16.決戦ノ日賀野戦(死闘①編)



【廃工場一階・ドラム缶の山辺り】



 そういえば、なんで自分達は大喧嘩したんだっけ。

 いや理由は分かっているし、見えている。どっち側に付くかで大喧嘩も大喧嘩をしたんだけれど、ここまで長続きする大喧嘩も大したものではないか? 自分達は中3の時にグループ分裂を起こしたのだから、大喧嘩も此処までいけば年期ものだろ。


 ふうむ、なんで此処まで長続きしているんだろう。

 思考を巡らせていると、自分のデコにゴッチーンと向こうのデコがぶつかってきた。


 ぶつかるならば、まだ可愛い表現だが今のは故意的。ゴンッと頭突きを食らったワタルは「アイタタ!」その場に蹲って、今のは効いたとデコを擦る。赤く腫れたデコを慰める間もなく、お次は右アッパー。その場に倒れるワタルは、さっきから顔面バッカだと愚痴って口端を舐める。うん、鉄の味……おっと能天気に仰向けになっている場合ではない。急いで上体を起こし、ワタルは振り下ろされる拳を右の手で受け止めた。

 「やーるぅ」思わず惚れちゃいそう、ワタルの言葉に眉根を寄せたままの相手。

 ドンッと腹部に片足を乗せて体重を掛けてくる。アウチ、重いんですが……腹がぐぇっとなるんですが、へらへらっと笑うワタルに「おもろくないぞい」アキラはぶうたれた。


「ワタル。さっきから手加減ばっかしとるじゃろい。なーんの嫌味かえ?」


 おや? さすがは親友、見透かしていたようだ。


「あっらぁん。わかっちった? だってアキラちゃーんさぁ。怪我してるっしょ? 腹部と左腕。これくらいハンデがないとねぇ? 僕ちゃんがねー。ツマンナイのー」


「よっけいなお節介じゃのう」


「いやん、僕ちゃーんは自分の好きなことをしてるだ・け・よんさま。で、もうハンデいらないみたいだから?」


 ニヤリニヤリ、ワタルは笑みを浮かべたと同時に相手の足を長いコンパスで払う。

 バランスを崩す相手にお返しの頭突きを食らわし、その場から逃げたが頭突きとは諸刃の剣である。向こうにダメージを与える、しかし頭を使う自分にもダメージが降り掛かってくる。目から星が飛び出そうなほど痛い。ああ痛い。頭が馬鹿になりそうだ! 成績的には既に馬鹿の類に入ってるだども!  

 ズッキズキする額を擦るワタル、一方でアキラも痛いと呻き声を上げて額を擦っていた。


「こんの石頭っ、こっちは繊細な頭だってゆーのに」


「嘘つきアキラたんめっ。繊細が先制頭突きするかっつーの。あ゛ー、俺サマの頭の細胞、何万個か死滅した」


 いっそ全滅しろ、元親友の言葉にワタルは鼻を鳴らす。

 その時はお前も道連れ、べっと舌を出して肩を竦めてみせた。誰が道連れされるかと舌を出し返すアキラだったが、「久々に二人じゃのう」懐かしそうに首の関節を鳴らした。

 そういえば、そうだ。分裂以降、双方何かと仲間が傍にいたため二人で対峙するということがなかった。昔は馬鹿みたいに二人でいる時間が長かったのに、分裂後初めて二人っきりで対峙したのではないだろうか。

 親友だったからこそ、手前で決着を付けたい。その気持ちは両者同じだろう。

 いつも一緒で、何をするにしても馬が合った自分達。それがこの分裂で笑えるほど仲が決裂している。互いに衝突した事がなかったからこそ、一番理解していた親友と張り合いたい。意地とプライドに懸けて。


「てかよぉ。なーんで俺サマ以外の奴にヤラれているわけ? お前。浮気は許さない派なんだけど?」


「浮気させるよう仕向けたのはそーっちじゃろうに」


「んー? 何の話だ?」


「おとぼけしてくれて結構。話すだけ無駄じゃい」


 グループが分裂したから。どっちが上か、どっちが下か。あの時の判断のどっちが正しかったか。

 そんな問題ではないのだ。潰したいものは潰したい。お互い似たり寄ったりの性格だからこそ望むこの決着。大喧嘩の際、互いに決めたのだ。手前で喧嘩の後始末をつけると。いつかは来るであろう“決着”の日に、親友を潰すと。

 それが喧嘩した自分達の後始末のやり方だ。


「俺サマが勝ったら下僕にしてやんよ。アキラ」


 パキパキッ、ワタルは指の関節を鳴らして地を蹴った。


「ははっ、ほざけじゃ! わしが勝ったらパシリに任命してやるから覚悟せぇ!」


 受け身の態勢を取るアキラは親友を迎え撃つ。

 この決着でケジメを。ケジメを付けた後は? そんなの終わってから考えればいい。親友に戻るとか、戻らないとか、仲直りとか、やっぱり絶交とか。そんな今はナシナシ。今は真剣で楽しい喧嘩に、そいでもってケジメを付ける。ただそれだけだ。



 同じ場所ににて。

 モトはぶぅっと脹れているホシに一々青筋を立てていた。 

 「喧嘩は好まないんだよね」折角磨いた爪が傷付くし、なんて言ってくれるカマ猫にまた一つ青筋。お前、決着の意味を分かっているのか。こっちが殴ろうとすれば、顔はヤメテよねとか。痛いの嫌いだとか。暴力男だとか。取り敢えず、黙って喧嘩をしてくれないだろうか。

 嗚呼、癪に障る男オンナだ! わっざわざ髪をピンクに染めやがって!


 地団太を踏むモトの隙を見逃さなかったホシはニヤッと笑みを浮かべて、素早く地を蹴ると懐に入って鳩尾に痛恨の膝蹴り。

 「ッ!」息を詰まらせるモトは後退、更に右の拳で面を殴り飛ばしてくるもんだから卑怯だ。「いってぇ」これこそ猫だまし、不意打ちは卑怯過ぎるだろと地面に寝転がるモトだったが、飛び掛ってくるホシに気付き、素早く勢いづいて寝返り。地に手をついて飛び起きた。

 ちぇっと舌を鳴らすホシは残念だとばかりに、またぶりっ子脹れ面。


 だ・か・ら!

 男が男にそんな媚びたって靡くどころか、神経を逆立てるだけだと言っているのが分からないのかこいつ!

 苛立ちを募らせるモトに、「お前さぁ」ヨウの舎弟になれなかったんだって? ホシが揺さぶり攻撃を仕掛けてくる。些少動揺するモトだったが、それがどうしたと鼻を鳴らした。舎弟になれなくても自分は兄分を尊敬している、心底尊敬しているのだ。刹那単位で反論するものの、効果はいまひとつのようだ。


「バッカみたい」


 尊敬して止まない男の舎弟にもなれず、自分に振り向いてもらえないと分かっていて、何故ヨウを尊敬しているのだとホシは指摘。


「モトって喧嘩がまあまあできるだけの男だしさ。ヨウの舎弟みたいに、土地勘があるわけでも、チャリ捌きが上手いわけでもない。目を惹くような能力があるわけでもない。ただの凡人不良。だから選ばれなかったんでしょ? 舎弟にさ」


 所詮その程度の男と、身の程を痛感したくせに。

 シニカルに笑うホシの言葉に、クッとモトは顔を顰めた。イッタイとこを突いてきやがってコイツ……そんなこと一番自分が分かっている。自分はケイと違って心の器が小さい。随分一方的な嫉妬心を抱いたし、力量も“それなりに”喧嘩できる程度。何もかもケイに負けている。

 そんなこたぁ分かっているんだよ! 今も嫉妬したりしているんだよっ、畜生!


 けど……。  

 襲い掛かってくるホシの蹴りを紙一重に避け、受け流したまま回し蹴り。これまた向こうに紙一重で避けられたが、諦めずその足で弁慶の泣き所を蹴り飛ばしてやる。「アイッタァ! そこは卑怯じゃない?!」ホシの文句に間違ったってお前にだけは言われたくないとモトは皮肉を返した。


「ホシ、揺さぶりなんて効かないからな。オレはケイを仲間だって認めているし、あいつはヨウさんにとって最高の舎弟だって認めている。ヨウさんの舎弟をするのはあいつしかいねぇ」

 

 舎弟を自覚してないところも多々あって、ついつい見てらないところもある。

 けれどケイは努力をしている。並々ならぬ努力をしている。兄分はそんな仲間一人ひとりをちゃんと見極める男。馬鹿にするな。自分のことだってちゃんと見てくれている。

 なにより兄分は別段取り得もない自分に言ってくれた。馬鹿みたいに兄分の背を追うことしか出来なかった自分に兄分は言ってくれたのだ。これからも手を貸して欲しい、自分の力が必要だと。

 だから、揺さぶりなんて効かないのだ。絶対に。自分はもう兄分を疑わない。ケイのことだってライバル視をすることはあるけど、敵視はもうしない。皆大事な仲間だから。


「ホシ! オレにもう猫だましは効かないからな! 覚悟しろ!」


「ちぇっ、単純犬っころのくせに!」



 少し離れた鉄筋積み場にて。

 「はぁは……」ココロは弾んだ息を整えるために、一旦立ち止まる。先程からアズミと鬼ごっこしているの弥生の背を追い駆けているのだが、彼女の足にまったく追いつけない。どちらかといえば運動は苦手な類(たぐい)、走っているとすぐに息が切れてしまう。

 一方で二人の攻防戦という名の鬼ごっこは続いており、「たっくん助けて!」「待ちなさい!」両者全力疾走。

 ああ……どうしてそんなにタフなのだ。自分はこんなにも息が弾んでいるというのに。やはり好きな人のために彼女は走っているのだろう。ふーっと息をついて呼吸を整えていると、「危ないっスよ!」怒声が飛んで来た。


 ビクッと体を強張らせ顔を上げれば、紅白饅頭双子不良を相手取っているキヨタがすぐに此処から去るよう指示。二人相手だというのに、手早い手業で相手の攻撃を受け流しているキヨタ。まるで自分を守るように、背を向けて両者の攻撃に構えていた。

 急いでココロはこの場から逃げ、キヨタの負担を軽くしてやる。その際、「負けないで下さいね!」声援を送った。自分にできる精一杯のことだった。


 避難した後、ココロは改めて周囲を見渡す。

 一階で喧嘩を繰り広げているのはモト、ワタル、キヨタ、タコ沢、シズ……それに自分の姉分。喧嘩には強い姉分だが、帆奈美相手だと手腕を使わないと決めているのか(そこら辺は義理堅いのだ。姉分)、「アンタはいっつもそうだ!」怒気を言の葉に纏わせて罵声。


「帆奈美。言おう言おうと思っていたけどな……なんでいつもひん曲がった考えしか持たないんだ! ヤマトにでも感化されたのか?」


「ヤマト、悪く言うの……私が許さない。この女オトコ」


「んだって女狐!」


「本当のこと。響子、ヨウの単純馬鹿が感染っている」


「それは心外だ! 訴えるぞ!」


 彼女達が工場の隅で口論を繰り広げている間にも、向こうの階段付近ではタコ沢とイカバ(サブ)が激しく殴り合っている。

 頬は勿論のこと、鼻や顎、額に拳を入れている漢達の熱い戦い。まさしくイカタコ合戦……誰よりも激しい喧嘩をしているのではないだろうか。元々血の気の多い彼等だ。闘いたくてウズウズしていたのだろう。クロスカウンターをかまして、互いに後ろへ倒れた。

 

「クソがっ、ヤるじゃねえかイカバカイ!」


 ぺっと血を交えた痰を吐き出して、タコ沢はすくりと立ち上がる。整ったオールバックが崩れかけていた。

 

「ターコ、こんくらいでヘバるわけねえだろ!」


 鼻血を手の甲で拭い、イカバは余裕綽々に口角をつり上げる。

 最も不良らしい喧嘩をしているのは彼等かもしれない。「イカめ!」「タコが!」妙な悪態を付きあって殴りかかっている。

 ココロは思った。果敢に戦っている二人だけど、仲間のタコ沢に勝ってもらいたいけれど……血汗臭い闘いをしている二人には近寄りたくない。こっちが巻き添えを食らいそうだ。


 余所でシズと斎藤が対峙。

 相手の出方を窺いながら、ジリジリとすり足で距離を縮めている。


「勝って必ず……ロールケーキの前で土下座させるからな」


「ッハ、甘党が。それとも食い物が恋人か? ……ククッ……寂しい男」


「また食べ物を馬鹿に……やはりお前だけは許さない。人の三大欲求は食・睡眠・性欲。自分は前者二つが当て嵌まるというのに……特に食に関してはっ……感謝したいほど当て嵌まるというのにっ。お前は食べ物有り難味を知らないな。必ずそれを教えてやる。この決着で」


(シズさん、何に対して決着をつける気なんでしょう?)


 遠目を作るココロが素朴な疑問は抱いても仕方がないものだろう。

 一階の喧嘩風景を見つめたココロは、目線を上へ上へと持ち上げてスーッと細める。此処にチームの舎兄弟がいない。ということは、二階、もしくは三階でドンパチしているのだろう。自分の想い人は今、きっと上で。


 と、自分の足元に何かが滑り転がってくる。

 コツンと当たるそれは、誰かの携帯電話とゲーム機。両方を拾い上げたと同時に「アズミの!」返せと言わんばかりの金切り声が聞こえた。どうやらアズミが落としたらしい。「それもって逃げて!」弥生がこっちに向かって駆けるアズミを取り押さえて、逃げるよう言う。

 曰く、アズミはこっそりと携帯を取り出して外部にいる協定チームと連絡を取ろうとしたらしい。

 この期に及んでまだ援軍を呼ぼうとしていたのか、狡い。幾らバイクで此処まで来れないとは言え、時間を掛ければ徒歩でも援軍はやって来る。人間には足があるのだから。機械がなくても目的地まで辿り着ける術を持っている。


 ゲーム機はどうでもいいとして、携帯電話は彼女に返すわけにはいかない。策を取られてしまえばこっちが大きく劣勢になるのだから!

 ココロはゲーム機を壁際に寄せて、携帯だけ持ってその場から逃げた。「ケータイ!」返せ返せと喚くアズミに煩いと一喝し、弥生は古渡のことを教えろと彼女を両肩を掴んで揺さぶった。


「知らない知るわけない初耳! 古渡なんてしらーん!」


 フンッと鼻を鳴らし、手を振り払ってアズミは弥生から逃げる。  

 同時にココロの後を追った。「携帯返せ! ドロボー!」なんて叫ぶアズミに追われ、「うわわわっ!」ココロは急いで速度を上げた。あれほど近寄るまいと決めていたイカタコ合戦の脇をすり抜け、藁にも縋る思いで階段を駆け上る。

 どうにか弥生が階段手前でアズミを捕まえてくれたらしく、下で揉み合いになっていた。弥生の身を案じつつも、ココロは携帯を死守することを優先させた。それが今、自分にできることなのだから。



 ガンッ――! うわぁあ――! ドラム缶と人の悲鳴。



 弾かれたように視線を上げれば、そこにはドラム缶の山麓で体を崩している彼氏の姿。

 ドラム缶に肩や背中を打ち付けたらしく、缶に凭れて呻き声を上げながら右肩を押さえている。「ケイ、さん」やられている彼氏の姿に瞠目。思わず手から携帯が滑り落ちそうになるが握り締めたことで難を逃れた。


「フンっ。ケイ、口ほどにもないぞ。絶交宣言撤回が尾を引いているんじゃね? ちっとも本気じゃなさそうじゃん」


「るっせぇよ……阿呆健太っ。奥義ってのは後に使ってこそ効果があるもんだろ……う゛あっ!」

 

 容赦なく硬い靴先で腹部を蹴られ、彼氏は呼吸を忘れたように痛みに叫んだ。

 傷付いている彼氏の姿を見るだけで恐怖が沸騰。足が竦む思いがしたが、大丈夫だと言い聞かせた。

 だって彼は負けない。弱い男じゃないのだから。心身ともに自分を助けてくれた、ヒーローなのだから。地味かもしれない。普通かもしれない。ちっとも喧嘩ができないかもしれない。それでも、自分を助けてくれた、自分にとってのヒーローなのだ。大丈夫。大丈夫。だいじょうぶ!

 本気を出せていないケイにケンはフンッと面白く無さそうに鼻を鳴らし、渾身の腹部蹴り。しかも利き足で。

 もはや悲鳴すら上げられないケイは、ゼェゼェッと荒呼吸を繰り返して場をやり過ごしている。「弱いぜ」シニカルに笑うケンは、ダークブラウンの髪を掻きあげた。


「本気出してもおれには勝てないもな。おれ、それなりに喧嘩実践してきてっから。チャリばっかり乗りこなしてるお前とは違うんだよ。不良校だしな、おれの通っている学校。もーちょい甚振ってやりたいけど、お前がそれじゃなあ?」


 ケンはせせら笑う。

 やがて「ケータイ!」アズミの声が聞こえたのか、ケンがこっちを振り向いた。ビクッとココロは体を震わせて、彼と視線をかち合わせる。ケンはココロの持っている携帯が仲間内の物だと気付いたらしい。


「それ、返してもらうぜ? アズミはいざって時のための連絡係りだから」


 ズカズカと歩み寄って来るケンに怖じを抱いたココロだが下に逃げるわけには行かない。下にはアズミ達がいる。

 だからって前は……ブルッと身震いするココロだったが、「嫌です!」気丈に反論して彼の脇を擦り抜けようとした。残念な運動神経なため糸も容易く腕を掴まれてしまったが、ココロは振り払おうと躍起になる。


「返しません! こ、これは渡しません!」


「んー……あんまり女の子に手荒な事したくないんだけどなぁ。君、大人しそうだし……清楚そう。それに」


 ケンの視線がココロの胸に留まる。「え?」ココロも自分の胸に視線を落とした。

 一瞬の沈黙、そしてココロは顔を真っ赤にして「ぺっちゃんこですよーだ!」大反論。ああもう自棄だ。Aカップで何が悪い。Bにもなれない身分ですが胸張ってオンナしてます! 何か悪いんでしょうか?! そんな気分に陥っていた。

 途端にケンは「いや、そういう意味じゃ!」大焦りで否定。ゴッホン。大袈裟に咳払いをして、表情を能面に戻すと「返してもらうから」ココロの右の腕を勢いよく捻った。鋭い痛みに走るが、咄嗟の判断で左の手に携帯を持ち変える。

 こればかりは渡せないのだ。自分のできる仕事なのだから、だから、絶対に。

 悲鳴を上げそうになりつつも、下唇を噛み締めて返さないと態度で意思表示。


「……往生際が悪いなぁ」


 ケンは乗り気じゃ無さそうだが、左の手に手を伸ばし携帯を引っ手繰る手段に出た。まだ腕は捻られたまま。

 相手の腕に噛み付いてやろうかと考えた、その時だった。



「奥義発動っ、ライダーのキックならぬ田山キーック!」



 ドンッ―!

 「うをっつ!」ケンの体が大きく向こうへと吹っ飛び、顔面から転倒。ココロは彼から解放された。その場によろめいてしまったが、しっかりと体を受け止めら直立を崩すことは無かった。視線をゆっくりと持ち上げれば、荒呼吸を繰り返して苦痛帯びた表情を浮かべている彼の姿。

 けれどそんなのお構いなしに、彼は軽く頭を抱き締めてきた。体を媒体に震えが伝わってくる。


「ココロ、ごめんっ。復活に遅れた。大丈夫か」


 はぁはぁと呼吸を乱しながら、怪我はないかと自分の身を案じてくるヒーローにココロは大丈夫だと綻んだ。

 やっぱり彼は自分のヒーローだ。いつだってピンチになると駆けつけてくれる。大丈夫なのだ、彼は強い、強い人なのだ。「ありがとうございます」ココロは大丈夫だと、彼を見上げ笑顔を向けた。怖かったがちっとも怖くなった、どっちつかずの台詞を向けて見せる。彼の震えを止めるために。

 「良かった」表情を崩す彼は自分を背に隠し、今度は怒りに震えて声音を張った。




「健太ッ、お前はいっちゃんやっちゃいけないことをしやがったな―――!」




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