第二十三話 功績

一度僕は死んでしまい、そして生き返った。

その間に白い部屋でクリノクロア、クロと普通紙?越しに話をたくさんした。

ような気がする。

今こうして生き返ってみると、あれは夢だったんじゃないかと思えてくる。

だいたい女神様があんなに頭の悪そうな話し方をするのだろうか。いやしない。

でも、あの三択で他の二つを選んでいたら、クロと会話した事は実感できたのかもしれない。


今のこの状況からすると、気絶していただけだよ、と言われればそうなのかもと思えてくる。


目を開けると横に寝かされている僕の胸に顔を伏せて泣き崩れているレリアが見える。

血で汚れるだろうに。

わんわん泣いてるな。

そんなに泣くほど好かれてたっけ?


ウィンドウが開く。




クリノクロアの加護が発動し、蘇生が完了しました

蘇生の代償として最重要要素の一つが消失しました。




あの話はこれか。

本当に死んで、本当に蘇生したんだな。

やっぱりクロと会話したのも現実?なのかな。


「ゴホッゴボッ。レリア、重い」


蘇生はしたけど血が喉に残って喋りづらい。


「え?え?リン!生きて!生きているの!うそ!神様!」


うおお!顔をぐしゃぐしゃにして抱きついてきた。


「ちょっ!くるし、死ぬ」

「あ、ごめんなさい!でも良かった!死んじゃったのかと思ってたから、ううっううううっ」


また、泣き始める。

生きてたんだから泣く事ないじゃないか。

周りのみんなも僕が生き返った事に驚きつつも、喜び合ってくれている。

念の為にと回復魔法を大量に掛けてくれてから、僕が刺されてからの事を詳しく聞いた。


僕がレリアの前に立ち塞がり、敵兵のナイフに胸を刺された後、それを見たレリアが抜剣をしたと思ったら、悪魔のような形相でその敵兵を切り刻んだらしい。

皆んなが羽交い締めにして止めるまで剣を振り回していて、剣を待つ手からは血が滲んでいたそうだ。

その後は僕の胸に手を当て止血をしようとしたけど、ほとんど即死だったみたいで、回復魔法もポーションも一切効かなかったみたいだ。


「そしたら、いきなりあなたが目覚めるんですもの。蘇生魔法なんてあるならもっと早く使ってよ!」

「いや、僕は死んでたんだから魔法は使えないって」

「それに蘇生魔法なんて存在しないですよ〜?」


ツィスカさんも合流して説明してくれる。

他の人達ももうここに全員集まっていた。

敵はとうとう全て倒したみたいだ。


「ならば小隊長殿はどのようにして死から蘇られたのですか?我が故郷に伝わる法術にも死を跳ね除けるものなどありませんよ」


これはどこまで話していいんだろうか。

いまいちクロの存在が僕自身の中でかなり曖昧になってきてるんだよな。

あれは本当にあった出来事なのか、それとも単におかしな夢を死の境で見ただけなのか。

クリノクロアの加護のお陰で生き返れたのはウィンドウを見る限り確かなのだと思う。


「詳しく話していいのかわからないんだけど、女神様の加護って言うので生き返れたみたいですね」

「なんと!女神様の加護を受けられていると!」


第2部隊の人達がざわざわと驚きの声を上げている。

小隊のメンバーはと、あれ?あまり驚いてないな。


「皆んなは驚かないんですか?」

「まあ、小隊長ならそれくらいはありかな〜ってな」

「そうですね。小隊長殿ならむしろ女神様を使役するくらいやってもおかしくはないかと」


いや、おかしいから。

でも、クロなら上手いこと誘導したら言うこと聞かせるのも簡単そうな気がする。

んー。クロからの返事が無いのはさみしい。

やっぱりあれは夢だったのかなー。


「えへへ。寂しがってくれるなんて嬉しい!」


へっ。クロからの返事?

え?でも今のって紙に書かれた文字じゃなくて声だよね。

その声は……。


「あら〜?今私何か喋った〜?」


やっぱりツィスカさんだ。

はっ!もしかしてクロってツィスカさんだったの?


「違うって!今だけこの子の体を借りて話してんの!あんまり長く話せないのよね」


おおっ!その馬鹿っぽい話し方はやっぱりクロだ!


「だまらっしゃい!ああもう、時間制限あるから手短に話すね!あのね、貴方が蘇生するときに、ふあああ、何これ〜?何で私勝手に喋ってるの〜?うわちょっといきなりマナで抵抗してこないでよ!それでね、リン!貴方の、ああーリンって呼び捨てだ〜。いいなぁ。邪魔しないでよ!今大事な話を」


途中からツィスカさんわざとやってない?

ややこしいから少し待ってもらおう。


「ツィスカさん、すみませんが、今話しているその人に少しだけでいいのでツィスカさんの身体を貸してもらえないですか?」

「えええ〜身体を貸してってリンくんのエッチ〜」


うぐぅ。いつの間にも増して意地悪な事を言うな〜。

あれ?ツィスカさんちょっと怒ってるの?


「ツィスカさん。後でちゃんと説明しますし、えっと、町に帰ったら食事をご馳走しますから、ね?」

「ふーん。リンくんって結構女のあつかい慣れてるんだね〜。分かったよ。今は折れてあげる。はい、どうぞ〜」


ツィスカさん笑顔だけど、何か怖い。


「あの、ごめんなさい。なるべく早く説明します。えっと、リンが蘇生した瞬間なんだけど、私とは別の神が干渉してきたの。こんなの普通はやったらダメなんだけど、そいつが蘇生の時に元の身体に戻される筈のリンの運命を横取りしてしまったみたいなの」

「運命を横取りってどう言う事?」

「ホントはリンは将来、英雄とか勇者とか呼ばれる存在になって、9人の仲間と一緒に魔王を倒す筈だったの。そうなる運命だったのにその運命そのものを奪っていってしまったから、多分リンは勇者にはなれなくなっちゃったのよ」

「そうかー。それは大変だー。ま、そういう事もあるって。クロモリウサギに噛まれたと思って諦めなって」


おおっ、ツィスカさんが動き始めたぞ。

クロが動かしてるのか?

と思ったらツィスカさんが僕のほっぺを両手でバシッと挟み込む。


「いひゃい」

「なーに言ってやがんの、この人は!勇者が現れなくなったら、魔王にこの世界は支配されちゃうのよ!まあ、魔王ったって今はまだ、ただの人だし?リンと同じで魔王として生きる運命を持っているって事なんだけど。でも、確実にこの世を破滅に導く予定のある人なのよ」


そんな明日の予定みたいに。


「ほれへも……ちょい手を離してって。それでも、奪った運命で他に人が勇者になるんじゃないの?」

「奪ったそいつがその気ならね。でも、人の運命を奪うような奴が世界平和の為に使うわけないでしょう!アイツがそんな事をする筈ないのよ!」

「知ってる人なの?」

「うん。スファレライトっていうんどけど、元、神様。不正がバレて辞めさせられちゃったの。今回もアイツがリンの蘇生の時に割り込んで来て運命を勝手に持ってったっていう痕跡が残ってるの」


はああ。神様の人達も大変だな。


「だからね。リンにはその運命をスファレライトから取り戻してもらうか、自力で勇者になってくれないとこまるのよ!」

「そんな事言われてもなー」

「ちょっとやる気出してよ!生き返らせてあげたでしょー?あんないいスキルだってあるんだし!やってくれないと私が無職になって困るのよー!」


それが本音か。

運命とか勇者とかそんな事、急に言われてもこっちが困るな。


「ああ、フォルトナー小隊長。ちょっといいかな」

「え?ああ、第2部隊長。はい、どうぞ」

「さっきからその小隊長の部下は何を言っているのかね。女神やら勇者やら、妄言癖でもあるのか?」


説明するのも面倒だなー。

自分でもまだクロの話を信じきってないし、クロ自体怪しい存在だし、ええい、誤魔化しちゃえ。


「ああ、この人はたまにこうなるんですよ。精神的に参った時にもう一人のこの人が出てきて、こうやって話に付き合ってあげると落ち着くんです」

「そ、そうか、それはまた難儀な部下だな。第1部隊は変人の集まりというのはこういう事なのか」


すんなり納得してくれるのはいいんだけど、これって今までの第1部隊の変人っぷりのせいだよね。

普通こんなに簡単に信じないよね。

第2部隊の人達は撤収の準備を始めに行ってしまった。

今回の戦闘では僕だけが死んだらしい。

唯一の犠牲者に皆んな集まって祈りを捧げてくれたみたいだ。


「ねぇ、今の話は本当の事なのでしょう?あなた一体何者なの?死んでしまったのに生き返るし、女神様と気さくに話しているし、そんな人がなんでお父様の部下なんてやってるのよ」

「レリア。お父様と僕は無関係なんだって」

「そんなはずはないわ!だってそうじゃないとあなたとの関わりが無くなってしまうじゃない!」

「え?あ、いや、まあそうだけど。僕とかかわりたくなかったんじゃないの?」

「そんな訳ないじゃない!私を命懸けで助けに来てくれたあなたを嫌いになれる筈ないわ!」


まずい気がするな。

貴族のお嬢様が助けに来てくれた王子様的な何かを僕に求めていないか?

その上、死からの蘇生に女神様だもんな。

あまり、僕に夢を見ないようにさせないといけない。


「レリアは第2部隊の作業をしなくていいの?僕はもう少しツィスカさんと二人で話しがしたいんだ。レリアには関係ない二人の大事な話をね」

「あ。そ、そう。私はお邪魔だったのね。ごめんなさい。私ったら一人で盛り上がってしまって。あっちに行くわね」


ああああっ。心が痛い!

涙目だったな。

でも、レリアは一時の気の迷いで少し混乱しているんだ。

町に戻ったら我にかえるはず。

その時に恥ずかしい思いをさせない為にも今は心を魔物にして、冷たくあしらわないといけない。

レリアはトボトボと第2部隊の撤収準備に行ってしまった。


「さて、クロ?さっきの話だけど僕は勇者とか英雄になる気は無いからね」

「あの〜。もう時間切れだ〜って言ってたよ〜。また、お金が貯まったら連絡するって〜」


今の会話もお金かかってたんだ。

クロも意外と大変なんだな。


結局、今の会話を信じたのは僕達、第1部隊のメンバーとレリアだけだった。


エルズさん辺りは勇者になるべきです、とか言ってくるかと思ったけど、誰も何も言わずに黙々と前線基地に戻って行った。


その日の夕方には前線基地に戻って来る事ができた。


第2部隊が全員かける事なく救出できた事、その上あの辺りにいた敵部隊を全て倒した事、それを成し遂げたのが僕の魔法によるものだと第2部隊長が団長に話していた。

まるで親バカな父親が息子を自慢するかのように説明していたものだから、最後には団長に親子なのではないのかと疑われたくらいだ。


それだけではなく、副隊長やレリア、ヴォーさん達の説明もあり、全て僕の功績となってしまった。


「あの、団長さんやっぱり違うと思うんです。僕は今回後ろに隠れて魔法をちょっと打ってただけなんです。とても褒められることはしていないんです」

「相変わらず変なところだけ子供のままなんだな。リンくんが何を言おうと、この功績は変わらない。君の魔法が無ければ第2部隊は全滅していただろうし、敵の全滅などあり得なかっただろう」

「そうよ。自分が倒すだけが力ではないのよ。周りをよく見て考えて行動する力が無いと全員生き残れはしないわ」


前にじいちゃんからも似たような事を聞いたような気がする。

あの時は真実の書の写本を見に行こうとしていたっけな。

真実の書ならクロの事も勇者の運命も書いてあるのかな。

僕は知らない事が多過ぎる。

まだ10歳だけど、もっといろんな事を知りたい。


「そこでだ。まだ戦場の真っ只中だが、他の団員の士気を鼓舞する意味もある。リンくんを6段騎士に昇段、昇格して更にカーネリアン勲章を授与することになった」

「は?え?どういう事ですか?さっき帰って来て今説明が終わったばかりですよ?それなのにもう勲章って、早過ぎないですか?……つまり、どうあっても僕が戻って来たら受勲させるつもりだったんですね」

「ふうむ。気付いてほしく無いところは、こうやって見破るのだから調子が狂うな。まあ、そういう事だ。だが、今回はそれに見合った働きをしたのだから、胸を張って受け取るといい」


つまりは政治利用されたという事だ。

今回の第2部隊の救出作戦をうまく利用して、この騎士団、いや王国内の騎士団に組する派閥の実績にするという狙いだろう。

窮地に追いやられた仲間を命懸けで助けに行くなんて、誰もが好む英雄譚だ。

それを達成した僕に叙勲すれば授ける国王を含め、それを後押しした派閥の人達の名声も上がる。

敵軍を一掃してしまったおまけ付きだ。

最大限利用して来るつもりだろうな。

あれ?僕は何でこんなに理解が早いんだ?

こんな事、誰にも教えてもらった事ないし、もちろん経験もない。

10歳になった時の教会じゃあお祈りの仕方も分からなかったというのに。

レベルが上がって知力も上がった?

それともこれもクロの加護なのかな?

後でクロに聞いてみよう。









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