第29話 善性への目覚め

 新型腸炎ウィルスの禍に見舞われた世界、ヒーローとヴィランが力を合わせて

希望の活路を切り開き出したことで少しづつ世界も落ち着き出してきた。

 

 ヒーロー側は、すぐにでもヴィラン側が裏切るのではと警戒していたが今の所

裏切りの兆候は見られなかった。

 「おたくらは疑り深いですね~? まあ、こちらとしても組んでる相手に油断されたら困りますが投資した以上の稼ぎを回収してないし安定したシノギを捨てる馬鹿ばかりじゃございませんよ」

 と言うのは、スクランブルエッグの筆頭出資者であるディーラーの弁だ。


 悪さするのもタダじゃない、金返せドロボー! と罵詈雑言を吐いていたのは割愛する。


 だが、人間と言うのは復調してくると調子に乗るものがでてきたりする。

 ヴィランが大人しくなった代わりに、彼らのような特殊過ぎるガジェットや

異能力を持たない一般人のテロリストや犯罪者が悪さを始め出した。

 

 「くそ! パンピーが俺達のお株を奪うんじゃねえ!」

 灰色の肌に赤い瞳、スクランブルエッグの略称である

SEの字が刻まれた迷彩服に身を包んだ男が砂漠の街で民間人の女性と子供を庇いながら銃撃戦に応じていた。

 「くそ! ヴィランの俺が何で女子供守ってんだ! さっさと逃げろ!」

 民間人に逃げるように促す男はグレイスキン、肉体が完全に消滅するほどの

ダメージからでも再生して復活する不死身の怪人だ。

 

 その特性に目を付けられた彼は、一人で危険地帯であるこの砂漠の街に送り込まれていた。


 庇っていた民間人が逃げ出したのを一瞬だけ確認したグレイスキンは

自分に浴びせられる銃弾を避ける事もせず走り出し、肉体の再生で当たった銃弾を跳ね返しながら敵兵へと突っこんで行く。

 

 自分を攻撃して弾切れになった敵兵を殴り飛ばしてはナイフなどの武器を奪い自分の武装を整えて行き街を襲うテロリストを鎮圧した。

 「……これは仕事、逆らったら冷凍刑にされるからだ」

 これまで強盗や殺人などの犯罪を犯していた自分がヒーローの真似事をして

心が揺らいでいる事を誤魔化そうとするグレイスキン。


 だが、この任務をきっかけに彼はヒーローサイドへと転向していく事となる。

 後に刑務所と事件現場を行き来するダークヒーロー、グレイスキンの善性の目覚めであった。


 一方、別の場所でも改心を決意したヴィランがいた。


 月明かりの下、石造りの城塞。

 城砦の四方を見張り塔付きの城壁が覆う壁の内側では二人の人物が剣や弓で武装した無数の骸骨兵士と立ち回りを繰り広げていた。


 長身のグラマラスボディを手足に無数の吸盤が付き顔をガスマスク状の覆面の付いた黒い全身スーツで覆った蛸女と言う形状の女性。


 彼女の名はオックレディ、蛸の能力を持つ女ヴィランだ。

 現在はスーツを着て武装しているが、スーツ無しの生身でも能力を使用できる。

 

 吸盤で壁や天井に張り付いて移動する、伸縮自在の手足を使い空を舞う。

 手足を鞭にして打つ、拳や足の吸盤でハンマーの如きパンチやキックを放つ

と特性を生かした格闘術や口からは粘性や毒性のある墨を吐けると手堅い能力で

強盗やスパイ行為や暗殺と忍者の如く暗躍していた。

 「いくら倒してもキリがないわね!」

 敵の剣戟や矢を拳の吸盤で弾いては殴り返すオックレディ。


 もう一人は腰に短めの刀を差し黒装束に全身を包んだ小柄な忍者、顔は広角レンズ付きの金属製のマスクで隠されている。

 彼の名はテンバツナイト、オックレディとは事件で度々ぶつかり合う忍者のダークヒーローだ。

 

悪の忍者と正義の忍者、二人は呉越同舟のニンニンコンビであった。

 「同感でござる、鬼火ボールの術!」

 素早く両手を合掌して開くと同時に掌から青い火の玉を発射して、骸骨兵士達の一部を粉砕しして道を開く。

 「ワオ! 流石ねニンジャボーイ♪」

 テンバツナイトの技を称賛するオックレディ、テンバツナイトの術に骸骨兵士達は警戒したのか動きを止めた。

 「さっさと城の中へ向かうでござる!」

 仕事を進めようと走り出すテンバツナイト。

 「うふふ、クールぶって可愛いわね♪」

 テンバツナイトに付いて走るオックレディ。


 城内の入り口広間を駆け抜け扉を蹴破り、柱が立ち並び絨毯が敷かれた部屋の中央に金で出来た豪奢な玉座が佇む場所へ侵入した二人。


 侵入者を出迎えるかのように明かりが灯り、金で出来た玉座から黒い煙が立ち上げると煙が人の形を取り始める。

 煙は青白い肌に黒髪の貴族服を纏ったマッチョな中年男性の幽霊へと姿を変えた。

 「嘘! 私、霊感ないのにゴーストが見えてる♪」

 「恐らく本体は玉座、オック殿は玉座を!」

 「ノリが悪いとモテないわよ、ニンジャボーイ♪」

 「余計なお世話でござる!」

 テンバツナイトはオックレディにに図星を突かれ翻弄されつつも、役割分担を行い

散開し戦闘を開始する二人。


 オックレディが金の玉座を壊そうとすれば、幽霊がそうはさせじと彼女に迫る。

 「お主の相手は拙者でござる!」

 刀身にジパン列島の文字で呪文が刻まれたニンジャ刀を抜いて割り込む。

 「サンキュー、ニンジャボーイ♪」

 マスクの下で自分を庇いに来たテンバツナイトにときめくオックレディ。


 幽霊も長剣を作りだして切りかかり、刀を抜いたテンバツナイトと剣戟を始めた。

 「急いでその玉座を破壊して下され!」

 相手の斬撃を刀で受け止め、鍔迫り合いに持ち込み幽霊の動きを抑えるテンバツナイト。

 「待って! この椅子殴っても光り出して壊れない!」

 オックレディが玉座を自慢の拳で殴るも破壊に至らない。

 「もしや? 幽霊を倒すと同時に玉座を攻撃すればいけるのでは?」

 テンバツナイトがある可能性に至る。

 「わかったわ、そっちに合わせる!」

 「では、この一太刀に合わせていただく!」

 テンバツナイトの刀が白く輝き、文字通り白刃一閃の上段からの斬り下ろしが幽霊を断ち切ると同時にオックレディの拳が玉座を粉微塵に粉砕する。

 

 そして幽霊は消え去り謁見の間は静かになった。

 「ミッション終了ね、ヒーローって楽しいかも♪」

 「お主のノリにはついていけないでござる」

 この時オックレディの心に無意識の変化が始まった。

 当人がそれを思い返すのは後のお話。

 

 こうして、オックレディやグレイスキンのようにスクランブルエッグの活動としてヒーローと協力する事でヴィランの中から自身が目を背けて来たりあるいは新たに芽生えて来たなどと善性を目覚めさせる者が現れ始めた。


 彼らは切欠は様々ながらも、ヴィランからヒーローへと人生のレールを切り替えるようになっていった。


 こうしたヒーローへと転向し出した、元ヴィラン達の為の更生施設兼活動拠点である刑務所の設立計画が動き出すなど世界は徐々に変化して行った。


 


 


 

 


 



 

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