祭り

 待ち合わせ場所に着くとシュワちゃんだけがいた。

「悪いな、少し楽しいことしてたら遅れたよ」

「大丈夫、二人とも少し遅れるみたい」

「そうか、じゃあ先に回ってみるか?」

「うん」

 今日は祭りだ、吉川はザマァ見やがれ、そしてガンマについては謝ろう。そう思い声をかけようとした時。

「ねぇ」

 言いかけた直後先に声をかけられた。

「なに」

「楽しいことって何してたの」

「レースかな」

 少し濁して伝えるとムスッとした表情を浮かべてこちらを睨む。

「わかった、今度なんかあれば混ぜてやるよ」

 できれば二度とない方がいいが、上手いこと誤魔化しとこう。

「そんなことより祭りを楽しもうぜ」

 そう言ってシュワちゃんの方を見ると、既にそこに姿はなかった。驚いて周りを見渡すとたこ焼きの列に並んでいた。急いでシュワちゃんの横に並んだ。

「おいおい、突然どっか行くなよ」

 そんなことを言っているとシュワちゃんはすでに会計を終えていた。そしてたこ焼きを丸々頬張り、ハフハフ言っている。

「大丈夫か? 火傷するぞ」

 暑さに耐えてる顔を見て笑いを堪えながら、持ってきた冷たい水を差し出す。

「はひはほう」

 音の発音からしてきっと「ありがとう」と言いたかったのだろう。ペットボトルの蓋を外して渡す。

「一ついる?」

 そう言ってたこ焼きの並んだプラスチックのケースを差し出す。

「マジで、じゃあ一つ貰おうかな」

 爪楊枝に手を伸ばすと見事に空気を裂いた。

「ふふっ」

「おのれ!」

 やりきった、みたいな顔しやがって。でもこんな顔を見たのは初めてな気がする。

「はい」

 俺の滑稽な姿を見て満足したのか、たこ焼きの刺さった爪楊枝を口に運んできた。思わず流れで当たり前のように食べてしまった。

「ハフハフ!アッフイ!」

「ふふふっ」

 かなり遊ばれてしまったようだ。しかも口まで火傷してしまった。コンチクショウ悔しい、あとで何かで仕返しをせねばなるまい。

 そんなことを考えていると、奥から爆音が聞こえた。


「寄ってらっしゃい! 来てらっしゃい! 後五分でオートバイサーカス開演のお時間です!」


 スピーカーから祭り全体に響き渡る。もうそんな時間なようだ。

「二人はまだ来ないようだし、見にいくか」

「うん」

 そうだ、今日はなんせこのオートバイサーカスを楽しみにして来たのだ。

 大きなテントの中に入るとそこには大きな樽がある。この中をバイクが走り回るのだ。

「楽しみだな、お札は持って来たか?」

「大丈夫」

 さあ、始まる時間になった。樽の中の一部が開き、爆音を響き渡らせながら入ってくる。心臓に響くこの音が素晴らしい。

 バイクがスピードを上げ、樽の中を回転し始める。少し回ったところで二人で目を合わた。

 まずは自分が先に千円札持った手を樽の中に入れる。ライダーは何回か回転したのち、ギリギリのところまで上がり札を掴んだ。

 これがオートバイサーカス名物だ。チップ代わりにお札を渡す。しかし本番はこれからだ。他にも何にかのお札を取った後シュワちゃんが差し出す。

「ひゃっ!」

 驚いた声を出したがライダーはしっかり受け取った。集めたお札で目隠しをして、さらに立ち乗りまで披露する。

 そこでさらに歓声が大きくなる。

 他にも数々の技を披露し、オートバイサーカスはこの祭り一番の盛り上がりを見せた。

「楽しかったな」

「うん」

 返事は無関心だが、彼女は顔に出やすい。全部顔を見ればわかる。きっと俺より楽しんでいただろう。

 携帯を開くと不在着信が大量に溜まっていた。カッキーからだ。

「おい二人とも何やってんだ!」

 カッキーの怒鳴り声が耳を突き抜ける。そしてスピーカーの奥からは「そーだ!」と煽る佐々木さんの声が聞こえる。

「悪いな、二人でオートバイサーカス見てて」

 それに続き誰にも聞こえないくらいの小声でカッキーに話しかける。

「でもお前ら二人も一緒に歩いてたんだろ」

「な、なんでそれを!」

 カッキーも佐々木さんに聞こえるのがまずいと思ったのか小声で話し始める。

「だってそっちから「ハフハフ」って言ってんの聞こえてるぞ、たこ焼き食ってんのか」

 図星だったようでカッキーは突然呂律が回らなくなる。

「い、いいから後で合流するぞ! 鳥居の前な!」

 彼はそう叫ぶとすぐに電話を切った。俺の周りはなんて分かりやすい奴らばかりなんだ。

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