12 お誘い

「今度、ウチの国であるレガトゥースの集まりに、亜忍連れていくんでしょ?」

「表舞台に立たせたくないけど、なんせ体がイルマ嬢だからね。公にするしかないだろう」

「だよねー。じゃあ、参加者名簿に加えとくね。とりあえず、岳都派でいいよねー?」

「ああ、そうしてくれ」


 また、私の知らない言葉が出てくる。というか、岳都先輩と恋町先輩の会話のテンポが良すぎるのだ。


「あの、レガトゥースの集まりって何ですか?」

「あ、説明不足だったね。

 派閥があって、互いに不仲だとしても、世界が滅びるようなことがあっては互いに困るだろう?それで、半年に一回、公にされている全てのレガトゥースが集まる会議があるんだ」

「今回は、カンミナーレ共和国うちでやるから、ウチが責任者なのよ~。めんどくさいったらありゃしない」


 岳都先輩が説明し、恋町先輩は愚痴を漏らす。


「それに私も行くんですね?」

「ああ、そう言うことになる」


 全てのレガトゥースが、宝宮学院の生徒ならば、私の知ってる子もいるかもしれない。少しだけ、楽しみだ。勿論、不安の方が大きいけど。


「いつですか?」

「二か月後だ」


 遅いのか、早いのか良く分からない時期にあるんだな。


「それまでに、亜忍は魔法を完璧に使えるようにしといたほうがいいよ。たまに、双方実力行使になるからね」

「え、そうなんですか……?」


 特別な魔法使い同士の戦いは、きっとかなり激しいのだろう。想像するだけで、恐ろしい。


「実力行使に出るのは、女子たちだろう?」


 呆れるように、岳都先輩がため息を吐いた。


「ウチは手加減してるよー?」

「恋町の特有魔法アルス・マグナは使ったら、大変なことになるだろう?」

「あはは、だよねぇ。だから、普通の魔法で遊んでるんだよー?」

「恋町先輩の特有魔法アルス・マグナってそんなに強力なんですか?」

「コマチ様の特有魔法アルス・マグナは、『無』なんだよ、アシノ」


 バシリー君が、恋町先輩の特有魔法アルス・マグナを教えてくれた。


 無、か。名前からして、かなり強力そうだ。


「そ。ウチの特有魔法アルス・マグナは何でもかんでも消しちゃうの。まるで、そこに何もなかったみたいにね」

「存在自体を、消してしまうってことですか?」

「そうそう。日常生活とか、淀みとかには便利なんだけど、対人戦には向かないんだよね~。人を殺すより質悪いじゃん?」

「そうですね……」


 明るい声音でそう言ってのける恋町先輩に、少しだけぞくりとした。

 たぶん、何人か人を消したことがあるのだろう。


「察しがいいねぇ、亜忍?」

「……そうですか?」

「そうだよ~。中々面白いじゃん、亜忍。

……ねえねえ、私のところおいでよ」

「……どういう意味ですか?」


 唐突に恋町先輩がそんなことを言い出したので、私は理解が追い付かなかった。


「カンミナーレ共和国で私と暮らそうってこと。男と暮らすより良くない?それに、パルフェット帝国にいたら、命がいくつあっても足りないよ」

「……確かにな。この国でレガトゥースが暮らすのは窮屈だ。亜忍が平穏を望むなら、恋町の所に行った方がいいかもしれない」


 恋町先輩の言い分に、岳都先輩も納得する部分はあるようだ。

 だけど、岳都先輩の言い方は、あくまでも、自分で決めろ、というものだ。


 自分で選ぶ。それは、困難で、残酷で、重いものだ。

 でも、私の考えは決まっている。この世界から、イルマ=デューク=シュタインマイヤーという人を奪ったと知ってしまったときから、私の心は決まっている。


「私は、ここに残ります」

「ふ~ん、どうして?」


 にやり、と口元を緩ませながら、恋町先輩は聞いてくる。

 そんなに、面白いものじゃないんだけどな。

 それは、ただの私の罪滅ぼしだ。


「イルマさんの意思を少しでも継ぎたいからです。私は、イルマさんという人をこの世界から奪ってしまった。その償いを、少しでもしたいんです。岳都先輩がやろうとしている、改革を手伝うことで。この国で、淀みに怯えている人を救うことで」

「成る程ねぇ」


 なんて言いながら、首を縦に振る恋町先輩。その様子を見て、私は何故だか不安に駆られる。


「あの、いけないでしょうか?」

「いやいや、感心しただけだよー。この世界に来たばっかなのに、そこまで自分の意思が固まってるとは。流石だねぇ?」

「褒められるようなことじゃないですよ」

「亜忍は自己評価が低すぎるよ。謙遜しすぎるのも良くない」

「……」


 全てを見通すような目で、恋町先輩は私を見てくる。お前を知ってるぞ、と言わんばかりの緋色の瞳に私が映っている。


「まあ、勧誘は諦めるしかないねぇ。残念残念」

「そうしてくれ。亜忍は、俺に、俺たちにとって必要不可欠な存在だ」

「……ちゃんと、守ってあげてよね?」

「そのつもりだ」


 ……恥ずかしい。この会話聞いてるだけで、恥ずかしくなってくる。きっと、今の私は相当顔が赤いはずだ。


「あ、紅葉もみじえにしにはいつ紹介する?集まりの前に紹介してた方がいいよね?」

「そうだな。2人の予定に合わせる」

「りょうかーい。

 さて、そろそろウチはお暇するかぁ。仕事放り投げて来ちゃったし。お茶とお菓子おいしかったよー、バシリー」

「ありがとうございます」


 恋町先輩の言葉に、バシリーはペコリと一礼した。


「じゃ、また今度ー。日程は分かり次第伝えるねー」

「よろしく」


 こうして、恋町先輩は帰っていった。



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