EPISODE 09 会話 II
合宿4日目、5月4日水曜日の朝。
今日から合宿も後半戦、出来れば当初の予定のように6日・金曜日の午後には原稿を完成させたい、その気持ちには変わりはなかった。
しかし俺としては、
「
朝7時過ぎに目覚めた俺は、朝食前に手紙を印刷をしてから食事に行くつもりで、身支度もそこそこに部屋を出て会議室に向かったのだが。
「あ、おはよう、
俺よりも先に
流石にこの状況は俺の想定外だったので、
「……お、おはよう。
少し驚いたような声で返事を返すので精一杯の俺。
何か印刷した紙を数枚、プリンターの
「じゃあ、俺も印刷しますか」
自分のブースに向かった俺は、まず最初に自分の使うパソコンを立ち上げると、昨日のうちに転送しておいたファイルを作業用のパソコンに一旦保存することに。
そうしてから、画像フォルダーの方は圧縮ファイルを解凍する一方で、テキストファイルは文書編集ソフトで開き、会議室にあるプリンターで印刷するようにボタンをクリックしていく。
そして、テキストファイルの印刷が終わると、解凍された画像ファイルを印刷するようにマウスを操作する。
プリンターの動作音が続き、
全ての印刷した紙が出力し終えたところで、プリンターから出力したこれらの紙を回収すると、自分のブースに戻って椅子に座りながら印刷した紙を確認していく。
添付された画像ファイルから出力したものを見ていこうとしたのだが、
「
またもや予想もしていなかった
「……何かあったの?」
「ちょっと、見て欲しいのだけど……」
そう言いながら、液晶モニターに表示された画像を
「
そう俺に語りかけながら、
俺は休憩スペースに置かれている椅子を持ってくると、開けてくれた
「小学校……」
「そうよね、これ」
俺の独り言に反応する
送られてきた画像は、俺が通っていた小学校、家があるマンションから見て南西方向、市民体育館の西隣で
マンションの5階に位置する
画像には、校舎の南に広がる運動場側からの校舎の写真や運動会の競技風景、東棟と呼ばれる市民体育館側に近い校舎、その前(方角で言えば東側校舎の南側)にある水泳で使う25メートルプール、運動会で学校を訪れている地域の人たちが写ったもの等々。
後から確認したのだけど、俺宛に
そして、注意しながら画像を見ていたのだけど、大半が運動会(小学校は地域の人が自由に出入りすることが出来る)の時に撮られたもので、そこに出てくる運動着姿の子供たちは、小学校3年生か4年生のものだったのだが(胸のワッペン、その上段には「学年-クラス」、下段は「各自の
「多分、これが俺と
何枚かの画像、そこに写り込んでいた小学生の時の俺と
また、女子ばかり7~8人で写っていた画像には、
「……これ、私かも」
隣りで一緒に画像を見ていた
「え、
「そう、この子。隣りにいるのが
「
「
そう言われて、指先が示す女の子たちを見てみる。
髪の毛の長さは肩の下辺りまで伸ばした少し
顔立ちとかも「言われてみれば、そうなのかも」という感じなのだけど、俺の記憶の中には無かったように感じたりもする。
その右隣りで、右手で「ピース」サインを作っているのが
黄色というか金色というか、キラキラ輝いていた
送られてきた画像を見ながら、6~7年ぐらい前のことなのに覚えていない小学校3・4年生の自分たちに少し驚いたし、同時に、自分自身も数年前の出来事も覚えていないものだなぁ……と思ったりもする。
「でも、なぜ小学校の運動会の画像を送ってきたんだろう!?」
全部の画像を見終えて、自然とこのような言葉を
小学校の運動会、そういえば
画像を見る今の今まで忘れていたが、その親戚の方が撮った行事の写真とか、姉妹以外にも撮ったモノとか『お
「ところで
モニターに写る画像を見ていた俺に、
「私のところには、こんな感じだった」
そう言いながら、俺がこの
そこには、
『
という言葉から始まるのだけど、その大半が小学校3年生・4年生の時のことを
「手紙、ちょっと待って……取ってくるから」
自分のブースに置いてあるクリアファイルから手紙部分の紙を取り出すと、急いで
「何が書いてあるのか、俺も初めて見るんだ」
「え、そうなの!?私が見てもイイの?」
戻ってくる俺の顔を見上げている
「多分、
こんなことを言いながら、
『
手紙の前半は、
「そういえば、そんなこともあったっけ。
画像の説明を読みながら、こんな言葉をつい漏らしてしまう俺。
そして、俺の言葉を耳にした
「
返事をするように俺に話しかけてくる。
こんな感じで
『それで、運動会前日のこと覚えている?』
と、添付された画像のうち指定された画像を見るように書かれていた。
「「これっ……!?」」
思わず、の声が重なってしまう。
指示された画像は、運動会の前日っぽい雰囲気の学校、その正門から運動場に続く通路、そこに飾られた装飾の前で撮られたものだった。
画像を見て、俺たちが声を上げた後だった。
「おはよう。
「
その声で俺と
「……おはよう、
「2人共、おはよう。こっちに
「で、なんで2人が
「へえっ、
どこか想定外という感じで
「……なんか
まぁ、小学校3年とか4年ぐらいになると、男子女子が混ざって何かをするというのも減ってくる時期だったから、
「う~ん、どうして運動会の前日っぽい
クーラーボックスから果汁100%ジュース、その紙パックの口を開けてそのまま飲んでいた
「
「と言われても、運動会当日ならまだしも、準備の時のことまでは覚えてないなぁ」
「で、
俺に送られてきた画像とほぼ同じモノが
「これ、3年なのか4年なのか、それが分かれば思い出せるかもしれないけど」
流石の
他の画像なら体操服の胸に貼られたワッペンで学年が判別が出来るのだが、この準備の時に撮られた画像、写っている子たちの胸の前にも展示用の板状のものがあり、結果として体操服の胸の辺りが見えないところが
「これ以外に、送られてきた画像とか無いの」
残った枚数が30枚近く(ということは、全部で60枚前後の画像だったのか!)ということで、運動会の準備または撤収の様子が撮られた画像を見ていったのだが。
「あんたたち、小学校の運動会の画像を見てるの?」
予想もしていなかった声が俺の席から聞こえてきたので、俺たち4人は揃って俺のブースに移動すると。
「あんたたちが食堂前にいなかったから、何をしているのか気になってしまったよ」
当然でしょ!とでも言いたげな顔をして、しっかりと制服を着込み出かける準備万端!としている
「それにしても、誰も気づいていないって、余程あんたたちは集中していたんだね」
俺たちに話す
「
「今日は午前中、小論文の講座に行ってくる。午後はここでお勉強予定」
「……そういえば、あんたたちの小学校ってここなのかい?」
「そうですが」
モニターに映っている小学校の画像、それを確認するように見ている
「あたしが6年の時、あんたたちの学校で飾り付けが壊れたとかどうとかで、私の小学校でも運動会の飾り付け、壊れないように何かさせられたのだっけ。この時に腕とかすねとかに
うちの小学校の運動会での出来事が、
「
「そう、6年生よ」
確認するかのように尋ねる
「じゃあ、時間だから行ってくる。原稿もしっかり仕上げなさいね」
パソコンに表示されている時刻表示を見ると、それだけ言い残すと小走りに
「
「俺たちは4年生……だよな」
改めて確認するかのように言葉を交わす俺と
「4年生の時……」
「4年生ねぇ」
再び
「……これって!?」
「多分、そうだと思う」
残り数枚という時に表示された1枚の画像、そこで画像を切り替える手を止めた
表示された画像は、どこかスナップ写真というのか
表示された画像、それが捉えていたものを確認してみると。
運動場に通じる通路に飾っていたアーチ型とか板状とか造形物。
通路に沿って並んでいたのだけど、これが何が原因かは分からないが通路側に倒れていく様子が映っていた。
そして飾りが倒れてきた通路側には体操服を着ていた男女がいて、飾りを背中にして体操服の子に覆い被さるような姿勢をしていた子や、覆い被さった子の下で、後頭部を手で守りながら通路の地面にうつ伏せになる子が映っていた。
「……あ、俺や
画像を確認しながら記憶を
「私と
画像を凝視していた
「急に倒れてきて、背中で支えようとしていたのだっけ、俺たち……」
少しずつ記憶を呼び起こしている時、自分の背中側にある休憩用のテーブルの方向に振り向くと、机の上に置かれたままになっている紅い鉱石が入っている小銭入れが俺の視界に入ってきた。
一昨日と昨日、不思議な現象を引き起こし、俺たちを異世界に移動させたり、過去の出来事を捉えた映像を見せてくれた、魔法とか魔力を秘めている
「何っ!?」
小銭入れに視線を向けた次の瞬間、より明確なイメージというか映像みたいなモノが俺の頭の中に浮かんでくる。
小学校の校舎と運動場を区切るかのように校舎の建物に沿って敷かれている通路。
その両側を挟むように置くために準備された、大小様々な大きさや模様が描かれた
竹かプラスチックのような細い棒でまず長方体を作り、その外側に
そして運動会での飾りは、俺たち子ども(
それら様々な色や形、大きさの飾りなのだが、最初は植え込み側に、次いで校舎側に設置する作業をしている映像を見ていたのだが、何か紐が切れたような音が響いた後、植え込み側の飾りが何らかの衝撃か固定する紐が外れたのか、植え込み側に置かれた大小の飾りが建物側に飾りを付けようとして作業をしていた俺たちに倒れてきたのだった。
この時、植え込みに近い方に男子が、建物に近い方に女子が居た(校舎の建物、その下側で飾りを設置する作業を女子が行い、男子は上側で固定をする作業をしていた)ため、男子が背中で飾り付けを受け止め足下で作業をする女子を守るような形になっていた。
そして倒れてきた飾り付けは長い距離で倒れてきたのだけど、これによって壊れたとかいうものはほとんどなく、破れたとしても修理出来る程度のモノだったのが救いといえば救いだった。
「あ、これが俺じゃないか?」
先生や保護者といった大人たちが、男子たちの背中に乗っかっている飾りを丁寧に地面に置いている中、今よりも幼い顔をした小学校4年生当時の俺や
そして、俺たちが覆い被さっている身体の下には、女子の伸ばされた髪の毛とかが見える。
俺の背中にあった飾り付け、上下別々で作られたものだったらしく、下の方の飾り(と言っても、その小学4年生の俺の腰辺りまである大きさだった)と上の飾りを繋ぐ
「今、持ち上げるから我慢しろよ」
俺の後ろに来た大人たちが、分離しかけている飾り付けを背中から取り除こうとしている。
「……えっ!?」
俺の身体の下で身体を少し動かし作業をする大人を見上げる女の子、それが小学4年生の
小学校の時に接点は無いと思っていた
「あ、君、少し擦り傷から血が出てる。誰か来てくれ!」
地面に伏せていた
「君もほっぺたに傷があるじゃないか!」
保健室の先生と一緒にやってきた保護者らしき大人が、俺の右ほほに出来ていた傷を見て(これは記憶にも無かったなぁ)、俺の手を引いて保健室に行くように
「ほらっ、こっちに来なさい」
一足先に女性の保護者の方に手を引かれて校舎内に入っていく
校庭側にある出入口に小学生時代の俺や
「これは……夢じゃないよね」
これまで俺たち4人が巻き込まれた色々な現象を思うと、俺だけが見えている訳がない……この数日間の出来事で、俺はそう考えるようになっていた。
「……何が原因で飾りが倒れたのだろう。覚えてないなぁ」
誰に話すわけでも無く、ふとこんな言葉を漏らしてしまう俺。
それにしても、誰かが何かをした結果、数メートルの長さの間に置かれていた飾り付けが全て倒れてしまうことになり、その際、俺と
「……まずは朝ご飯を食べて、頭にも栄養を回さないと。原稿もしないといけないし」
気がつくと、
「運動会のことは、今日の分の原稿を終わらせてから考えよう。
俺たちが朝食バイキングの会場に着いた頃には、やはり
きっと、会議室から出た後、バイキング会場で朝食を済ませてから予備校に向かったのだろう。
俺たちは4人がけのテーブルを押さえることが出来たので、それぞれ思い思いに好きなものを取ってきては食べることに。
食事中、女子2人のところに「朝ご飯はしっかりと食べなさい」とメッセージが送られてきたというのを聞くと、
いわゆる『
そんなことが、ふと、頭の中をよぎったりする。
とはいえ、今日に関して言えば、俺が普段食べないミカンやバナナといった
朝起きて、いきなり色々と消化しなければならない情報量が多すぎた分、朝ご飯を前に
実際、俺もいつもより多めにおかず類(焦げ目が付いているフランクフルトとか)を食べているので、俺自身もエネルギーを使ってしまっていたのだろう。
そんな合宿後半の始まりとなる4日目の今日、食事を終えて取りかかった原稿の進み具合は快調そのものというか、午前中に終わらせる分の原稿を4人共に仕上げることが出来たのだった。
その後昼ご飯を食べたのだけど、食堂のランチメニューだけで腹が満たされなかった俺は、先輩が差し入れてくれたカップラーメンを1つ手に取ると、会議室にある給水器でお湯を入れて食べたのだった。
そして、腹が減っていたのは
お腹が空いた時、
気がつくと、
そうして満腹になって少しクールダウンしている俺たちが思い思いに休憩していると、「帰ってきたよ」とご機嫌そうな笑顔で
「「「「おかえりなさい」」」」
4人揃って
「なに、あんたたち。4人とも『満たされている』って顔をしてるじゃない」
ケラケラと笑いながら話す
「そろそろ午後の作業開始時間じゃない?お腹が満腹で睡魔に負けないようにね」
そう言うとくるりと振り返り、昼食を食べに
相変わらずテキパキ行動するところは、さすがは
そうして午後1時になり4人共に原稿制作を再開したのだが、俺はと言えば、確かに満腹になったためか午後2時を過ぎた辺りから少し眠たくなってきたのだが、コーヒーを飲んだりして眠気を回避し、どうにか睡魔から持ちこたえたのだった。
午後4時のおやつ休憩の時、俺以外の3人も「少し眠たかった」と言っていたので眠気を抑えながら原稿を作っていたのだろう。
普段はコーヒーを飲まない
かと思えば、
俺も一口食べてみたのだが、レモン独特の酸っぱさが口の中に広がり眠気を解消するには効果がありすぎるように思った。
そして夜6時、アラーム音がヘッドフォンから響いてきたので俺たちは作業を終えたのだが、『こどもの日』である
「あれ、あんたたち、いい顔してるじゃない」
会議机で赤ペン指導の入った小論文の用紙、それを読んでいた
そう言われてブースから出てきた
「本当に、明後日の金曜日に入稿出来そうかも」
「いえいえ。ちゃんと確認した上で土曜日に行きますよ」
何気なく話しかけてくる
「今日の晩ご飯は何だろな?」
「最初の晩に食べた水炊きでもいいかも」
「
会議机の
「あとは、晩ご飯を食べてお風呂に入ってから……にしようよ」
追い詰められると厳しい顔になる
「そうよね、一度整理して考えてみましょ」
そう言う
「ほらほら、一度部屋に戻って準備出来たら受付前に集合だよ」
「「「「は~い!」」」」
「お、みんな居るのか」
受付前で集まった俺たちの姿に気づいた西尾先生が近づいてくる。
その先生の後ろには、先にどこかに移動するご家族の姿も見える。
「どうだ、原稿は順調に進んでいるか?」
「はい、土曜日には入稿出来る見込みらしいです」
俺たちの顔を一通り見渡した後、自信ありげに
「そうか、なら土曜日まで休ませてもらうわ」
家族サービスをしている感じの西尾先生も自然な笑顔を返してくれる。
「じゃあ、無理だけはするなよ」
そう言い残して受付前から離れる先生の後ろ姿を、「大人だなぁ」と思いながら見ていた俺だった。
「……私生活でも『仏の西尾』だったとは」
先生と別れてから大宴会場に向かう間、そう言った
「でも、叱るときはものすごく厳しくなるらしいよ」
先輩から聞いた話だけど、と
「叱ったところって想像が付かないね」
「でも、奥さんも優しそうな感じだったね」
授業とかでも、叱るというより
大宴会場の入口に着くと、食欲を誘うような匂いがしてくる。
(まずはしっかり食べて、運動会のことは後で考えよう)
部屋に入ろうとしたその時、
「お、真人。今日は鶏の水炊きだぞ!お前が好きな」
「本当か!?これはご飯を食べ過ぎるかも」
普通に部活を楽しみたい あずみ るう @azumiruu
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