第89話  手紙

 セリカに貴族郵便ではなく、郵政局のスタンプが押された手紙が届いた。


何回目かのベッツィーからの手紙だ。

セリカはワクワクして手紙を開いた。


『こんにちは、セリカ。こちらは皆、元気にしてるよ。セリカは元気ですか? 風邪などひいていませんか? 今日は大ニュースがあります。私、妊娠したみたい。セリカは伯母さんになるんだよ~。』


これには、びっくりした。

弟のカールが、お父さんになる?!


信じられないね。


― そうだね。

  カールは小さかったイメージが強いもんねー。



手紙は、まだ他のニュースも伝えていた。


『おばさんといえば、アン叔母さんの家にギルクリスト・コロンさんが帰って来たんだって! お義母さんたちが大騒ぎしてたよ。』


ギルクリストは、何十年も行方知れずだったアン叔母さんの旦那さんだ。


セリカも小さい頃に何度か会っただけなので、顔も姿もおぼろげだ。


それは大騒ぎになるだろう。

特に母さんたちの兄になるテト伯父さんは、アンをないがしろにしたと言ってずっと怒っていた。

殺傷沙汰になっていなければいいけど…。



一度、ダレーナに帰ってみたほうがいいかな?


ダルトン先生がウォーターストーンの出所も気にされてたし、アン叔母さんに詳しく話を聞いてみるのもいいかもしれない。



セリカはベッツィーからの手紙を見せて、お昼ご飯の時にダニエルに相談してみた。


「帰るのはいいけど、レストランの方は大丈夫なのか?」


「することはたくさんあるんだけど…。でも昨日、改修業者に大まかなアイデアは伝えてるから、設計が出来てくるのを待ってるの。今なら二、三日は行ってこられるかな。」


「それなら行っておいで。結婚式から一か月ほど経ってるから、里帰りのいい頃合いかもしれない。私は奏子のアイデアを形にしないといけないから、一緒に行けないけどね。」


ダニエルは貴族の魔電力事情を改善した時の経験を生かして、今度は平民が使える電力や電気機器の開発をしている。

永久回路だとか電気抵抗とか電磁力とか、なんか難しいことを言ってたけど、セリカにはさっぱりわからない。



ダニエルのお許しが出たので、セリカは翌日ダレーナに帰ることにした。


ダレニアン伯爵家に帰ることを念話で伝えようとしていたら、ダニエルが研究所から念話してきてダルトン先生も一緒に連れていってほしいと言ってきた。


ダルトン先生…よほどウォーターストーンのことが気になってるのね。




◇◇◇




 翌朝、ダルトン先生が魔導車でラザフォード侯爵邸にやって来たので、セリカは一緒にダレーナに向かって出発した。


「せっかくの里帰りに便乗してすまんのぅ。じゃがどうしてもあのウォーターストーンのことが気になってな。あそこまでの魔結晶はどこにでもあるもんじゃない。」


「いいんですよ。私もアン叔母さんの家に行ってみようと思ってたのでついでです。」



ダルトン先生とは、道中に新婚旅行での出来事についても話をした。


「そうか。ブラマー伯爵とディロン伯爵は、まだ情勢が見えておらんな。わしは中央に住んどるから、王宮が大きく様変わりしていく噂をよく聞く。ビショップ公爵もそろそろ引退の頃合いじゃな。それはそうと、面白い姉弟を見つけたらしいな。」


「見つけたっていうか…。思ってたよりケリーとウィルの魔法量が多かったので、ダニエルが今、事情を調べさせてるみたいなんです。ダルトン先生、私たちのように平民が急に魔法を使えるようになるということが、今までもあったんですか?」


「いや、わしは聞いたことがない。特にセリカさんのような経緯はまれじゃ。前世の、ましてや異世界の魂の記憶人格が同居しておる例なぞ、今後もなかろう。セリカさんは言わば珍種じゃな。」


「…珍種。」


なんだか自分が途轍もなくヘンテコな人間のような気がしてきた。

セリカとしては、物心ついた時からこんな状態なので、深く考えたことがないのだが…。



「ケリーたち姉弟は、貴族が関わっておる線が濃厚じゃな。しかし二人も子どもができているというのが、珍しい。セリカさん、ファジャンシル王国の貴族に子どもができにくい話は聞いたことがあるか?」


「はい。ダレニアン伯爵家のペネロピから、そんなことを聞きました。マリアンヌさんに二人目ができたのは珍しいと…。」


ダルトン先生は大きく頷いた。


「マリアンヌ・ウェルズは北部帯の東に近い所に住んでいた。ウェルズ伯爵家は東のオディエ国にも北のトーチラス国にも近い。つまり何代か前には他国の貴族との混血があったのではないかと、わしは思っとる。」


「混血ですか。」


「そうじゃ遺伝子を研究しとる人間の中には、貴族間同士での婚姻が何世代もに渡って続いてきた結果、子どもが生まれにくくなっているのではないかと警鐘を鳴らしている者もいる。今は貴族の数も減っておるので、余計にその状態が加速するのではないかと危惧しとるんじゃ。現にダニエルの養母のシャロンには子どもができなんだ。公爵家などは特に結婚相手が限られるからの、その傾向が強くなる。」


「…それで、奥さんをたくさんもらうことになったんですか。」


「そうじゃ。こういう制度になってきたのは五代前のファジャンシル十世王の頃からじゃな。」


「ああ、改革王ですね。」


「よし、歴史を覚えとるようじゃの。フロイドも喜ぶわい。わしとしてはその懸念もあって、外国人の母を持つジュリアン王子ら兄弟三人と平民の親を持つセリカさん達に期待しとるんじゃ。そのケリーたち姉弟も希望の星じゃな。」


…ダルトン先生ったら。

私たちは実験動物じゃないんですけど…。


でも科学者って、こんな人たちなのかも。



魔導車は一刻もかからないうちにダレニアン伯爵邸に着こうとしていた。

セリカは馬車の窓から、故郷の山や川を懐かしく眺めていた。

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