第10話  異世界魔法VSゲーム魔法

 炎に包まれた家。

 わらの屋根などほどんど焼け落ち、家の中身もほとんど燃えてしまっているだろう。

 そんな家の隣にある畑も、炎に包まれ酷い有様だ。


 燃え盛る畑の前でうずくまるお婆さん。

 大きく穴の開いた服から見えるのは、腹部が焼けただれ、ぐちゅぐちゅとした皮膚が剥き出しになっている光景。そしてその酷く火傷した腹部の中心からは、血がどくどくと溢れ出ている。

 見ていて痛々しい。


 苦痛な表情のお婆さんに、手を伸ばすのはまだ十歳程度の少女だった。彼女は地面に踏みつけられながら、とめどなく流れる涙と悲痛な声を出す。


「おばあちゃん! おばあちゃん!」


 と何度も繰り返している。


「うるせぇぞクソガキ! 殺されてぇか!」


 立派な装飾を施されたマントを身に付ける、いかにも偉そうな男が喚きながら、少女の腹部に蹴りを入れる。


「うぐぅぅ……」

「やめ、とくれ。やめとくれよおおお。ラルには、ラルだけには、手を出さないでおくれよ……」


 お婆さんは必死に懇願する。

 いつ死んでもおかしくない大怪我をしていてなお、少女を守ろうと……。


「むなくそわりぃな」


 黒闇くろやみがそう言って一歩前に出た。不快な感情を駄々もらせており、今にも男を殺してしまいそうだ。

 少し触れるだけでも爆発してしまいそうな黒闇の肩を、


「待って! 僕がやる」


 RPGが掴んで止める。

 いつもやる気のない彼だが、いつになく真剣で、そして、黒闇以上に怒りで溢れていた。


「どんな理由があるのか僕は知らない。だけど……」

「知らないなら出てくるな。ガキは家でガタガタ震えてろ」

「どんな理由があろうと、老人をそこまでいたぶるのは僕が許さない」

「そうか。じゃあお前が代わりに燃えとけ! フレイムランス!」


 光輝く魔方陣から放たれるのは、炎の槍。その長さは二メートルはあるだろう。

 燃え盛る槍が、高速でRPGへと飛んでいく。


「収納」


 しかし、RPGへと接近するなり、それは消え去った。

 残った熱気がむわっと周囲に広がる中、


「魔法もですか……」


 ぼそっとタルテがそう言うのが聞こえた。

 タルテは乾いた笑みを浮かべている。

 オレだってそう思うのだから、無理もない。


「何しやがった? フレイムアロー」


 いぶかし気な表情で、男は更に魔法を放つ。

 無数に迫りくる炎の矢。

 数えようとする気すら起こらないほどの数の矢は、


「収納」


 一瞬にして全てその場から姿を消す。


「へー、魔法が得意ってわけ、しかも炎の」


 静かに怒りを放つRPG。

 その異質な怒りを、男は微塵も感じられていないらしく、


「てめぇ一体何をしやがった?」


 RPGを睨みつけている。

 そして再び魔法を放とうと、手を上げた。

 魔方陣が出現し、発光する。


「じゃあ、僕も炎の魔法で相手してあげるよ」

「フレイムハンマー」


 炎で形成された、槌。

 大きさは日本の一軒家くらいはあるほどの大きなもの。

 それがRPGの頭上へと振り下ろされる。


「メガファイア」


 炎の槌の倍はある巨大な炎の塊が出現し、炎の槌はあっけなく飲み込まれた。

 高温を周囲にまき散らしながら、炎はRPGの頭上で燃え盛っている。


 魔法の規模の違いに、男は腰砕けになり、地面へとへたり込んだ。


「わ、悪かった! 頼む、見逃してくれ。そもそもあのババァがノルマを達成できなかったのが悪いんだ。オレは王国の指示に従っただけなんだ。だから命だけは助けてくれ」


 分が悪いと感じたのか、急に命乞いを始める男。

 地面に腰を付けたまま不格好に後ずさり、顔を引きつらせている。


「僕は言っただろ。許さないって」


 RPGの吐き出した冷たい言葉と同時に、炎はどんどん縮んでいく。

 しかし、それは規模が小さくなったのではない。

 凝縮されていっているのだ。

 炎の温度が上昇していき、青白くなっていく。

 そして、青い炎の槍が形成された。


「フレイムランス、こんな感じ?」


 見た目で言えば色が違うだけだ。

 しかし変化はそれだけではない。温度も違うし、威力も比べものにならないだろう。


 オレとRPGの距離は何十メートルとある。

 それだけ離れていても、じりじりと肌に熱が突き刺さるのだ。

 どれけの質量と温度がそこにあるのか、想像もつかない。


「すまなかった。この通りだ! なんでもする。だから許してくれ。頼む! 死にたくない! 死にたくない!」


 その矛先を、男は向けられているのだから、必死に助けを乞う気持ちもわかる。

 だが、


「死ぬぐらいで済むと思っているなんて、幸せなやつだね」


 RPGは害虫を見るかのような視線を、男に向けていた。


「さて、お仕置きを始めようか。オートフェニックス」

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