脅迫者

午前5時、まだ夜は明けきらない中、男は携帯電話を掛けた。


『水族館のイルカを拉致って監禁した。

解放してほしければ、今日の正午までに

現金1000万円を用意してバッグに詰めろ。

その後に追って連絡する。警察に通報したら、

フレンズの笑顔が見れなくなるからな』


ピッ


「ねぇねぇ、監禁ってなに?」


「...」


この作戦を思いついたのは名案だった。

フレンズを誘拐してパークの運営会社に、

脅迫電話を掛け、身代金を要求する。


フレンズは一言で言いえば、バカだ。

偶に賢い奴もいるが、大半はバカだ。

そこで、俺はこのパークに数週間滞在し、

ターゲットを絞った。


それがハンドウイルカだった。


このエリアのセキュリティはガバガバ。

餌でおびき寄せ、とある家屋に監禁した。


フレンズと言えど油断ならない。

一応縄では縛ったが。


「ねえ、お話ししようよ!」


緊張感が無い。

俺は犯罪を犯しているのに。

犯している気がしない。


脅すためのモデルガンを彼女の頭に突き付ける。


「お前立場わかってんのか?」


「わかんないよぉ」


「ハァ...」


やっぱりバカだ。


恐らく、フレンズを誘拐して金を取ろうなんて

考える犯罪者は金輪際居ないだろう。


実際の人なら、『助けて!』とか言うだろ。

もっと不安がれば、相手を揺さぶれるのに。


どうしようか。

他のフレンズに切り替えるか。

もっと大々的に騒ぎになれる様なフレンズに。


大きいマップを開き、考える。


「ていうか、さっき何か用意しろって言ってたよね!

何を用意すんの?」


「金だよ。わかんねえだろうけど」


「おかねのこと?」


「そうだよ...、しつけえなあ」


「それなら知ってるよ!お客さんから時々貰うよ!

いろんなものと交換できるんでしょ?

ねえ。お金を貰って何と交換すんの?」


「・・・」


そんなことを尋ねるのかと、呆れる。


「秘密」


「えー、教えてくれないの?」


「何だっていいじゃねーかよ...。お前には関係ないんだし」


「助けてあげようと思ったのになぁ...」


「何...?」


「だって、何か困ってるから、欲しいものがあるから、

お金が欲しいんでしょ?だったら、助けてあげるよ!」


思いもしなかった。

フレンズはバカだと思っていたが、意外とそうではない。

お人よし過ぎるのか。


人質であり、協力者。これは美味すぎる。







パーク本部ではその脅迫電話を受け、早急に関係部署との会議が行われた。

警察に連絡をするなと言われたものの、呼ばない訳にはいかなかった。

午前10時半頃。


観光客に紛れ、警察の一部隊がパークに上陸した。

スタッフに案内され、管理棟に入る。

職員の前で挨拶した。


「職員の皆さん、私は警視庁捜査一課の御厨みくりやと申します。

フレンズを人質に取る身代金要求事件とは、私も警察官になって初めての事件です。

ですが、精一杯解決に尽力致しますので、ご協力よろしくお願いします」


捜査本部がパークに設置された。

通常営業の傍ら、捜査をするのは容易な事ではない。

どれだけ、相手を刺激せず交渉を行うかが鉄則である。






正午ピッタリに電話が鳴った。

捜査本部にも緊張が走る。


パーク職員の一人が電話を取った。


『金は用意したか?』


「はい。フレンズの方は...」


『大丈夫だ。

いいか、次の指示をするぞ。

13時発のモノレールに乗れ。海獣園前駅の手前、

海上を通る所があるよな?

左手に5個ブイが浮いているはずだ。その近くにバッグを落とせ。いいな?

ちゃんと札束はケースに入れておくんだぞ』


「海上って...」


『質問は無しだ。じゃあな』




「どうだ?」


御厨が部下に声を掛けた。


「携帯ですね。

GPSが使えない旧式の携帯で掛けている物と思われます」


「・・・、とりあえず犯人の指示に従うように。

犯人はイルカのフレンズを誘拐している...。まさか...」





「時間だ。いいか?」


「うん!」




海上にモノレールがゆっくりと現れた。




「所定の場所です!落とします!」



職員がバッグを海に落とした瞬間。

海上から高くジャンプし、現れたのはバンドウイルカだった。


「あっ!」


呆気にとられた声を職員が出す。


そのまま海の中に潜った。


同乗していた警官がすぐさま状況を御厨に伝える。


「...やっぱりか。犯人はアヅアえん方面に一度向かうはずだ。

捜査網を広げろ!」


そう指示した。


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【作者より】

シリーズ物にするつもりでしたが、あんまりウケそうな気がしないので没にしました。

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