旅の始まり
踊り子のリベカは猫の勇者コンラッドを両手で抱きあげてスリスリ、ふにふに、そして前脚の肉球を指で押して、はにゃーんと言いました。
「やっと再会できたね!」
「無事でなによりだ」
コンラッドは真面目な顔でそう言うと、リベカに抱かれたまま言葉を続けました。
「生活の当ては?」
「大丈夫。人が居れば私の踊りでね?」
「怪我は?」
「ないない。大丈夫」
「そうか」
コンラッドはするりとリベカの手から抜けてマントを翻しました。まん丸の目を遮るように帽子をかぶり直します。
「では俺は旅を再開するとしよう。さらばだ」
「ちょっとまってよ! 私はまだお礼してない」
「礼のために猫が戦うと思ったら大間違いだ」
「人間の一部はお礼を大事にするだよ」
リベカはそう言って、もう一度コンラッドを抱き上げようと手を振り、空振りました。
自身でも相当の手練れという認識はあったのですが、コンラッドにはかないませんでした。
「やるね」
「そうかもな。一度は女神の手だってすり抜けたことがある」
「へー。あ、それでお礼だけど」
「いらん」
「人間の花嫁とかいらない?」
「猫に結婚はない」
「あ、そうなんだ」
リベカが考える内にコンラッドは外に出ました。リベカは少し笑うと、パン屋のじいさんと角なしの弟子に笑いかけました。
「んじゃ、私ついていくから。今までありがと」
リベカは金貨の小袋をじいさんに投げて寄越しました。久しぶりに胸を張って、良い笑顔で笑いました。
じいさんはその顔を見て仕方なさそうに笑うと、金貨を一枚取って袋を軽く投げ返しました。
「パン代にしても多すぎるからのう。まあ、幸せそうじゃから、何も言わんよ」
「ありがとう!」
リベカは手を振ると、店を出て走りました。ひまわり畑の丘を降りて猫を背中から抱き上げて頭に乗せると、勢いよく走り出しました。
「改めてよろしく、私、リベカ。王子だったり踊り子だったり戦士だったりしたけど、これからは猫の勇者の旅の仲間になるわ」
「一緒にいたお嬢さんは?」
「あ、忘れてた、連れてきていい?」
猫の勇者は帽子をかぶり直しました。
「放って置くのは可哀想だろう」
「良かった、どうしようと思っちゃった」
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