第68話 残念美少女、遠足に行く10

 私はハイエク先輩に連れられ、広場に集まった先生たちの所に近づいた。


「ハイエク君! その子はどうしたの?」


 私が見たことがない高齢の女性が、先輩に話しかけた。

 きっと貴族科の教師だろう。


「彼女も、防衛戦に参加するようです」


「「「ええっ!?」」」


 驚いた声を上げたのは、平民科の先生たちだ。

 魔術実技を受けもつカリンガ先生が私を指さす。


「この子は、まだ魔術もろくに使えないんですよ!」


 いや、あんたの前で使ったことがないだけだから。


「そうです。転校から間もなくて、ワンドさえ持ってないんですよ!」

  

 そう言ったのは担任でもあるシシン先生だ。

 

「このレイチェルを防御戦に参加させよというのは、学園長の指示なんじゃ」


 トゥルースさんの言葉でも、シシン先生は黙らなかった。


「いくら学園長といえども、レイチェルさんにそんなことをさせる訳にはいきません」


「ほう、あんた、『黒き魔女』ヴェルテールに逆らう気かの?」

 

 トゥルースさんの声は、面白がっているようにも聞こえる。


「わ、わ、わ、私は、自分の命を懸けても、この子を戦いに参加させません!」


 まっ青になったシシン先生は、ガタガタ震えながらもそういった。


「仕方ないのう。この嬢ちゃんを戦いに参加させるよう頼んできたのは、王室じゃよ」


「えっ……」


 シシン先生は、驚きの余り口を開けたままじっとしている。

 

「そういうことじゃから、お前さんが何と言おうが、レイチェル嬢ちゃんには協力してもらうぞ」


「そ、そ、そ、そうはいっても――」


「シシン先生、あんたは、この嬢ちゃんが魔獣と戦うには力不足だと思うておるのじゃろ? はっきり言っておくが、この戦いでお前さんらの全てが死んでも、間違いなく彼女だけは生きのこるじゃろ」


 シシン先生は、さっきから見せている驚いた顔のまま私と目を合わせる。


「レイチェルさん、あなた一体――」


 トゥルースさんが手を二度うち鳴らしたことで、シシン先生の質問はさえぎられた。


「時間はないぞ。打ちあわせどおり、宿泊所の周りに散らばってくれ。西、北、東に配置された者は、魔獣の攻撃が薄いようなら南に移動する。よいな」


 先生たちがその言葉に頷き、ローブからワンドを持つ手を出す。

 そのワンドをみなが円陣の中心で交差させた。


「神樹のご加護あらんことを!」


「「「神樹のご加護あらんことを!」」」


 こうして、私は先生たちと共に宿泊所を守る戦いに参加することになった。


 ◇


「レイチェルと言ったか。そう言えば、お前、学園からここに来るまでに魔獣を倒してたな。あれは、修行の成果か?」


 宿泊所の外側、その一番南に配置された、ハイエク先輩と私は、並んで森の方を見ている。

 先輩が話しかけてきたのは、魔獣がやってくるまでの時間つぶしの意味もあったのだろう。


「いいえ、ここに来て初めてトゥルースさんに会いました」


「……なるほど、元から能力が高かったのか。それで師匠が教える気になったんだな。あの方は、よほどの事がないかぎり弟子は取らん」


「先輩はどうやってトゥルースさんと知りあったんです」


「あの方は、ウチの遠い親戚筋に当たっていてな。学園に入ってから、俺がずい分やんちゃしてたのを親父が見かねて、彼に泣きついたそうだ」


 彼は微笑をうかべ、当時を思い出しているようだった。


「魔術と剣、両方の才能があった俺は天狗になっててな。なんでも力で解決しようとしてたんだ。師匠には手も使わずひねられたけどな、あははは」


 彼の笑いは、爽やかなものだった。


「修行を始めてから、師匠以外と全力で戦ったことはないんだ。今日は、久々に思う存分暴れるぜ」


 爽やかな笑顔から一転、凶暴な顔になった先輩は鬼のようだった。


「近いわよ!」


 中年の女性は、貴族科で魔法実技を受けもつ先生だそうで、右手でぎゅっと銀色のワンドを持っていた。


 森がざわつく、そのあちこちから鳥が飛びたち、空へ昇っていく。

 どうやら魔獣の群れがそこまで来たようね。


 ◇


 森から最初に出てきたのは、数匹のフォレストウルフだった。

 大型犬ほどあるやつが、よだれを撒きちらしながら突進してくる。

 その数頭が氷の柱に閉じこめられる。左手にいる貴族科の先生が魔術で仕留めたらしい。


 ハイエク先輩は、凄い勢いでフォレストウルフに向かっていった。

 

 ブンっ


 青い光を残した長剣に、フォレストウルフの頭部が宙に舞う。

 見事な斬撃だった。

 私は、待っている間に拾っておいた、クルミの実ほどある丸石を投げる。


 ぎゃんっ


 石はフォレストウルフの鼻面に命中した。

 投石つぶては、私の名前の由来でもあるからと、マサムネ兄さんが手取り足取り教えてくれたのだ。

 そんなことを思いだしてニヤニヤしていると、少し右手にいたカリンガ先生が、驚いた顔でこちらを見ていた。

 なんでだろう。

 抱えていた石が尽きるころ、左にいる貴族科の先生が大声を上げた。

  

「あれはっ! ゴブリンが来るわよ!」


 森から姿を現したのは、手に短剣や棍棒を持った背の低い人型の生き物だった。

 そいつらは木立から次々に現れると、私たちと森の間を埋めつくした。

 これって、ちょっと数が多すぎない?

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