新歌集から 腕をなくした乙女

 白いキツネに頬を舐められて目が覚めると、右腕の肘から先がなくなっていた。

 炭化して触れればばらばらになる自分の身体に悲鳴を上げて、何が起きたのか分からないまま、また悲鳴を上げた。のたうちまわった。

 そして動かなくなった。事実を認められず、気をまた失った。


 目が覚めたのはどれだけの時間が経ってのことだったか。朝露が服を濡らしていることに気づいて目が覚めた。

 腕は、やっぱりなかった。


 また叫びそうになるのを我慢して、静日は周囲を見た。煙たい円山公園とは全然違う、光差す森の中にる。泉がすぐ近くにあって、清冽な水を湛えていた。


「ここ、どこ?」

 混乱したまま、周囲を見る。鼓動が早くなるのが分かる。悪夢を見ているよう。しかし、悪夢ではないという感覚は、どこかにあった。

 これは、現実だ。


 また悲鳴を上げそうになっていると、木々の切れ目から人が歩いてくるのが見えた。ボタンのないワンピースに帯を巻いて、それでなんとなく格好を保っている、そんな格好の女の人。髪は梳っていて、大きく編んでいる。先の尖った大きな帽子が目を引くが、その下にある瞳は暗い緑色だった。どう見ても、外人。

 こちらを見てびっくりしている。

 静日は日本語で喋りかけて、まったく伝わってないことに気づいてまた叫びそうになった。歯が鳴りそう。

 女はため息とともに何事か唱えると、静日を見た。


「片腕の娘で森にいるってことは、自殺かい? 悪いけど、ここの泉の精霊は綺麗好きなんだ。死ぬなら別のところで……」

「助けてください!」

「助けてくださいって言われても、魔女は自殺の手伝いはしないよ」

「病院に行きたいです。後交番!」

「意味が分からないけど、要するに外から落ちてきた、ということ?」

 女は少し考えた後、大きな帽子を揺らした。

「なるほど。まあ、珍しい要因が一杯揃ってるから魔女としては悪くないかも。よし、弟子にならない?」

「びょ、病院に行きたいんです……」

 涙を落としながら、静日は訴えた。女にはまったく効かなかったが。

「そんなものないわよ」

「せめて電話かなにかあるところでも」

「だから、ないって」

 絶望で黙りこくる静日に、女は諭すように声を掛けた。

「選択肢をあげる。この泉で入水する以外の自殺をやるか、森の獣に襲われて死ぬか。古代の防御兵器に殺されるか、奴隷になってどこぞの珍しいもの好きの貴族の慰み者になるか、あと私の弟子になって、最終的にその身体を提供して私の延命の役に立つか、どれでも好きなの選んで」

「な、なんでそんなに……意地悪……するんですか……」

「意地悪じゃなくて、今あんたの選べる現実的な選択肢よ」


 静日の涙が草の上に落ちた。

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