――――分かっていた。その時が来たのを。

　すでに覚悟はできている。ずっとずっと、相手からの眼にはひどく大きな憎悪を感じていたから。

　こちらを心底嫌い、憎み、悪意を抱く眼。そんな得体のしれないものが相手のなかに見え隠れしていたのを、昔も今もひどく鮮明に覚えている。

　そんな相手に、疑問と同時に不思議とその怨恨を受け入れてる自分もいて。それがなぜかはわからないけれど、もしかしたら。

　こちらを憎む理由を、その意味を知りたくて目が離せなかったのかもしれない。

　　　　　　　　　＊　＊　＊　＊　＊　＊

　カツカツと少し薄暗い謁見の間に靴の音が響いた。ちょうど少女には見えない位置にある後ろの扉から近づく気配がする。

　また誰かが来たのかと思い、彼女は震える身体を叱咤して落ち着かせながらも身構えた。

　・・・・だが。

　その空元気に振る舞う行為も、新たに現れた者の気配を感じ取れるほど近づいてくるにつれて、すべて台無しになっていく。

　ヒュッと呼吸が消えた。力はとうに消えて動けないけれど、そのことに気づかないほど今はただ狼狽えることしかできない。考えていたことが真っ白になって考えることもできない。

　・・・・もしも理性が、考える力が少しでも残っているのなら。

　今頃相手に向かってたくさんの質問をしていただろう。

　＂どうしてここにいるのか＂。その理由を彼女は知りたいから。

　靴音は少女の隣を通りすぎ、段を登って男の座る玉座の近くにて止まる。静止したのに気づいて顔を上げれば――よく知った顔がその青い目に写った。

　・・・・今すぐにでも詰め寄りたいほどに戸惑いの思いが大きい。けれど、腑に落ちるような、どこかで納得する自分がいる。

　・・・・いずれはこうなる予感が、心の隅にほんの少しだけ凝りのように踏ん反り返っていたから。

　唇に力を入れたあと、少女は紡ぐ。

「……いずれ、貴方とはちゃんとした話をしなければならないと思っていました。顔を合わして心の内をさらけ出すような、そんな話をしなければならないのではないかと」

「……」

「でも、それと同時にきっと話はできないと心の何処かで思っていたのは事実です。きっと貴方は話もしないし肝心なことも教えてくれないって」

「…………」

「――でも、あたしはやっぱり理由が知りたい。どうしてここにいるのか、なぜそちらに立つのか……ちゃんと話をしてほしいと思うのです。…………だから」

「……っ答えてください　　　義兄さま。どうして貴方はそちら側に立っていらっしゃるのですか？」