第33話 残念美少女、儲ける


 自分がお風呂に入りたいがため立てた企画、『銭湯を作ろう』は、思いもかけぬ成功を見せた。

 最初は『アヒル亭』のおかみさんや、服屋のお姉さんなど、知り合いだけが訪れていたが、口コミのおかげか十日もしないうちにお客さんの数が増えてきた。

 大きなお風呂を体験した後では、タライでの入浴はもの足りないのだろう。リピーターがものすごい勢いで増え、二十日ほどすると終日満員となった。

 お風呂だけでなく、お風呂に入ったあと、二階の大広間でお茶やお菓子を楽しみながらくつろげるのも人気の理由らしい。

 

「いやー、やっぱりお風呂は気持ちいいわー」


 広い湯船で、思いきり身体を伸ばす。 

 私の横には、お湯から首からだけ出したドンがいる。

 一番風呂と仕舞い湯は、毎日二人だけで入ることにしている。

 これは、お湯の温度調節と汚れの除去も兼ねている。


「ドン、だけどあなた、疲れない?」


「あのくらいの事では、ほとんど魔力を使わないから大丈夫だよ、お姉ちゃん」


 ドンは、中二階にあるタンクへ水をくみ上げ、その水をお湯にするという作業も、毎日こなしている。

 

「ドン様~、おカラダ洗いっこしませんか?」


 マイヤーンが、ドンにしなだれかかる。

 この銭湯は、浴槽が二つ無いから、男女混浴となる。

 そのため、男性も女性も、浴衣のような白い薄物を身にまとって入浴する決まりだ。

 それなのに、マイヤーンは、なぜかいつも全裸で入浴する。

 やっぱり、エルフはエロフか? エロフなのか?

 まあ、お姉ちゃんは、妹の裸が見れて嬉しいが、ぐへへ。


 ポチ(カニ)たち『美少女なのに、中身はおっさん?!』   


 ちなみに、カニたちは、竹かごに似た入れ物に入れている。

 浴槽のお湯が掛からない位置に置いてあるから、みんな上機嫌だ。


 ポチ(カニ)たち『みんな湯気でのぼせて、フラフラしてるんですけどっ!』


「ねえ、お姉ちゃん、あの後ろの絵は、なーに?」


「ドンよ、よくぞ聞いてくれた。あれぞ、日の本一を誇る富士山ぢゃ」


 ポチ(カニ)たち『『『誰っ?』』』 


 浴室の壁いっぱいに大きな富士山が描かれている。これは画伯の仕事だ。

 画伯とは誰かって?  

 私だよ、ツブテ画伯だ。


「だけど、山と較べて卵の黄身が大きすぎない?」


 マイヤーンは、絵心が無いようだ。

 あれは卵じゃなくお日様だ、残念エロフよ!


 ポチ(カニ)たち『残念なのは、あんたの絵だ!』   


 しかし、入浴料を銅貨二十枚、つまり二千円にしたのに、連日お客さんが満員だ。

 いくらでもお金が入ってくる。

 大判小判が、ざっくざくなのだ。

 まさしく、ウハウハなのだ。


 ポチ(カニ)たち『やっぱり、おっさん?』


 しかし、絵に描いたような、のほほんとした毎日は長く続かなかった。


 ◇


 ある日、疲れた感じの男たちが、銭湯を訪れた。

 まだ若いのに無精ひげを生やした三人は、風呂につかるなり、悲鳴のような声を上げた。


「ひ~、気持ちいい~」

「く~、生き返るようだな~」

「う~、死ななくてよかった~」


 三人はかつて王都で騎士をしていたが、国王の逆鱗に触れたため、その身分をはく奪され、一兵卒として辺境の警備に送りこまれていた。

 この日は、やっと手に入れた休暇をつかい、なけなしの小遣いをはたいてまで、噂に高い『セントー』へやって来たのだ。

 久しぶりに生きかえった気分になった三人は、番台でお金を払う段になり、驚きの声を上げた。


「「「ああああああっ!」」」


「どうしたの?」


 番台には、彼らが降格される原因となった黒髪の美少女が座っていた。

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