第30話 金色の勇者
「ジャネットの様子はどうだった」
体は大きく手足の太い男は彼女専用のテントを訪れ、その主である幼なじみの金髪の剣士に、同じく幼なじみである赤毛の女の子の近況を聞いた。
「まだしょげかえっていたよ」
金髪の剣士チャーリー・アーミテイジは、黒の戦士ハワード・グレンに肩をすくめて応えた。彼は入ってきただけで、このテントの中に彼女専用にしつらえた調度品が作る神秘的な雰囲気をぶち壊した。二人とも重い装備を脱ぎ軽い服装を身につけている。
「あれから何日も経っているのになぁ、それに一体何に対してしょげかえっているのやら」
革命軍の実質的なリーダーである金髪の剣士は、神秘性を高めるために周りの人はできるだけ男性を近づけないようにしている。しかし彼だけは男でありながらこのテントに入るのを許されていた。
それは彼が勇者と呼ばれている彼女の横に並び立てる程の戦士であり、常に戦では共に最前線に立ち、戦っているからだ。
そして周りは二人が恋人同士であると認知している。だがそのことについては二人とも何も言質していない。
「タケクラケイタが実はタケカワキョウヤだった事に驚いたからとか、それともそれを取り逃がしたことか。しかし、あのときの坊主がじつはタケカワキョウノスケのひ孫だったとはなあ。あの坊主なら敵に回してもそんなに心配しなくてもいいんじゃ無いか。あの坊主の細腕と性格じゃ前線で命のやりとりなんて無理だろう。たとえ後衛に回っても軍の指揮なんかできるとは思えない。ちょっと俺たちタケカワキョウノスケの伝説に振り回され、そのひ孫を恐れすぎたのかもしれない」
「そうかな、確かにあのとき我々の目に映るあの子は、見た目は貧弱で性格は控え目でおどおどしていた。だが、あれから結構時間が過ぎた。あのときの子と同じ人間だと思わない方が良いかもしれん」
チャーリーはハワードの言うことを否定した。
「案外あれが、俺たちの好敵手になる可能性がある、というのか」
「そうだ、我々は眠っていたトラを起こしてしまったやも知れん」
「まさか。それは勇者としての勘か?」
「いや、そんなたいそうなものではない。ただ、常に最悪のことを考えて準備して置くに越したことはない、というだけの話さ」
「それもそうだな、そうするとあのときあのはなたれ小僧をどうにかしておくんだったな。逃がしたのがくれぐれも悔やまれる」
「あのときのケイタ・・・・・・キョウヤは本当にただの魔族の奴隷にしか見えなかったからな。私もそんな重要人物とは看破できなかった。それにどうにかしておくといっても、果たしてジャネットが許すかな。たとえあのときあれがタケカワキョウノスケのひ孫だとわかったとしてもだ」
「マジかよ。まさかこの間のクルリーズ村でもジャネットがわざと逃がした、なんて事を言うんじゃないだろうな。まったく恋する乙女は面倒くせえな」
「さすがにそこまでは言わんよ。タケカワキョウノスケのひ孫がこの戦況を変えるかもしれん大人物かもしれないことや、この革命が百年ぶりに訪れた好機でこれを逃すことはできないということはあれにも十分わかっているはずだ」
「ならいいがな。俺たちはタケカワキョウノスケを知らないが、長寿のエルフにとって百年前なんてつい昨日のようなもの、彼らはキョウノスケのことを覚えていてそのひ孫を酷く恐れている」
「この革命はもうすぐ終わる、今更少年一人加わったところでこの戦況は変わりはしないだろう」
「そうだな、あと一息だ。ドラン平原を抜ければ奴らの本拠地ローラント城は目の前だ」
金の剣士の物言いに黒の戦士は首肯した。
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