第14話 不審者注意

 リザ先輩に捕まって昼休憩に自室に戻る時間はなかった。主にペットの猫ちゃんの話で終わってしまったのだ。


 午後は訓練所での訓練から始まった。

 社務所にいるリザ先輩の班とは交互に訓練と事務の業務になる。


 6人の班なので初めは二人一組でストレッチなどの軽い運動のあと体術。勿論、相方さんはアイレン先輩です。


「ちょっ・・・っ!!

 ストップ!!」


 それまで私の繰り出す突きや蹴りを受けていたアイレン先輩が、上段回し蹴りを鼻先スレスレでかわしたところで叫んだ。


「どうかしましたか?」


「これって当てにきてないよね!??」


「寸止めしてますよ。先輩さえ変に動かなければ当たりませんって。」


「うわぁ・・・。

 君って間違いなくヴィダルの妹だね。」


「一緒にしないでくださいよ。

 あっ。」


 タラリとアイレン先輩の鼻から赤いものが。


「当たってんじゃん!?」




 訓練が終わり事務仕事の前に神殿内のお掃除の時間。鼻に詰め物をしたアイレン先輩と訓練所のお掃除をすることになった。


 床を箒で掃いて雑巾で拭く。

 広いので二人で掃除するには結構な重労働。黙々と作業を進めていったので、思ったより早く終わった。掃除用具を片付けて社務所に戻る。


「先輩、お茶淹れますね。」


「ありがとう。」


 平和だ。


 穏やかな時間が流れる。

 縁側で日向ぼっこしてる爺さん婆さんのように先輩5人とお茶を啜る。


 ドォンっ!


 社務所の隣の部屋の方からだ。


 社務所の隣は研究室になっていて、薬草の調合や聖水の精製等をする。

 聞き慣れた音なのだろう、先輩達に動揺はない。


「あれ?今日って誰か来訪予定あった?」


 研究室の奥の部屋に他の神殿を行来できる魔法陣がある。その魔法陣を使って誰かやってきたみたい。

 アイレン先輩が来訪者を出迎えに席を立った。研究室に行くには一旦、廊下に出なければいけない。


 キィンという音の後、社務所と研究室を隔てた壁が部分的にドロリと溶け落ちた。大人一人が通れる程の大きさの穴が空く。

 瞬時に私はその穴に向かってリンゴくらいの大きさの光の弾丸を撃ち込んだ。

 対象物に当たった光の弾丸が音をたてて大きく爆発する。


「!!?」


 先輩達は目を丸くして一斉に私の方を見る。

 空かさず次々に数発の光の弾丸を撃ち、机の脇に仕込んでいた長剣を手にした。

 完全に壁が崩壊し、土埃に包まれている。


「ちょ、ちょっと何しちゃってんの!?」


 アイレン先輩の声に視線で応答し、長剣の鞘を抜いて崩壊した壁に走り突っ込み、斬りかかった。

 壁の向こうの相手に。


 音もなく私の一撃が止められた。


「なんの騒ぎだ?」


 騒ぎを聞きつけグルカン神官長を初め、訓練をしていた他の先輩神官達もぞろぞろと社務所に集まってきた。

 だんだん土煙が治まり人影が徐々にはっきりしてきた。その光景を固唾を飲んで見守っていた先輩達は更に目を凝らしている。


「扉から出入りしてください。」


 振り下ろした剣をそのままに私はその人物に言った。


「あっ!」


 剣の切先を軽々左手の甲で受けながらニヤリと白い歯を覗かせている人物。その正体に気付いた先輩達が声をあげた。


「お父様。いえ・・・。」


 神官の制服に身を包み、白髪混じりの栗色の頭に他の神官よりやや高さのある神官帽。何より金色の瞳が彼が何者なのかを物語っているのだ。


「ビアンコ大神官!!」


 神官達が一斉に姿勢を正し敬礼する。


「お越しとあらば出迎えましたのに。」


 神官長が額の汗を拭きながら未だ組み合っている私達に近付いてきた。


「で、ロザリオ=ビアンコ神官は何故攻撃を?」


 やっと剣を納めて私も大神官に向けて形だけの敬礼をする。


「はい。不審者が侵入したと勘違いしました。申し訳ありません。」


 絶対ウソだろ!?という先輩達の心の総ツッコミが聞こえる。


「いいんだいいんだ。

 誰にでも勘違いとかあるし。

 いや何、急にシンガプーラ神殿の様子が気になってねぇ。すぐ帰るから。」


「はぁ。しかし、お怪我はありませんか?」


「大丈夫だ。」


 神官長との会話に気もそぞろで何やらソワソワして落ち着きのないウチの父。『邪魔だな。何コイツ』みたいな顔で今にも舌打ちでもしそう。失礼な態度とんのやめてよねー?

 シラーっと見てる私と目が合って頬を赤らめたりしてる。うわッ。


「新人神官の研修の視察だから。他の人達は仕事に戻っていいよ。」


 面倒臭そうに頭を掻きながらとうとう言いやがった。ぽかんと立ち尽くす神官達。


 そう、この人がなんでここにいるかというと、要は職権濫用して、ただ娘の研修参観に来ただけなのだ。

 今までの神殿でもこうやって姿を現していたので、こちらももはや慣れっこ。呆れるしかない。

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