第113話 シンシアさんパニック? 後編




 この家は狭い。リビングには女子の寝室と男子の寝室がそれぞれ隣接しているが、寝室は二人寝るのが限界。シンシアさんはリビングに寝袋で寝てもらう事になった。

 リラ達四人が風呂を済ませ、リビングに集合した。シンシアさんは今、風呂に入っていていない。

 オスカーが三人の前に紙束を見せた。

「これだ。ここに置いておく」

 そっとリビングのテーブルの端に置く。他に何も乗っていないし、さっきは何もなかったから目立つはずだ。必ずシンシアさんも気付く。


「では……寝ましょう」

 ナヤがそう言い、四人は自分達の寝室に入った。

 リラは寝室に入ってドアを閉めると、すぐにかがんで床に顔をすりつけ、ドアと床の僅かな隙間からリビングを覗いた。隣にナヤが歩いてきたが、咎めるでもなく、リラと同じように顔を床にすりつける。恐らく、隣の寝室でも似たようなことをしているに違いない。


 リビングのドアが開く音がした。そして足音。リラ達にもシンシアさんの足元が見える。シンシアさんの歩みは、テーブルの端のあたりで止まった。おそらく、紙束を手に取り、中身を確認……

「ぇえっ?!」

 シンシアさんの声と飛び上がるように震えた足元を見て、リラは思い切り吹き出してしまった。

「んぶふっふ!」


 スタスタと足音。シンシアさんの足が近付いてくる。リラとナヤは二人して大慌てで布団に飛び込んだ。

 ガチャリとドアが開いた。

「リラ、ナヤ!」

 二人は今起きた風を装い、体を起こした。おすまし顔のシンシアさんと見つめ合う。声を出すと笑ってしまいそうだ。シンシアさんが何を言うのかと思いきや、したのはこんな話だった。


「ナヤの報告書が書き終わったら、ヒビカさんに会いに連合国の海軍基地に向かうから。荷造りしておいて」


 二人は声を出せないまま黙ってうなずいた。




 *




 シンシアさんの運転する連合国海軍の飛行機。乗っているのはもちろんリラ達四人だ。リラは向かいの座席に座っているナヤに声をかけた。

「どうしたの?」

 ナヤは、報告書の入った鞄を抱きしめ、伏し目がちになっていた。リラの声を聴き、目線を上げる。

「考え事をしていました。……これから先の事を」

「心配か?」と、ナヤの隣のイザック。

「シンシアさんはお前の報告書を見て『充分すぎる成果』って言ってただろ。きっと大丈夫だって」

「私も、きっと大丈夫だと思います。心配なのはそれよりさらに先の事です。本当の娘が見つかったら、お父様は私の事をどうするのか……」

 イザックはナヤの手に自分の手を乗せた。

「どんな結果になっても、俺はお前のそばにいるよ。一緒にハンターとして生きて行こう」

 ナヤが笑顔を返すと、リラも「私もだよ」と続いた。続けて「俺もだ」とオスカーも。リラは思わず「えっ」と目を見開いた。

「本当に? ちょっと意外。あなたはドグウと一緒に田舎に帰るのかと思ってたけど」

「ドグウも大事だが仕事も大事だ。……俺がいるのはダメか?」

「そんなわけないじゃない」とリラ。

「四人でNOILなんだから。じゃあ、これからも四人でやっていけるんだね」

 リラがそう言うと、四人はお互いの顔を見合わせる。地下世界での旅を通して、とても結束の固いチームになった。


「それはそうとしてだ」

 イザックだ。

「これからお前のお師匠さんに会うんだぞ? お前、霊術の修行は……」

「大丈夫だよ」

 リラは持っていた水筒を宙に浮かせ、クルクル回転させて見せた。

「最後に師匠に会った時よりはかなり上達したもの。全然才能がない私がここまでやったんだから、きっと褒めてくれるよ」

「うーん、そうだといいがな」

 リラの言葉に半信半疑のイザック。海軍基地はもうすぐだ。



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