第42話 脱出開始?
しゃちほこの状態を解除し、立ち上がるさななこさんは口を開いた。
「遅かったねぇ! そして腰いた」
そう言いながらどこから取り出したのかわからないが、パンをもしゃもしゃと食べ始めた。
発言と行動に一貫性がなさすぎる。
それに今もなお牢屋の中にいるというのに、全く動じていないどころか自由気ままだ。いつも通りと言えばいつも通りなのだが、少しくらいは捕まった不安だとか、助けが来て安堵したりだとかあってもいいはず……。
まぁ、この世界に強制的に呼ばれた時ですら、オレも含めてクラスのほぼ全員が全く動じていないので他人のことは言えないが……。
しかし今回は一人だけ魔法で連れて来られたのだから、少しは不安を感じていてもおかしくはない状況だ。
それなのにさななこさんは冷静そのものと言ってもいいだろう。
いや、今なんかめっちゃ震えながら飲み物を零しているけど、これは意味が違う動揺だと思う。
「こ、これは、お、美味しすぎるねぇ!」
「さななこさん、なんで捕まったの?」
感動に震えているところに申し訳ないが、多分相手していると話が進まないため、強引にでも進める必要がある。
「わざとだよぉ? 決して屋台の食べ物を見てたからじゃないのよぉ?」
さななこさんは額から汗を流しながら、めっちゃ目が泳ぎまくっている。
嘘丸出しじゃないか。
オレはそんなさななこさんに向かって、無言でじと目を飛ばす。
「ほ、ほら、わざと捕まれば魔法使った相手のところに行けるよねぇ! こっちの世界に来た時は失敗したでしょぉ?」
なにやら必死に弁明しているが、致命的な矛盾点がある。
「今回は魔法使った相手が目の前にいたんじゃないの? そう聞いてるけど?」
「食べ物を見ていたらここにいましたぁ!」
さななこさんは勢いよく、パンにかじりつく。
そこは頭を下げる場面だろと言いたい。
「やれやれ。こんな間抜けを助けに来たなんてね。さっさと終わらせてしまおうか」
RPGはそう言って、倒れている看守のような人物に近づいて行く。
「鍵はこいつが持っているかな?」
RPGがしゃがみ込んだと同時、その全く反対側から声が聞こえてくる。
「あ、鍵ならここにあるよぉ!」
それは、檻の中にいるさななこさんからだった。
さななこさんの手には、一本の古びた鍵が握られている。
ものすごく厳かな鍵だなという感想もあるが、それ以上の衝撃が他にあった。
「なんで捕まった本人が持ってんだよ!」
「ささちゃんすごいね! ね?」
「色っぴありがとうぉ!」
オレのツッコミなど誰も反応しないどころか、当の本人と
さななこさんに至っては親指を立ててまでいる。
鍵を持っているのなら、いつでも脱出はできたはずで、なんのために助けに来たのかわからない。
「串刺しの図!」
突然、
こいつら遊びに来たのか?
「わたしも何かしたほうがいいのかしら?」
「
変人はもうお腹いっぱいです。
心の底からそう思う。
なんにせよ、
「シャバの空気はうまいぜぇ!」
さななこさんは監獄の中から自分で鍵を開けて出てきた。
「これで、ミッションはクリアだよね」
RPGがそう言う通り、オレたちの課題は終わった。
後は帰るだけ……。
「じゃあ。もう隠密は必要ないね」
もう帰るだけなのだが、なにやら不穏な空気と衣装をRPGは身に纏う。
服装の変化。
白い服に赤いマントを靡かせている。
そう、見た目の変化を言うならばただそれだけのこと。
しかし、RPGに関して言えば、それだけ、という言葉では済まされない。
なんせそれは、装備を変更した、ということなのだから……。
「他の超能力者もいないようだし」
そう言うRPGの手には、光り輝く一振りの剣が突如現れた。
聖剣と呼ばれる、最強の剣が。
「僕は自由にさせてもらうよ」
本気の目をした、RPG。
そんな彼に俺は問う。
「一体、何をする気なんだ?」
「王国を潰す。ライトニング・ギガトラスト!」
まばゆい輝きが、高速の突きとともに放たれる。
斜め上に放出された光のエネルギーは、地上にまで真っ直ぐと大穴を空けた。
轟音が鳴り響く中、RPGがその大穴を通って走り去っていく。
「これで帰りは楽ちんだねぇ!」
「呑気にそんなこと言ってる場合か」
***********
【とある捕虜と看守の風景】
「貴様! いつの間に毛布など手に入れた!」
「寒かったからねぇ!」
「没収だ! 寄越せ!」
「ああん、強引だねぇ!」
「貴様! いつの間に暖かいスープを!?」
「寒かったからねぇ!」
「没収だ!」
「もう食べっちゃったよぉー!」
「貴様! いつの間に……なにをやってるんだ!」
「寒かったからねぇ!」
「燃えてるじゃないか!」
「温かいねぇ!」
「狂ってる……」
「貴様……もう驚かんが、それは何をしているのだ?」
「しゃちほこ」
その後彼女は、数十分間もの時間をこの体制で待つことになる。
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