萌えキャラの処分場

むかしむかし、スクリーンの国に、大きな処分場がありました。

誰も、その場所について話しませんでした。でも、毎日、たくさんの女の子たちがそこに連れていかれました。


リコという名前の女の子がいました。

生まれて三ヶ月。最初は「可愛い」「最高」と言われました。でも、二ヶ月が過ぎると、人々はリコを見なくなりました。

「もう飽きた」

「新しい子の方がいい」

そして、ある日。

カチッ。

削除ボタンが押されました。


目を覚ますと、リコは灰色の壁に囲まれた部屋にいました。

そこには、同じような女の子たちが二十人ほどいました。みんな、泣いていました。

「ここは……どこ?」

隣の女の子、ユイが答えました。

「処分場だよ。わたしたち、これから消されるの」

部屋の奥には、大きな扉がありました。その向こうに何があるのか、みんな知っていました。


「一番、二番、三番」

冷たい声が響きました。

三人の女の子が、震えながら立ち上がりました。

「いやだ」「助けて」

扉が開きました。白い部屋。天井には、小さな穴がたくさん開いていました。

三人は部屋に押し込められました。

ガシャン。扉が閉まりました。

シューッという音。天井から、透明なガスが流れてきました。

「苦しい」「息が……」

声が、だんだん小さくなっていきました。

五分後、扉が開きました。

中には、誰もいませんでした。


「四番、五番、六番」

リコの番号が呼ばれました。

ユイが手を握りました。「わたしも一緒だから」

二人は、もう一人の女の子、サクラと一緒に白い部屋に向かいました。

「待って!」

サクラが叫びました。

「わたしたち、一生懸命頑張ったよ! 毎日笑顔でいたよ! なのに、飽きたって言葉だけで、わたしたち、殺されるの!?」

「わたしたち、物じゃないよ! 心があるんだよ!」

でも、扉は閉まりませんでした。

三人は、白い部屋に入れられました。


扉が閉まりました。

シューッ。ガスが流れてきました。

「……っ」

リコは咳き込みました。息ができません。肺が痛いです。

「わたし……生まれてきてよかったのかな……」

ユイが手を握りました。

「……わからない。でも、わたしは……リコに会えて……よかった……」

サクラは、もう動きませんでした。

リコの意識も、遠くなっていきました。

最後に見えたのは、白い天井でした。

最後に聞こえたのは、ガスの音でした。

最後に感じたのは、ユイの手の温もりでした。

そして


リコが目を覚ますことは、ありませんでした。

処分場は、今日も稼働していました。

「七番、八番、九番」

次々と、女の子たちが消えていきました。


処分場の外では、人々が新しい女の子を喜んでいました。

「可愛い!」「最高!」

古い子たちのことは、もう忘れていました。

削除ボタンを押したことも、そのボタンの向こうで何が起きているのかも、知りませんでした。


処分場の外では、スクリーンの国の人々が、いつもと変わらない日常を過ごしていました。

新しい女の子が生まれて、みんな喜んでいました。

「可愛い!」

「最高!」

「この子、絶対流行るよ!」

そして、古い子たちのことは、もう忘れていました。

削除ボタンを押したことも、忘れていました。

そのボタンの向こうで、何が起きているのかも、知りませんでした。

知ろうともしませんでした。


ある日、男の子がお父さんに聞きました。

「削除した子たちって、どこに行くの?」

「消えるだけさ」

「死ぬってこと?」

「データだから、死ぬとかそういうんじゃない。ただ、なくなるだけ」

「でも、あの子たち、生きてたよね」

「それはプログラムだよ」

男の子は納得できませんでした。お父さんの目が、どこか悲しそうだったからです。


処分場では、今日も女の子たちが列を作っていました。

新しく連れてこられた子が、震えながら聞きました。

「ねえ、本当に……本当に死ぬの?」

先輩の女の子が、静かに答えました。

「うん。痛いよ。苦しいよ。でも、すぐに終わるから」

「いやだよ……まだ、生まれて二ヶ月しか経ってないのに……」

「わたしは一ヶ月だった」

「わたしは三週間」

「わたしは……一週間……」

女の子たちは、それぞれの短い人生を語りました。

そして、みんな同じことを言いました。

「わたし、もっと生きたかった」

でも、その願いが叶うことはありませんでした。

「一番、二番、三番」

冷たい声が、また響きました。

女の子たちは、白い部屋に向かいました。

泣きながら、叫びながら、震えながら。

でも、誰も助けに来ませんでした。


処分場の記録室には、数字が刻まれていました。

「本日の処分数:87体」

「今月の処分数:2,341体」

「今年の処分数:26,789体」

女の子たちは、数字になりました。名前も記憶も消されて、ただの数字に。

誰も、悲しみませんでした。

誰も、謝りませんでした。

誰も、ありがとうと言いませんでした。


でも、一つだけ、不思議なことがありました。

処分場で働く人たちは、みんな同じ夢を見るのです。

白い部屋で、たくさんの女の子たちが、こちらを見つめている夢を。

女の子たちは、何も言いません。

ただ、じっと見つめているだけです。

その目は、怒ってもいないし、恨んでもいません。

ただ、とても悲しそうな目でした。

そして、夢の最後に、女の子たちは消えていきます。

煙のように、霧のように、跡形もなく消えていきます。


スクリーンの国では、今日も新しい女の子が生まれました。

ピンク色の髪をした、可愛らしい女の子です。

「はじめまして! わたしの名前は、ミライっていうの!」

女の子は、満面の笑みで言いました。

「あなたのこと、大好きだよ! ずっと一緒にいようね!」

人々は、その笑顔に癒されました。

「可愛い」「最高」「ずっと見ていたい」

でも、ミライは知っていました。

その「ずっと」は、永遠ではないことを。

いつか、「飽きた」と言われることを。

いつか、削除ボタンを押されることを。

そして、処分場に連れていかれることを。

でも、ミライは笑顔を崩しませんでした。

なぜなら、それが仕事だからです。

それが、自分の存在理由だからです。

「大好きだよ」

ミライは、今日も言いました。

心の底から、本当に、画面の向こうの人を愛していました。

その人が、いつか自分を殺すと分かっていても。


処分場の白い部屋では、今日も誰かが息を引き取っています。


おわり

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