第19話  集めましょうね

「てめぇらをオレらが支配するってことに決まってんだろうが! 殺されたくなきゃオレらの飯を作りやがれゴミ野郎ども!」


「わー、すてきー! プロポーズー?」


「こんなしわくちゃババアにするかぁ! 殺すぞ豆!」


 緊迫していた空気だったのに、一気に笑いの空気へと切り替わった。

 吹き出したいのを堪えている者も何人かいる。


「てれてるくろちーかあいー」


「だぁれが可愛いだぁ!? ゴラァアアアアア!」


 黒闇は捕らえていた魔法使いたちを投げ捨て、生を睨みつけた。


「きゃーーーー! おこったーーーーーー!」


 一目散に殻に乗って逃げるせいを、黒闇くろやみは追いかけて行った。

 姿が見えなくなっても、生の可愛らしい悲鳴と黒闇の怒声は聞こえてきている。

 更に言えば、爆発音もするし、家がおもちゃみたいに吹き飛んだりもしているが、それはもう見ないふりをするしかない。

 ついでにもう一つ言えば、ガチな悲鳴も聞こえてきていて、村が混乱しているのがよくわかる。


 どんどん破壊されていく村を見て、お婆さんは歯を食いしばっていた。

 きっとこの村に長年住んでいるのであろう。

 思い入れもずいぶんとあるはずだ。


「村は最盛期さいせいきが元に戻すから」


「もう眼が剥がれそうなのにいいいい」


 会話の半分は噛んでいる最盛期が、全く噛まずに言えるところが、そのセリフを何度も言っている事実を物語っている。


 そんな最盛期のどうでもいい話は置いておいて、村を戻したところで、村人たちが抱えている感情が消えるわけではない。

 たとえ建物が修復したとしても、心の傷まで治るわけではないのだ。

 それをわかっている上で、オレたちは強行な手段を選んだ。


 その理由として、オレたちの強さを村全体に知らしめるため、だ。

 それならば荒事が一番手っ取り早い。


 そしてその上で、こう宣言する。


「これからはこの村にはオレたちの食事をお願いしようと思ってるんだ。もちろん、王国側の食事は作らなくてもいい。この村とオレたちの分だけ。見ての通り、オレたちにかかればこんなやつらなんか、障害にすらならない。この土地を奪い返しに来ても、ここはもうオレたちの土地だ。絶対に渡したりしない。だからその辺は安心していいから」


「それは……助けてくれるってことじゃろうか?」


 お婆さんは、まるで夢を見ているのかと言いたげに、目を見開いている。そしてその開かれた目からは、涙が流れていた。


 しかし勘違いされては困る。

 オレたちは助けるのではない。

 ただ、自分の領地を守るだけであり、王国が攻め入ってきたら返り討ちにするだけなのだ。


 だから、助けるなんて、そんな綺麗な話ではない。


「違う。オレたちは征服するだけだ。その証拠に、ただでご飯を要求するからな。でも、今のままじゃ人数が足りない」


 魔法使いたちは王国側の人間だろう。

 ならばまず必要なのは、村人たち。

 征服なのだから、それを得ないと意味がない。


「さぁ始めるぞ! 今から村人を捕まえる!」


 想樹そうじゅさんの指示に従い、機動力のある者はなるべく遠くにいる村人を集める。

 それ以外は散らばって片っ端から捕らえていく。

 そして広場に待機している守とタルテに引き渡す。

 敵にあったらその場で倒すなり、ぶっ飛ばすなり、その都度対応していった。


 そして、あっけなく村人たちを全員集めることができた。全部で五十人ほどだろうか。小さな村なだけあって、少ない。

 彼らは守の出した透明の壁に囲まれており、出ることができない。

 その分、外からの攻撃も絶対的に防ぐので安全は保証されている。

 そのことは村人は知らないだろうから、混乱しているわけだが……。


「じゃあ後の説明は、タルテに任せる」


「わたしがですか!? それよりも、なんでわたしまであなたたち側なんですか!? おかしくないですか!?」


「異世界人同士のほうが話がスムーズにいくかなと思って」


「そうですわね、タルテさんにお任せするのが正解だとわたくしも思いますわ」


 クラス中から賛成の意見が飛び交い、満場一致でタルテが説明することに決定した。


「そんな……どうしてわたしがこんなことをすることに……」


 頭を抱えるタルテだが、そこはがんばってもらう方向で。

 だってもう日も傾いてきていて、夕日になっているのだ。

 ならば一番話が通じやすい人物が話すのが効率的だ。

 それになにより、面倒くさい。


 それに勘違いしているところ悪いが、タルテだって征服された側だ。

 だからオレたちの言うことを聞いてもらって、なんか面倒なことは全部押し付ければもろもろ解決。

 うん、それがいい。


 自分勝手な思考をしていると、遠くから声が聞こえてくる。


「きゃーーーーーー」


「逃げてんじゃねぇよ豆! ゴラァ!」


「やーーーーー! たのしーーーーーー!」


「なに楽しんでんだ! ぶっ潰すぞオラアアアアア!」


 夕日が差し込む長閑のどかな村。

 その村は人々がいなくなったことにより、容赦なく家が宙を舞い、落下している。

 そんな光景に涙する一人の男。


 彼の心情はともかく、見た目的には絵になる。

 後で頑張って村を元に戻してくれ。


 そして今のオレが言えることはもう一つある。


 あいつらまだやってたんだ!?


 ってこと。






  ***********


 六軌の分析ノート


 №21  鉄壁てっぺき まもる

 超能力:保護膜


 攻撃力:D

 防御力:SS

 機動力:D

 応用力:C


 総合戦闘力:B


 透明の薄い膜を張るだけの能力。

 しかしその膜はどんなものも干渉できない。

 彼が防げなかったものを僕は見たことがない。

 黒闇の能力を持ってしてもそれは同じで、一ミリたりとも動かすことができなかった。

 まさに最強の盾。

 僕にこの盾を破ることは不可能だ。だからといってこの能力に負けることも不可能だが。

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