熱帯夜の事件 その一

 現在時刻零時過ぎ、体にまとわりつく湿度の高い熱気が睡眠を邪魔する。ようやく寝付けそうになったと思うと、それを嘲笑うように携帯が鳴り響いた。

 倉庫のソファから起き上がると、バイクのシートに乗っていた携帯を乱暴に取る。

「もしもし……」

 少ししてようやく声が聞こえた。

「な、なあベンベ、今暇か?」

 声の主は意外にも中根だった。

「こんな暑い夜にどっかのメガネ野郎が起こしてくれたお陰で、絶賛暇中だよ」

 明らかに不機嫌な俺の声に気づいたのか、「本当にごめん」と何度か謝罪を続けた。

「で、なんの用ですか」

 申し訳なさそうな口調で中根はゆっくりと喋り始めた。

「明日から夏休みで、最初の一週間学校閉まるだろ? それなのに学校に忘れものしちゃって……」

 夏休みの最初の一週間は教員も夏期休暇ということで部活も休みになり学校も施錠されるのだ。

「そうか、頑張れや」

 そう言って電話を切ろうとするとスピーカーから声が響く。

「頼む! 何か奢るから! 一緒に来てくれ!」

 いつも大人しい中根が、珍しく大声を出して懇願している。

「わかったって、学校の前で待ってろ、すぐ行くから」

 電話を切ってソファに座りなおすと、一人がけの椅子に座って寝ていたシュワちゃんがこっちを見つめていた。

「行くのか?」

「仕方ないわね、付いてってあげるわ」

 二人で起き上がるといつもの様に、バイクに跨った。



 学校の前に着くと、中根とカッキーが二人で並んでいた。

「待たせたな」

「あれ、木穂ちゃんも来たの?」

 カッキーが目を丸くして言った。

「ああ、一回サーキットと行った時にどっかのシュワンツが派手に転けて、俺のバイク破壊しやがってな。それで夏休み中倉庫で泊まり込みで修理してんの」

 シュワちゃんの方を見ると申し訳なさそうに肩をすぼめる。

「まあいいや、早く取って帰ろうぜ」

 家から持ってきたペンライトを取り出して、教員玄関に向かった。誰かが残っていたのか運良く施錠はされていない。

 少しばかり夜の校舎を歩くと自分の教室に着いた。

「あったか?」

 机の中を探す中根の後ろから声をかけるとノートを手にとって掲げた。

「よかった! あったよ!」

 柄になく大きな声を出して喜んでいるのを見て、小さくため息をつくと教室を出てようとした。

 すると、後ろからカッキーが声を出した。


「なあ、この学校の都市伝説。知ってるか?」

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