第二十話 救出作戦

朝、外の騒がしさに目が覚める。

何だ?何か起きたのかな?

眠い。

もう少し。

寝る。


ああ、もう騒がしい!


「レーベンの泉」


おお、すっきり!眠気なくなった!

もしかしたら全然寝なくてもこの魔法で済んじゃいそう。

でも、絶対これ後で何か副作用とかあるよな。

あまり多用しないようにしておこう。


さて、眠気も寝る気もなくなったところで外の様子を見に行ってみよう。

着替えて小屋の外に出ると、皆んな慌てて走り回ってる。

アーディさんだ!


「アーディさん、皆んな慌ててどうしたんですか?」

「あ、リンくん!丁度良かった。一緒に付いてきて!」

「は、はい」


アーディさんに連れらてある小屋に入る。

そこには団長とテオ隊長や他の隊の隊長、他にはグレーナーさんも居た。


「団長、お待たせしました。外でリンくんに会ったので連れてきました」

「ああ、そうだな、聞いてもらった方がいい」


何だろう。団長も他の人達もピリピリしてるみたいだ。

何が起きたんだ。


「私から説明します。今朝方、第2部隊から通信魔法で緊急連絡がありました。その内容は、『敵に遭遇。洞窟に避難。包囲されている』と言うものでした。通信魔法は暗号化しているため詳しい状況までは分かりませんが、おそらく今現在も洞窟に篭って身を守っているのかと思われます」


そんな事になっていたのか。

レリアもそこにいるはずだが無事なのか。


「その後にもう一度だけ、『現在膠着状態。至急救援求む』と連絡が来ました。隊員の安否は不明ですが、出来るだけ早く救助に向かう必要があります」

「そこでだ、急ぎ少数精鋭で救出チームを組み、第2部隊の救出に向かってもらう。本来ならしっかりと部隊編成を組んでいくところだが時間がない」


でも、その救出チームも危なくないかな。

戦場を混乱させて時間稼ぎをするとかなら行けるか?

とにかく速さ重視で一チームだけでも送り出すという事なのかも知れない。


「本来なら無謀な作戦なのだが、リンくん、キミがいてくれて良かったよ。その力で第2部隊を救い出して欲しい」

「え?えっ?僕一人加わっても無理があるんじゃないですか?」

「ふむ。キミはもう少し自分自身の力量を計れるようになった方がいい。まあ、今はその話はいい。リンくんを小隊長として臨時の部隊を組む。以後フォルトナー小隊と呼称する。メンバーには回復役も欲しいな、アーディ、急いでテオとリンくんとで部隊編成を組んでくれ」

「はい。了解です。テオ隊長、リンくん、隣の部屋で作戦会議をしましょう」

「は、はい」


僕が小隊長?

それでうまく行くのか?

アーディさんとテオ隊長と僕とで隣の部屋に移動する。


「俺が行きたいところだが、団長は何故かフォルトナー中心で考えろと言う。この貴族のお坊ちゃんにそんなに手柄を立てさせたいのか?」

「テオ隊長。リンくんは貴族の出ではないですよ。無理に手柄を立てさせるつもりもありません。リンくんだからこそ今回の作戦がうまくいくと団長はお考えです。それに私もリンくんなら成功すると考えています」

「ふん。こいつが失敗したら今度こそ俺が出る」


こいつ、いつも人の話聞かないよな。

未だに僕の事を貴族の人間だと思い込んでる。


「救出チームを構成しましょう。回復役がいた方がいいからツィスカかリュシーは入れましょう。どちらがいいかしら?」

「えっとリュシーさんってどなた?」

「あら?ウェーリンガーさんとよく一緒にいる女の子よ?会ったことあるわよね」

「ああ、回復師でしたっけ。でもできれば話した事のあるツィスカさんの方が連携しやすいでしょうかね」

「そうね。じゃあツィスカにしましょう。あとはスピード重視だからエルズさんは絶対でしょう。あとは、敵の包囲網を突破する必要があるからヴォーさんが適任ね」


そうこうして、救出チームが編成された。


僕を小隊長として、ツィスカさん、エルズさん、ヴォーさんの4人だ。

少ない。

こんな少なくて平気かな。


その後、すぐにでも中隊規模を編成して、追いかけて来るらしいけど、やっぱりその規模だと準備するのに時間がかかるらしい。


「4人ならすぐに動けるし、皆んな身軽な人ばかり選んでいるから、とにかく第2部隊に合流するなり、敵の後ろから威嚇して隙を作るなりして欲しいの。リンくんなら敵を殲滅させる事も可能だと思っているわ」


そんなに過剰な期待されても困るな。

こんな事ならレベルをもう一個上げておけば良かった。

それと、殲滅させる、か。

敵を倒さないと味方に危険が及ぶ。

ここは心を決めないといけない。


3人が集められアーディさんから説明を受けている。

僕はというと倉庫に来て武器を探している。

元々持っていた短剣はマルネで買った安物だ。

すぐに折れてしまうだろうからここで好きな武器を見繕ってこいと言われて物色中だ。

そうは言っても、僕に武器の良し悪しなんて分からないし、時間無いから今持っているものより良さそうならいいかとも思う。

これでいいかな〜。

一本の短剣を適当に持って振ってみる。

あまり今持ってるのと違いがあるように思えない。


あ、そうか。解析スキルがあったよ。

草花の判別に使ってたけど、武器も分からないかな?



[解析結果] 1件

ショートソード 真偽判定85.2%

主材料:鉄

サビあり

歪みあり


あ、出た出た。

この剣はダメっぽそう。

次々と使えそうな武器を掴んでは解析していく。

どれも似たような性能ばかりだから、もうその辺の適当なのでいいかな。



[解析結果] 1件

ギベオンソード 真偽判定68.8%

主材料:ギベオンベアー


んん?なんだこれ?

持った感じは普通の剣だけど、細かい模様がびっしり入っていて面白い。

ギベオンベアーって全身銀色の熊の魔物だよな。

どこを切っても硬いから皮を採取するのも一苦労だとか。


剣は少し重いけど、レベルが上がっているからそこは問題ない。剣を振る瞬間に軽く感じるようになる。

切れ味も良さそうだしこれにしようかな。

帯剣して倉庫の外に出ると、皆んなは準備ができているようだった。

僕が一番遅かったみたいでごめんなさい。


「ほいほいー。小隊長さん、号令かけてよー」

「ヴォーヴェライト。小隊長殿に失礼な口利きをするな」


エルズさんはそういう上下関係に厳しい人なのかな。

この人だけあまり話した事ないから緊張する。


「あ、じゃあ、行きましょうか。アーディさん、行ってきます。あ、連絡ってどうすればいいですか?」

「ツィスカかヴォーさんなら私と通信魔法で会話できます。4人共出来るだけ離れずに、どうしても別れる時はツィスカとヴォーさんがバラけるようにしてくださいね」

「分かりました」


4人で前線基地を出て、まずは街道沿いをザールブルク砦に向かって進む。


「あ、あの」

「なあに?何でも言っていいんだよ〜、しょたいちょさん」


しょたいちょさんって何だ?ああ、小隊長か。


「少し急いだ方がいいので走って進みたいのですがいいですか?」

「問題ありません。小隊長殿」

「いいよ〜」

「おっし、俺様の走りを見せてやるぜい」


馬が使えれば一番良いんだろうけど、ここから先は深い森の中に入ってしまい、徒歩でないと進めないらしい。

街道から外れて、第2部隊がいるであろう方角に向かって走り抜ける。

当然道も無く、木々の間を抜け腰まである薮を掻き分けて行くけど、かなりの速さで進んでいく。

方角を間違えないようにしないといけない。

馬車の中で作っておいた「着弾誘導スキル」がうまく利用できている。

元々は遠隔地に魔法を誘導して当てる為のスキルだ。

大体の距離と方角を決めるとそこに魔法が飛んでいくという補助魔法なのだが、魔法を使わず誘導先を出したままにしておくとその場所をずっと維持してくれる。

方角くらいはこれで掴めないかなと思って試してみたけど、距離も近づくたびに更新されるから後どれくらいかも分かった。

あと4ハロンくらいで着きそうだ。

ちらっと後ろを見ると3人共ちゃんと付いてきていた。

あ、いや、ダメだ。

皆んな付いてはきてたけど、必死の形相になってた。

一旦止まって休憩にする。


「みんなごめんなさい。少し急ぎ過ぎました」

「ぜいぜい。早えよ小隊長ー、もうちょっと年上を労ろうよ」

「はあはあ、これくらい、問題、ないです。はあはあ、わ、私が付いていけないなど、あってはならない、のです」

「ふひ〜、もうダメ〜。ツィスカはバテバテよ〜」


考え事をしながら走っていたから、ついレベル任せの速度になってしまった。

一時的にも小隊長になったんだから、隊員の状態もしっかり把握しておかなくちゃ。


「ヴェルフリッシングの種」


皆んなに体力を回復する魔法をかけて回る。


「ほえー。小隊長さんはそんな魔法も使えるんかー」

「付いていけないばかりか、回復までしてもらって申し訳ない」

「……」


あれ?ツィスカさんが黙っちゃった。

回復役を取っちゃったから怒ってしまったかな。


「リンく〜ん、それって馬車で使ってた魔法よね〜。それってもしかして体力回復の魔法とか?」

「え、ええ。そうですよ」

「すっご〜い!レア魔法よねぇ?レーベンの泉と合わせるとずっと動きまわっていられるって学校で習ったヤツだ〜!」

「そ、そうですか」


怒ってないみたいだ。

珍しい魔法なんだろうかな?

そう言えば作る時のSPが結構多かったような気もする。


「えっと、あと4ハロンも進めば目的の場所なので3分程度で着きます。もう少し頑張りましょう」


今度は少しゆっくり目に走り、ちょくちょく後ろを見て適切な速度になるよう気をつけた。


「っ!会敵!」


運悪く敵の張る陣の近くに出てしまった。

20人前後が居て休憩をしていたり、第2部隊への戦闘準備をしている最中だった。


「て、敵襲!!総員戦闘態勢!」


ダメだ!敵はすぐに戦える状態だ。

このままだと囲まれて一気にやられてしまう。

仕方がない!覚悟を決めろ!


「ブリクスムの雷鳴!!」


バリバリバリバリ!!


広範囲の敵に上空から雷をまるで雨のようにいくつも落とす魔法だ。

自分より前方全てを攻撃対象として狙ったから、こっちに迫って来ようとしていた敵のほとんどに雷が突き刺さる。

バタバタと兵士達が倒れていく。

でも、音は凄いけど威力は出来るだけ落としたから、皆んな気絶しているだけだ。

覚悟が決まらなかった。

やっぱり人と魔物は違う。

それで味方の皆んなに危険が迫ったらどうしよう。

色々考えてしまうけど、今は戦闘に集中しないと。


間近で鳴った轟音に少し驚いたけど、味方の皆んなはすぐに立て直して攻撃に入る。

エルズさんはロングソードを抜き、雷の範囲から逃れた敵に向かって行く。

剣を振る度に敵はどんどん倒れていく。

強い。


ヴォーさんはいつの間にか奥の休憩中だった敵兵士の側までたどり着いていて、ナイフを両手で上手く使って背後から急所を斬っていく。

寛いでいて武装も外していたから、いとも簡単に倒されていく。


ツィスカさんは、雷魔法に当たりつつもまだ動ける敵に炎の魔法を打ち込んで留めをさしている。


僕が威力を落としたとしても、結局は命を奪う為の手助けをしてるんだ。

むしろ味方を危険に晒す分、僕の選択は悪手でしかない。頭では分かってるけど、ためらってしまう。


「ズワールテクラハトゥの枷」


敵数人の体全体を見えない重しで押さえつける。

魔法に捕まった敵は手をあげることも出来なくなり皆んな跪く。

そこへエルズさんとヴォーさんが次々と斬り捨てて行く。

一番嫌な事を皆んなに押し付けて、僕は後ろで気持ちが楽な事ばかりしてる。


これじゃあ、テオ隊長が言っていた、後ろで戦いを見ていれば地位も名誉も得られる貴族のお坊ちゃんと同じだ。

僕がそんな風に悩んでいるうちに戦闘はあっさり終わってしまった。


僕達は全員ほぼ無傷。

薬すら塗る必要が無いくらいだ。


敵は全員倒した。こちらは4人しかいない以上、捕虜にするのもできないし、最後まで抵抗され続けたから倒すしかない。

同じ結果なら僕が最初の魔法を手抜きせず全力で打ち込めばもっと味方が安全に倒せた筈だ。

はあ、何をやってるんだ僕は。


「楽な戦闘だったなー。小隊長、あの魔法すごいな!致命傷にはならなかったけど、あれで半分以上行動不能になったもんな」

「小隊長殿の支援魔法にも助けられました。囲まれそうになると、すぐに敵の足止めをしてくれたので、私も楽に戦えました」


そんな事はない、僕は怖気付いて手抜きをしたんだよ。

僕は人の命を奪うのが嫌で、それを皆んなに押し付けて逃げたんだ。

でも、こんな事も言えない。今ここで言ったらいけない。

と、思う。

ああ、ダメだ。

皆んなに覚悟のないヤツだとガッカリされるのは嫌だ。


「いいんだよぉ。リンくんは人の命を奪わなくていいの!リンくんが居てくれたお陰で皆んな生き残れたんだから、それでいいの!ね」


あ、ツィスカさんには見抜かれてた。

僕のワガママを。

恥ずかしい。

でも、今はツィスカさんの言葉に甘えていいかな。


「うぅ、ごめんなさい」

「そうだったのか、気が付かなくて申し訳ない。小隊長殿が何をしても素晴らしい活躍をするから、年齢の事をすっかり忘れていました」

「まあ、10歳だもんなー。よし、トドメは俺たちに任せな!小隊長はさっきみたいな支援魔法をヨロシク!」

「エルズさん、ヴォーさん……」


結局、僕の甘い気持ちが皆んなの優しさを利用しているだけなのだけど、今は皆んなの暖かさに甘えよう。

でも、もっと心も体も大人にならないと。





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