソードを抜いて中段に構える。
「なるほど、子供がこんな敵地までよく来たとは思っていたが、ギベオンの剣を持つ者か。見た目に惑わされるとはまだまだ俺も未熟だな」
「この剣を知ってるんですか?」
「我が祖国ではギベオンベアーを倒した者は英雄になると言われている。その剣を持ち、使いこなせると言うのは尊敬されるに値するという事だ」
「そ、そうなんですか……」
「ではお手合わせ願おうか」
アフさんはシャシュカを自分の腕の一部かのように振り回しながら斬りつけてくる。
その斬撃に合わせるように僕もギベオンソードを滑らせる。
シャシュカの勢いを受け切っては体格差がある為に体勢が悪くなるだけだ。
上手く斬撃を逸らして出来るだけ自分の中心に相手の攻撃が通らないようにする。
「こんな所でここまで剣技が拮抗する相手に出会えるとは、人生わからぬものだな!なんだか楽しくなって来たぞ!」
勝手に楽しまないでよ!
早く誰か来てくれないかな。
こっちは致命傷を与えられないんだから、時間稼ぎするしかない。
「ふははは、そう来るか!剣技だけでなく体術も素晴らしいな!こんな者がフォルクヴァルツには居たのか!嬉しい誤算だ!」
なんか気に入られちゃったよ。
このまま仲間になったりして。ならないか。
アフさんはシャシュカを自分の身体に隠すように構える。
そこから繰り出す剣は軌道が見えづらい。
僕にとってはいきなり剣先が目の前に現れるように見える。
頭のすぐ上に現れたように見える剣をギリギリで躱す。
そのまま振り切ると思ったら急に動きが変わり喉元で刺突に変わる。
こっちは下段から切り上げようとしていたから間に合わない。
無理やり肘を上げて切っ先に腕を当てて喉を守る。
痛いけど我慢!
右手は使えなくなったから、左手だけでギベオンソードを持ち直し、腕を上げた勢いでアフさんの突き出してきている手首を狙う。
アフさんは刺突で刺さった僕の腕ごと更に押し込んできた。
痛い痛い!
右手が持ち上げられて体勢を崩し、アフさんの手首には掠っただけだった。
痛いけど右腕にささった剣を踏ん張って今度は動かないようにする。
何をしようとしているか気付いたのか慌ててアフさんはシャシュカを引き戻そうとする。
でも遅い!
剣先が腕から抜ける前に振り上げた左手のギベオンソードを最大レベルで振り下ろす。
シャシュカはキンッと音を立てて半分に割れてしまう。
昇段試験の時よりレベルは上がってるから、あの時よりきれいな断面だ。
アフさんは引き抜く勢いで尻餅をついてしまった。
「はあはあ、残念だ。いい所だったのになあ!だが、最後に良い剣を交えられたのには感謝するぞ!心残りはない!一思いにやってくれ」
嫌だよ。
そうならない為にも時間稼ぎしてたのに、こうなったら、少し脅かすしかない。
「ブラントストフの爆裂」
爆裂の魔法を発動させると、目標を決めずに近くに漂わせておく。
「剣ではトドメは刺しません。この爆裂の魔法でチリも残さず消しとばします!」
「な、何故だ!その剣を使う貴様が何故その剣でトドメを刺してくれない!」
「嫌なら降伏してください!貴方ほどの剣士をここで失うのはもったいない!」
「何を言うか!剣で負けた者に情けは無用だ!降伏なぞせんぞ!」
あれー?ダメか。
結構大きめの火の塊なんだけどな。
怖がってくれると思ったんだけど、上手くいかないや。
これどうしよう。
一度この魔法を出したら消せないし、適当に投げちゃったらマズイかな。
「どうした!俺にはもうその剣を使ってくれないのだろう!くっ!それなら一思いにやってくれ!」
うわあ!もうヤケだ!
投げてやれ!
でもアフさんに当たらないようにちょっとずらして後ろの壁に当てるようにしよう。
変に動かないでね。
「ぬお!これまでか!」
いや、当たらないから。
念の為に人ひとり分以上に離れた所に向かって爆裂の魔法を投げつける。
炎が詰まった魔法の球は石の壁に当たると轟音を立てて爆発をする。
ガラガラと石の壁が崩れ落ちて、とうとう壁一面が全て無くなってしまった。
ええええ。この魔法ってこんなに威力あるんだ。
これ建物大丈夫かな。
外が完全に見えて、まだ他の人の戦っている音がよく聞こえてくるようになった。
「な、なんと!俺にここから逃げろというのか!そうか、貴様は本気で俺を失いたくないと思ってくれていたのだな」
違う違う。何勝手に良いように解釈してるのさ!こっちとしては捕虜になって欲しいんだよ。
そんなに壁が脆いとは思わなかったし。
「ふっ。もっと違う所で会いたかったものだな。次に会うときはこの戦いも終わっている事を願っているぞ。ではさらばだ!」
なんだか良い感じにまとめようとしてるけど、こっちは逃したら怒られるんだから!捕まえなくちゃ!
ああ!壁があった所から飛び出してしまった!
ここ二階だけど大丈夫かな。
急いで部屋の端まで来ると、器用に近くの木を伝って下に無事降りたみたいだ。
この建物の裏はすぐにノルド側へ続く門があった。
その門をくぐればノルドの支配する土地だ。
そこには自国に逃げようと馬を用意していたノルド兵がいた。
アフさんはやっぱり偉い人だったみたいで、ノルド兵達は恐縮しながら馬の手綱をアフさんにも渡している。
馬に乗ったアフさんがこっちを見ると指を二本立ててピッとかやってるよ。
いや、わざと逃したつもりはないんだけど。
これでさっきの魔法をまたあそこに打ち込んだら怒るだろうな。
とうとう敵のお偉いさんを逃してしまった。
これは団長さんに怒られそうだ。
逃げようっかな。
「今の音は何?!ってリンくん!大丈夫なの!何この壁の穴は」
「うへぇ。小隊長すっげえな!どうやったらこんな事になるんだよ」
アーディさんやヴォーさんが部屋に入ってきて、この光景の感想を口にしている。
団長さんも入ってきて壁の穴を見ると驚いて、いや、喜んでる?
それよりも逃した事をどうやって説明しよう。
「リンくん?!その怪我!大変!今助けるー!」
ツィスカさんとアデルさんも入って来たけど、ツィスカさんは何故か大慌てでこっちに来ては回復魔法を唱え始める。
相当焦っていたのか口調もいつもののんびり感が無い。
「ツィスカさん。そんなに焦ってどうしたんですか?ってうおっ!何だ!?これ血か?あ、あの時のか」
「リンくんじっとしていて!今ツィスカが治してるから!こんなに大変な戦闘だったのね」
アデルさんに押さえつけられている間にツィスカさんの魔法で右腕の傷が見る見るうちに治っていく。
「こ、これで治ったあ!良かったよお!リンくんが死ななくて良かったよおお!」
「大袈裟ですよ。ちょっと腕に穴が開いて血が出ちゃっただけですし。ああ、ツィスカさんもアデルさんも汚れるからもう離れて」
「もう!心配かけ過ぎ!こんな怪我したらダメなんだから!」
アデルさんが涙目で訴えてくるし、ツィスカさんはもう号泣状態だった。
「あ、あの団長さん。敵の偉い人を逃してしまいました。すみません」
「ああ、相手も相当な剣士だったようだな。リンくんと戦って傷を負わせ、しかも逃げおうせてしまうのだからな。仕方がない。君でこうなら、我々だったらどうなっていたかと思うとゾッとするよ」
アフさん、ノルドの中でも凄い人だったんだろうな。
名前やっぱり忘れちゃったよ。
アフ、アフ、、、もうアフさんでいいか。
「あの団長クラスの敵が逃亡した事で他のノルド兵も裏から皆逃げたようだ。これで、ザールブルク砦の奪還成功だ!」
「「「おおおおっ!!」」」
んー?団長さんはもしかしてアフさんの存在に最初から気付いていたんじゃないのか?
そこに僕を向かわせて、戦っているところを何処かで覗いていたとか?
この人ならやりかねないな。
その後は、残存兵を捕虜にしたり瓦礫を片付けたりと後片付けをしていた。
でも、砦を奪い返した事で大半は大騒ぎをしている。
まあ、これは仕方がない。
今まで全く勝てる見込みのなかったフォルクヴァルツ王国軍がここまで圧勝できるとは思いもよらなかっただろう。
でも、少し練兵するだけでみんな強くなると思うんだけどな。
兵士達の動きとか、指揮官の作戦とかちょっと甘いというか足りていないというか、その差がノルドとの違いなんだと思う。
って、また僕は変な事を考えているな。
こんな発想、子供がなんで出来るんだよ。
どういう訓練がいいのか、とか、作戦パターンとかがいくつも頭に思い浮かんでくる。
これってレベルのせいじゃないと思うんだ。
クロが何かやってるとか?
後でツィスカさんに頼んでクロと話させてもらいたいな。
戦いの終わった砦の中をブラブラ散歩してみる。
町というには小さいけど、僕の生まれ育ったあの村くらいの広さはあった。
またノルドから攻め込まれないとも限らない為、みんな大急ぎで守りを固めたり武器や食料を整えている。
「あ、あの。ねぇ」
声をかけられ振り返るとレリアがいた。
怪我もなく今回の戦闘でも無事だったようだ。
「やあ。お疲れ様。無事だった?」
「う、うん。あ!あの攻め込む前に掛けてもらった魔法。あれ、凄く役に立ったわ。そ、その、お礼を言うわ」
「ああ、うん。レリアにはいらなかったかもだけど、念の為ににね」
「私だけ専用に魔法をかけてもらっちゃって他の隊員に悪い気がするわ」
第2部隊の中でもレリアだけには専用にテュルキスの妖精を掛けていた。
レリアだから贔屓したという訳ではなく、赤目の剣姫と呼ばれるレリアには有利になるようになってもらった方が勝つ確率が少しでも上がると考えたからだ。
「そ、その、貴方は私の事を心配してくれたという事なのかしら?だから、あの、私の事を守ろうとしてくれたのかしら?」
「そ、そういう訳じゃ、あ、いや、何というか、お、男はこういう事は何も言わずに行動するものだから!だ、だから秘密!」
「そうなのね!ふふっ。男の人ってそうよね。お父様もいつも黙って何でも一人でこなしてしまうわ。貴方は私より年下なのにお父様に似ているわ」
何だかんだ言ってレリアはお父様の事が大好きなんだな。
そのお父様に認めてもらいたいって今もこんな戦場で頑張ってるんだ。
「そ、そのね。あの、町に帰ったら、一度家に戻ってお父様に会おうかと思うの。それでね、貴方にも、い、い」
「い?」
「一緒に付いて、ヤッホー!クロだよー!リン、元気だったー?あれ?このアバター別の物?ま、いっか。でねでね、ちょっちお願いができちゃったんだよー」
レリアが壊れたかと思った。
クロか、これ。
ツィスカさんじゃなくても話せるんだ。
「クロ?いきなりだね」
「そ?まあこれが出来るの条件があるからね!このアバターがリンに好意を抱いてないと繋がらないし、側にいてリンの事を強く考えてないといけないしね!」
「そ、そう」
あまり深く考えたらいけない。
好意っていってもレリアは僕にお父様を重ねているだけだ。
10歳の子供に何考えてるんだって思うけど、そういう好意の筈だから!勘違いしたらダメだから!
そうだよ、そもそもこんな年下に恋愛の好意なんて持つ筈ないよ。
「あははっ。10歳でもそんな事考えるんだねー。ませてるねー」
考えを読むのやめてよ。
いいじゃん、そういうの気になる年頃なんだよ!
「この子がリンの事どう思ってるか教えてあげよっか?この状態なら丸わかりだよ。えっとねー。おおっ」
「わああっ待った待った!そういうのはダメだよ!そんなの覗いたらレリアに悪いよ!」
「ええええ。いいじゃん。そのくらいー」
「いいから!で?何かお願いがあったんじゃないの?」
レリアの顔なのにプクーっと頬を膨らませるのは中々見る事は出来ないな。
可愛いからいいけど、後でレリアに怒られそうだな。
「あ、そうだった。えっとどこまで話したっけ」
「まだ何も」
「そう?じゃあ始めからね。前にリンの運命を奪ったやつの話をしたじゃない?スファレライトって言うヤツ。調べたらね、そいつがリンの運命を誰かに与えたみたいなの!それが誰かまでは分からなかったんだけどね」
それは何か問題なのだろうか。
その人が英雄だか勇者だかになればいいと思うよ。
僕は元々賢者になりたいんだから、英雄や勇者が別の人になるのは好都合だ。
「それじゃダメなの!リンが勇者にならないと私が困るので!主に今後のお給料的に!でねでね。その誰かを見つける方法はわかるのよ」
「ほう。その方法とは?貧乏女神よ」
「びっ、まあそうだけど。この通話のせいで明日からしばらくモヤシだけの食卓よ。それはともかく、この運命を持つ人は勇者になるきっかけがいくつか必要なの。一つずつクリアしていくとようやく勇者の誕生というわけ」
なるほどね。
クロは僕にそれをさせようとしていたのか。
「そうそう、例えばレベルを上げるとか、同族との戦闘とか、ね」
「クエストみたいだね」
「うん、そうなのよ。面倒なのよ。んで、その中に真実の書の閲覧というのがあるの」
おお、じいちゃんに聞いた真実の書か!
そういえばラーシュ写本を見に行くって目的があって村を飛び出したんだっけ。
すっかり忘れてたよ。
「あ、それは私が後回しにしちゃったからね。先にしようと思ってたんだけど、軍に入る機会があったからそっち優先にしたの」
「それってクロが僕の考えを操作したって事?この異様な理解力も知識もクロがやってるの?」
「違うよ。私はきっかけくらいしか影響を及ぼせないの。リンが忘れそうになったら思い出せそうな物が眼に映るようにしたり、誰かの会話に思い出せそうな言葉を混ぜ込んだりとかね。リンの考えを強制するなんてできないから安心して」
本当にそうなの?
だったらたまに頭に浮かぶ聞いたことのない知識とか言葉とかは説明できないんじゃないか?
「知識はリンのお母さんの影響だね。リンのお母さんは過去に真実の書の写本を直接見た事があるみたい」
「え?母さんが?写本って写本の写本じゃなくて、マグヌス写本を見たって事?」
「そっちじゃそんな名前だったっけ。そう、そのマルノフ写本よ!」
「マグヌス写本ね。その知識が僕にも引き継がれているって事なんだ」
「話が逸れちゃたけど、次にクリアしないといけないのはその写本の閲覧ね。原本はもう無いけど写本でもクリアするの。正確なラーシュ写本なら全てを閲覧して知識を得れば達成するの」
全部読まないといけないんだ。
大変そう。
「そう。大変なの。一部とは言え数千ページあるから読むのに何ヶ月もかかるはずなの」
「そうすると、毎回閲覧許可を得ないといけない図書館よりは学校に入学すれば気軽に毎日読めるって事なのかな」
「そう!だから、この勇者候補は学校に通うこと事になると思うの!」
はあ、そうすると、クロは僕に学校に入って、誰が勇者候補なのか探って欲しいのか。
「当たりー!毎日の様に写本を読むような人なんてそんなにいないでしょ?だから簡単だと思うのよ!」
「そうだろうけど、僕には出来ないよ」
「ええっ!なんでー?簡単じゃない!」
「僕は10歳だ。王立の学校は12歳から入れるんだよ!」
「ええええ!そんなー!」
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