第35話 恥ずかしがりやさん
潤いを得て、ぷるてかになった
笑顔でぷるぷるした表情をしている。
これで落ち着いて話ができると、オレは口を開こうとしたのだが、
「……転移魔法……行先は王国……首都の……宮殿?」
想樹さんがもう読み取り終わっていた。
仕事が早い。
ならば次は今後の方針を
「
既に
音々さんはスマホを当てていないほうの耳に、ピンク色の髪の毛をかける。
メルヘンチックな色の髪と違って、その所作は非常に大人っぽく見えた。
「そう、うん。だからこれからメンバーを選出して……う……うん……」
しかしその大人っぽさも束の間で、音々さんの目が潤み始める。
「やだぁ……だってぇ……やだもん……やりたくないのぉ……」
音々さんは顔をぐしゃぐしゃにさせ、子供のように駄々をこねる。
目からは完全に涙が流れ落ち、ガチ泣きしている。
「うん、うん。やだぁ……だってさぁ……わたしは向いてないもん……うん、うん。そ、それは……できるけど……うわああああん。小波のいじわるぅ」
そう言って通話を切ったのち、音々さんはスマホを睨みつけ、そして高らかに掲げた。
怒りをぶつけるように、大きな声を出す。
「こんなスマホなんて! スマホなんて! 壊してやる……壊して……こわ……こわせないぃ……」
音々さんは力なく腕をだらりと下した。
恥かしがり屋の音々さんなのだが、キャパを超えるとこうした失態を晒してしまう。しかしこの姿こそ恥ずかしいだろと思うのはオレだけではないはずだ。
「もうやだよぉぉぉ」
音々さんは地べたに女の子座りをして、両手で目を擦る。
幼児退行が酷過ぎる。
見た目が美人なだけに、ギャップがすごい。
しかしそこが魅力的でもあって、可愛さがプラスされているのだが……。
『へー幼児が好きなんだね』
オレの感情を知っているのに、誤解を招かないでください。
そんな思考が自然と出てくる。
想樹さんから向けられる冷ややかな視線に耐えつつ、オレは音々さんに向き合った。
「とりあえず、どうすることになったのか教えてもらってもいいか?」
「やだぁ……」
これは進まないパターンのやつだ。
悟ったと同時に、オレは音々さんから情報を聞き出すのを諦めた。
「想樹さんお願い……」
不本意ながら、想樹さんと向き合う。
想樹さんの目が、変態を見るような目になっていた。
逃げ出したい気持ちを必死に抑えつつ、想樹さんから教えてもらった内容としてはこうだ。
王国の中枢である王宮に侵入し、さななこさんを奪還する。
さきほど決めた通りで、大海原からのゴーサインが出たのだ。
ならばあとは全力で救出するのみ。
「……
けっこう辛辣な言葉が想樹さんの口から零れた。
これは大海原の指示なのか、それとも想樹さんの独断なのか……。
「……なんか寂しい気分になるけど、休暇だと思えばまぁいいかぁ」
どちらにしろ、相崎を同行させずに済みそうなので、ナイスとしか言いようがない。
相崎は悲し気な表情で、車いすへと腰を落した。
「いやっほおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
そして急激にテンションがマックスにまで上昇し、魔法の街を爆走していく。
楽しむ気満々である。
付いて来られても邪魔だったから丁度いいのだが、なんだか無性に腹が立った。
「とりあえず、相崎は後で殴るとして、このメンバーで行くか」
「やだぁ!」
速攻で拒否る女子が一名。
「だって潜入とか向いてないもん! やだもん!」
目を潤ませ、頬を膨らませる音々さん。
両手には拳が作られており、腰の隣で力強く振られていた。
これを何とかしないといけないのかと思うとうんざりしてくる。
正直に言うと、あまり乗り気ではない。
実際音々さんがいなくても潜入は容易だろうし、そもそも潜入向きではないのも確かなのだ。
しかし、大海原はオレたちがトロン村を出発するときに、わざわざ忠告してきた。
絶対に音々さんを同行させるようにと……。
その理由だってわかるし、オレだって音々さんを連れて行くほうがいいと判断している。
なんせメンバーがメンバーだ。
オレ、RPG、想樹さん、軟子さん、陽色ちゃん。
完全に、足りていないのだ。
万が一何かトラブルが起きたとき、対処できる人材は絶対に必要になってくる。
言わずもがな、オレはみんなの前では移動しか行っていないし、窮地に陥らない限り制限は解除しない。
RPGは確かに万能だし、軟子さんだっている。
いざとなれば想樹さんもいるし、陽色ちゃんだっている。
しかしそれでも、最悪な事態を想像すると、届かない。足りていない。
完全に、戦闘力不足。
今集まっているオレたちが束になっても敵うかわからないような。
そんな絶対的な強者が必要だ。
だから、どれだけ恥ずかしかろうと、何としてでも一緒に来てもらう。
このクラスの最強候補である音々さんには。
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