第2話 事件

五月を目の前にした温かい春の日曜日。夫は私に言いつけられて 家の周りの草刈りをしていた。三方隣家に囲まれた 草がぼーぼーの隙間。塀と家の間は一人がやっと立てる幅。私は鬼嫁と化し、この日のために買っておいた草刈り鋏 (両手を使うタイプのどちらかといえば枝切り鋏か?)を有無を言わさず夫に握らせ、四六四九ねと言った。はい。と素直に外に出た夫。

枝切り鋏の威力は素晴らしい。30分もすると、「 労働の汗はええもんや。」 と言って夫が上がって来た。

お茶でなくビールを一杯。鬼嫁返上。

外に出るとすっかりすっきりしている。刈った草も言いつけ通り片付けてある。夫にしてはきちんとしているな。よしよし。頬が緩む。春だ春 ~ 春爛漫 ~~!

仕事を人にやってもらうってなんて楽なんでしょう!ひとつ伸びをすると、向かいのS家の爺さんと目が合った。

「 こんにちは 」

「あ〜、ご主人帰ってるんだね。えらいね。ご主人。草刈り、でも大丈夫だったの?」

「??」

「あの、さっきさ、御宅の裏手で派手に火花が見えてたけど 」

「 !!!!! 」


この後、私は爺さんになんと言ったのか覚えていない。気がつけばすっかりすっきり寛いで二本目のビールに手を付けている夫が目の前にいた。

「S家の爺さんが火花見たって、どういうこと?」

「あ〜、あれはな、なんや。その、草伸び放題で、見えへんかったんや。紐、て言うか、ほっそいやろ。あれ、なんや線出とったんや。あんなとこにあるの、あれ、あかんわ。」

「あれって何?」

「ケーブルやけど。」(小声)

「ケーブル?てなんの⁈」

「床暖かな、あれは。いや〜、すごかったで火花。鋏のハンドル 木で出来とって助かったわ。」


私は気がつかなかったが、その瞬間、息子達の部屋の電気が消えたらしかった。優しい嫁はもうそこにはいなかった。黙って大阪へと帰ろうとしていた夫。魂がジャガー横田と化して心の中で飛び蹴りをかます。小嘘をついとったんやな!ビールを取り返し一気飲みする。首を回すとこきこき音がした。

「ええやん、温いしもう使わへんし。しばらくほっといたら。」

「はあ~?!!!」(顔は般若)

「そんな怒らんでも、修理代置いて行くやん。連絡して来てもらい〜な。東京ガス か?なおせばええんやなおせば。替えたらおしまいや替えたら。」

。夫を見る目は最早薄目だ。


夫はそそくさと帰阪し、テーブルには中途半端な8000円が残った。

!! ←思い出してまた立腹 !! 言うに事欠いて これで充分やで と言っていた。

修理代はもちろん1万円を超え、私は幾つかのことを学んだ。

夫が平気で小嘘をつく男だと言うことと、ものの相場を知らないと言うことだ。


にやっと笑った S家の爺さんの顔、今も思い出す。爺さんと同じ大学に昼行灯(

長男)が入学した時、よく頑張ったな、えらかったぞ と褒めてくれたことも。

床暖房がいらなくなる頃、無性にS家の爺さんに会いたくなる。

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S家の爺さんとケーブル切断事件 蒼井のばら @rosapascali

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