第90話 新しい生活
ミルフィネットの尽力のおかげで、カルナギと、ラミアたちの特殊市民権の手続きが完了した。しかし、カルナギの戦闘力はやはり危険視され、当分は冒険者組合の監視下での生活を余儀なくされる。それでもカルナギは、ジンタの近くで暮らせることを喜んでいるようであった。
イノーマス・パニックの功労者という位置付けもあり、カルナギとラミアたちの待遇は悪くないもので、彼女たちには住む家も働く場所も提供された。
「カルナギたちのお店、多分この辺だと思うんだけどな・・」
ニジナが紙に書かれたメモを見ながらそうジンタに話しかける。ジンタはそれを聞いてるのか聞いてないのか反応もせずに、周りをキョロキョロと見回して、その目的の店を探していた。
「それにしても冒険者組合も粋なことしてくれたよね。まさかカルナギに市民権だけじゃなくて、お店までプレゼントしてくれるなんて」
そのニジナの言葉に対しては、ジンタではなく、同行しているキネアが答えた。
「そりゃ、魔神なんかに目的もなく街中にいられちゃ困るからじゃない。何かやることやってれば悪さしないとでも思ってるんじゃないかな」
「多少の計算があるわけだ……」
少し呆れたようにニジナが呟く。
それからしばらく探していると、ユキがそれらしい店を見つけた。
「ここだと思う」
ユキの見つけた店の前には派手な看板が置かれていて、『スネークガール』と書かれていた。店全体が魔法灯の明かりで無意味に光っていて、その存在感を示している。
ちょっと……いや、かなり入るのが怖いけど、ニジナは勇気を出してドアを開いた。
店の中に入ると、カウンターで何やらゴソゴソしていたカルナギが、ジンタの姿を見つけて笑顔で近寄ってきた。
「ジンタ。来てくれたんじゃな」
「うむ。カルナギ。様子を見に来たぞ」
「とりあえず座ってくれ。今、メニューを持ってくるから」
そう言って豪華なソファーの席に案内された。
持ってきたメニューには、酒が三種類、そしてフルーツ盛りとピーナッツが書かれていた。
「メニューが少ないな」
少ないメニューを見て、シュラがぼそりそう言う。
「私は値段が書かれてないのが気になるよ」
キネアはそのメニューに何やら不信感を感じているようだ。
「いらっしゃいませ、社長さん」
そう言ってやってきたのはラミアの一人であった。他にもラミアが五人ゾロゾロと来て、それぞれ一人づつ俺たちの隣に座る。
「何だよ、ラミア1。その社長さんって……俺はジンタだぞ」
ジンタがそう聞くと、ラミアはこう答える。
「わからないけど、冒険者組合の労働指導官って人に、こう言えって言われたんです」
「そうなんだ……まあ、いいけどな。それよりメニューこれだけしかないのか」
「はい。それだけしかないです」
お酒を飲みに来たわけではなかったけど、仕方ないのでみんな一杯づつ注文する。ユキは酒の代わりにフルーツ盛りを注文して、ミチルとシェアするようである。
まあ、ちょっとよく分からない店だけど、うまくやってるみたいで良かったよ……とジンタがそう思っていると、ラミアの一人が何やら書物を持ってきてこう勧めてきた。
「社長さん。歌を歌って下さい。ラミア4、社長さんの歌が聞きたいです」
「……俺は歌なんぞ歌わんぞ」
そう断るが、周りのラミアたちもなぜか執拗にそう勧めてくる。
「私も聞きたいです。歌って歌って」
あまりにもそれがしつこく、仕方ないので出身村の伝統的な歌を歌ってやった。上手くもなく、下手でもなく、特徴のないその歌に、ラミアたちは一斉に異常な盛り上げを見せる。そしてその盛り上げに乗せられて、10曲も歌わされることになった。
そのあと、ラミアたちはお酒を飲ませろとおねだりしてくる。結局、何杯も注文されて、テーブルの上はお酒だらけになった。全部飲まないのにどうしてそんなに注文するかね……
とりあえずカルナギがなんとかやっていることを確認できたので、俺たちはそろそろ帰ることにした。なのでお会計をお願いする。だが、そこで一つ問題が起きた。
「80万ゴルド! ちょっと何よこの請求額!」
ニジナが請求された金額を見て、大声を上げる。ニジナのその叫びにラミアの一人が答えた。
「はい。席のチャージ料が一人様5万ゴルドになり、6名様なので30万ゴルド、それに歌が一曲、1万ゴルドで、10曲ですから10万ゴルド。お酒が一杯、1万ゴルドで、30杯で30万ゴルド、フルーツ盛りが10万で合計、80万ゴルドになります」
「なんじゃそりゃ!」
俺も思わずそう叫んでいた。平均的に値段が高い上に、ラミアたちが注文したお酒も普通に請求され、なぜ、俺が歌って俺がお金を取られなきゃいけないんだ。しかも6人の席料って……椅子に座ってないミチルもなぜか人数に入れられてるし……
カルナギもラミアたちもお金の価値などわかるはずかない。どうやらその労働指導官ってのが悪いようである。80万なんて払いたくないので、俺たちはその労働指導官に文句を言うことにした。
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