第34話 波間に消える

 海岸で灰を撒く男と出会った。人好きのする笑顔につい色々尋ねると、これは遺灰ではないと言う。

「兄が遺した物の灰なんだ。まあ、元は全部俺が仕入れてきたんだけど」

 全部とってあるから参る、と苦笑する。旅をして兄に届けた物を、また旅して各地に返しているのだと。けれどこれだけは燃やせず、返す場所も迷うと出した物を見て驚いた。それはあのサイコロだった。

 同じ物を持っているので譲ってくれと頼むと快諾してくれた。彼はサイコロを摘まみ、最後に一度転がせてくれと言う。否はなかった。

 骨張った指から放たれたそれは頼りなく転がり、四を上に海のように青く光った。

「兄の目の色だ」

 同じ色の瞳を細め囁く彼を、波音が静かに包んだ。


改行・スペース抜き299字

Twitter300字ss企画 第七十八回 お題「波」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る