新歌集から 森の王様
それから片腕の静日は自分を餌にして獣を釣る事を覚えました。
銀のトカゲは静日を利用して捕食し、静日は銀のトカゲを利用して獲物を狩って食べる、そんな奇妙な関係でした。
--これって、そう、共存共栄だよね。あれ、違った何だっけ。あー、そう、共生関係だ。
静日は無くなった右腕の側に銀のトカゲを置いて、そう言いました。とっさの時のため、自分の弱い方にトカゲを置く方が安全だという事に気づいて、常に動いていたのでした。最近は銀のトカゲもそれを理解して右側に位置するようにしていました。
トカゲは八つの瞳の内、上側の二つを動かして静日を見ました。静日は不意に自分の境遇を思って泣きそうになりましたが、唇を噛んで耐えました。昔を思うからダメなんだと自分に言い聞かせました。
--いい? ここではっきりしておくわ。毎日学校に行って気になる男の子の趣味がどうとか、その人に男っポイとかそんな事を言われて気にしていた静日は右腕と一緒に焼け死んだの。今いるのは、トカゲの餌、そのおこぼれを食べる生き物。
涙はついに出ませんでした。だからどうしたと顔を上げて、生きようと思いました。生きてどうなるかは分からないけれど、自分を憐れむのはもうやめようと思いました。
銀のトカゲはきゅーと鳴いて、静日を笑わせました。
この日、出会って初めて静日はトカゲの頭を撫でました。思ったよりずっと柔らかで、そして暖かい感触でした。
それで、静日は銀のトカゲを得て、あるいは銀のトカゲに得られて、狩りに励みました。
最初は自分を襲う獣だけを襲って、鹿などの草食動物を食べることはしなかったのですが、そのうち鹿を含む草食動物の大発生に気づいて、それらを狩るようにしました。今まで肉食動物だけを狩っていたので生態系が狂ったのだと静日は理解したからでした。
--バランスよく食べないとね。
静日は大きくなってきた銀のトカゲに言いました。銀のトカゲは撫でられるために左側に動きました。図体が大きくなったせいで静日を包むような形です。静日はトカゲの頭を撫でると、寄りかかって言葉を考えました。
--キミは生態系の一番上、王様なんだよ、きっと。王様だから考えて動かないといけない。肉食動物を狩れば草食動物が増えて、最終的には森の植物がなくなっちゃう。草食動物を狩り過ぎれば、今度は餌がなくなって肉食動物が居なくなる。だからバランス、バランスが必要なんだ。
学校で教わった事は役に立つなあと、静日は思いました。遠い日を思って寂しくもなりましたが、トカゲに抱きついて眠る事で、寂しさを紛らわせました。
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