【1】盗まれた唇
雫side
2
静かな夜の街に、救急車のサイレンが鳴り響く。そのサイレンは、都内にある
「ストレッチャー早く回して!」
婦長に指示され、私は急いでストレッチャーの準備をする。
救急車のドアが開き、看護師が一斉に患者に近付く。
患者は右腕火傷の若い男性。彼に近付くと少し焦げ臭いにおいがツンと鼻をついた。
彼はずぶ濡れで高級ブランドの黒いジャンパーを着ていたが、袖口は焦げ赤くただれた皮膚が見えた。
「いてぇ……」
くぐもるような声で呻きながら、彼は顔をしかめた。
「大丈夫ですか?」
声を掛けると、彼が私の顔をチラッと見上げて目を見開いた。
「……いいじゃん」
彼は小さな声で呟くと、口角を引き上げニヤリと笑った。
な、なんなのよ。
気持ち悪いな。
それが私の抱いた、彼の第一印象。
「朝野さん何してるの。火災による熱傷よ、早く処置室へ!」
婦長に叱咤され、ストレッチャーを押す。
その間も『いてぇ……』と唸りながら、彼は私の方を何度もチラチラ見た。
嫌な感じ……。
たまに、いるのよ。
こんな患者……。
看護師を何だと思ってんの!
彼は救急患者だけど、私は少し不愉快だった。
◇
私の名前は、
なんでだろう……。
忙しいだけじゃん。
思わず溜息が漏れた。
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